新境地見つけた武藤嘉紀に爆発の予感
© photograph by AFLO 原口、久保、乾らがひしめく3トップの両サイドだが、武藤嘉紀の裏へ抜ける力は独自の武器と言えるだろう。
こちらが圧倒されるくらいのペースで、次々と言葉が出てくる。今、そんな迫力を備えているのが、日本代表に復帰を果たした武藤嘉紀だ。
武藤が最後に代表戦に出場したのは、昨年9月6日のタイ戦。試合最終盤の8分間だけの出場だった。その前の出場となると、'15年11月のシンガポール戦までさかのぼる。
'14年ブラジルW杯のあと、慶應義塾大学の学生として代表デビューをしてすぐに初ゴールを決めたときの喧噪が嘘だったかのように、周囲はずいぶんおとなしくなった。
彼は何を考えているのか。
先日、マインツの練習場を訪れると、精気みなぎる武藤の姿があった。
練習をおえると、グラウンドからロッカーへ戻る途中の坂道の脇にある段差に腰かけた。練習で全てを出し切ったあとだったからだ。しかし、落ち着いてから紡ぎ出すその言葉はパワーにあふれていた。
昔は「強ければいいじゃん!」と思っていた。
パワーの源泉は、苦しんだ時期を乗り越えたという感覚だろう。
2016年の2月に右膝の外側靱帯を痛め、2016年を通してリーグ戦で6試合、ELで2試合、代表戦で1試合、合計9試合しか出場していない。
23歳から24歳にかけて、サッカー選手にとって重要な時期に、わずかな試合しか出場できない苦しい時間を過ごした。
だがあの期間は、武藤は考え方を変えるきっかけになった。
「以前は、一流の選手が『サッカーは、メンタルのスポーツだ』と言うのを聞いても、『何を言っているの。上手ければいいじゃん! 強ければいいじゃん!』と思っていたけど、最近思うのは、まさしくメンタル面が大事なスポーツだなということ」
そこまで話すと、武藤は力をこめた。
「ミスしてもいいから自分の力を100%」
「やっぱり、ポジティブな考えを持っていないと、前向きなプレーができないわけよ。前向きなプレーができないというのは、要するに自分らしさを失うということ。自分らしさを失ったら、その時点で勝負する土俵に立てていない。それはもったいないでしょう。ミスをおそれて自分の力を100%出せないくらいなら、ミスしてもいいから自分の力を100%出そうと考えるようになったんですよね」
ターニングポイントとなったのは、今年の4月5日、RBライプツィヒ戦だった。67分から途中出場するも、チームは14分後に失点して1-3と2点のビハインド。その時点で、チームにはあきらめムードが漂っていた。
「あの試合は途中から出て今日はチームが負けているし、とにかく自分だけでも結果を残そうと思っていたんですよね。とにかく、自分で仕掛けていって、自分のためにやろうと思っていた。そこでなんかきっかけがつかめて、気持ちがやっぱり大事かもしれないと思うようになった」
この試合、後半ロスタイムに武藤はゴールを決めた。チームは敗れたものの、それまでの厄を取り払うような一発となった。
「呼ばれないとおかしい」と言われるレベルの活躍を。
そこからは、残留争いに巻き込まれるシーズン最終盤の8試合で3ゴール、2アシストを記録した。
それでも、6月の代表戦のメンバーからはもれてしまった。
「監督というのは好みもあるし、いくら試合に出て結果を出していても、呼ばれないときは呼ばれないじゃない。じゃあどうするか、ということでしょう。これだけ結果を出しているんだから、呼ばれないとおかしいとみんなに言われるくらいに突き抜けないといけない。結局それって、自分自身の進化のためにも必要なことでしょう?
自分で仕掛けられるところでパスを出して、良い方向にいけばいいけど、パスを出したあとに味方がミスをするかもしれないし。そうなったら結局、自分のパスも意味がなくなってしまう。それなら自分で打って外した方が良いでしょう、と。今はそれくらいにエゴイストになれているし。結局ね、コンディションを上げたいと思っても、練習でも試合でも自分から仕掛けていかないと、上がっていかないわけよ」
「今はね、頼むよ呼んでくれと自信を持って思える」
だから、今の武藤は胸を張る。
「コンディションはいい」と。
実は6月の日本代表の活動期間中、代表選手たちが練習をするかたわら、武藤はオフに入らずに1人で黙々と練習を続けていた。怪我人が出た場合のみ招集される予備メンバーだったからだ。あの時期の感覚があるからこそ、今の武藤は明確なイメージが頭に浮かんでいるという。
「あの時期はみんなとは一緒にやれていないで、1人で練習しているだけ。そんな状態で仮に呼ばれても、大丈夫かなという不安があった、だけど今はね、頼むよ呼んでくれと自信を持って思えるから。今度の試合だって、オレは途中からだっていい。みんなが疲れているところにオレが入っても、点を決めてやるんだぞという感じで試合に入っていく姿も全て想像できているから」
ハリルホジッチ監督は、オーストラリアとサウジアラビアとの2試合にむけて、9人のFWを招集した。1人の選手を複数のポジションで使おうとするタイプの監督ではないが、それでも武藤については、左FWとセンターフォワードの両方のポジションで使う可能性をにおわせている。それだけに合宿が始まってから、監督は武藤の状態をつぶさに観察することになる。
準備は出来ていると語る武藤が、ここまで味わってきた悔しさを、たくわえてきたパワーを、爆発させたとしても決して驚かない。
