オリの若手投手が伸びる陰に山崎勝己

一軍こそがプロ野球の晴れ舞台である。しかし陰で支える山崎勝己のような人間がいなければ、その輝きは続かないのだ。 © photograph by Kyodo News 一軍こそがプロ野球の晴れ舞台である。しかし陰で支える山崎勝己のような人間がいなければ、その輝きは続かないのだ。

 今年のオリックスの二軍には、近い将来、世間を驚かせる可能性のある20歳前後の生きのいい投手がゴロゴロいる。まさにエース候補を育成する農場(ファーム)となっている。

 そこでコーチとは違った立場で若手投手を教育しているのが、ベテラン捕手の山崎勝己だ。

「高卒ルーキーの3人、山本(由伸)、山崎(颯一郎)、榊原(翼)がいい球放ってますよね。その影響を受けて、2年目3年目のピッチャーが『もっとやらないと』となって、いい効果につながっていると思います」と嬉しそうに言う。

 2年目の20歳の右腕・吉田凌も、ルーキーにお尻をたたかれている1人だ。現在、ウエスタン・リーグで8試合に先発し4勝2敗、防御率1.23という好成績を収めている(6月28日時点)。

 その吉田は、「勝己さんは本当に投げやすい」と山崎に絶大の信頼を寄せる。

「勝己さんの言う通りに投げれば、まあ打たれることはないだろうという信頼感があります。例えば、『ここゲッツー取りたいからスライダーでいくよ』と言われて、『ハイ』って投げたら、その通りにゲッツーを取れた。『な、言ったやろー』、『ハイ! いつもありがとうございます』って感じです。

『あとあとのことを考えて、先にこれ使っとくよ』というふうに意図を言ってくれるし、不意にツーボールになったら間(ま)をとって、『凌、ここね』ともう一度スイッチを入れさせてくれたりする。やっぱり経験が違うなーと感じます」

 山崎は、「若いピッチャーはなかなか一軍で投げる機会が少ないから、ファームの試合でも、ただ単に抑えるんじゃなくて、一軍に行ってやるべきことを今から意識してやらせるということは、心がけています」と言う。

ピッチャーが投げたい球で、駆け引きする。

 3年目の20歳、鈴木優もこう話す。

「バッターとカウントだけで配球をされるとなかなかきついんですけど、勝己さんはピッチャーのことも要素に入れて考えてくれて、ピッチャーが投げたい球を投げさせながら、バッターとの駆け引きもしてくれます。打たれても、『オレの配球が悪かった』と言ってくれる。これだけ歳が離れていてもそう言ってくれる人って、すごいなと思いますし、話していても勉強になります」

 厳しいコースばかりで勝負しなくてもいいように、前々から布石を打ち、投手が楽な状態で勝負できるようリードする。特に若手にはありがたい包容力のある女房役と言えるだろう。

一軍から落ちた投手に「キャッチャーと話したか?」と。

 2年目の22歳、青山大紀は、5月19日の北海道日本ハム戦で今年の一軍初登板が巡ってきたのだが、4回3失点の結果に終わり、翌日、降格となった。

 その時ファームにいた山崎は、戻ってきた青山に、「上で、ちゃんとキャッチャーと話してたか?」と声をかけたという。

「話さずにやると、やっぱり普段組んでいないキャッチャーは僕がどういう攻め方をしたいのかがわからないので、バッターだけのデータになってしまうから、ちゃんと話さなきゃいけないって。そういうフォローもしてくれるんです」と青山は感謝する。

 自分がマスクを被っている時に限らず、投手個々が力を発揮するためのアドバイスを惜しまない。

 山崎は、報徳学園高から2000年のドラフト4位で福岡ダイエーに入団した。2010、11年には杉内俊哉、和田毅といった球界を代表する投手とバッテリーを組みソフトバンクのリーグ連覇に貢献。日本シリーズでもマスクを被り日本一も経験した。その後、'13年のオフにFAでオリックスに移籍した。

「勝己さんと組む時は、なぜかフォークが落ちる」

 通算打率は1割台(.197)で、特別肩が強いわけでもない。それでも優勝を経験し34歳の今も必要とされているのは、投手を活かす深遠なリードやコミュニケーション力があるからだ。

 また捕球技術も確かだ。ワンバウンドしたボールもグラブに吸い付くように受け止める。吉田凌は、「勝己さんと組む時は、なぜかフォークが落ちるんです」と言う。

「だから三振やゲッツーを取れて楽なんです。たぶん、ワンバンを投げても絶対止めてくれるという信頼感があるから、ガンと落とせるんだと思います」

 オリックスに移籍後は、ブランドン・ディクソンとバッテリーを組んだり、試合終盤のリードを任されることが多かった。昨年のシーズン前半は出場機会を増やしていたが、チームが最下位に沈んだこともあり、後半は20歳(当時)の若月健矢と入れ替わるようにファームで過ごした。それでも腐ることなく、自分のいる場所でやるべきことに力を注いだ。

年俸66%ダウン提示にも迷わずサイン。

 昨年8月、こんな光景を目にした。当時、ファームでまだ1勝も挙げられず苦しんでいた吉田凌に、山崎が声をかけた。

「次、いつ投げんの?」

「名古屋の3戦目です。お願いします、勝己さん。自分まだ0勝なんで」

「え? お前まだ勝ってないん? 抑えてるのにな。わかった」

 その後、9月のウエスタン・リーグで吉田は山崎とのバッテリーで2勝を挙げた。

 昨年の一軍出場は43試合に終わったが、後半はそうやってファームの若手に自信を与えるなど、個人成績には表れない部分でチームに貢献していた。

 しかし昨年オフ、球団からは年俸の減額制限を超える66%の大幅なダウン提示を受けた。それでも、他球団への移籍や、他の道に進むことはまったく考えなかったと言う。

「契約してもらえるなら、と思いました。やっぱり一軍で出てなんぼの世界ですから、ファームでなんぼやっても、給料はもらえないと思います。それが実際の評価だから、しょうがない。招いたのは自分だから」

 今年は一軍と二軍を行ったり来たりのシーズンとなっているが、どちらにいても、ベテラン捕手は献身的にチームを支えている。

 山崎が言うように、プロである以上、一軍で結果を残すことが求められる仕事であり、選手自身が目指すところでもある。ただ、ファームにいる間も、チームの未来を背負う若手にせっせと肥やしを与え続けるベテランの姿にも、たまにはスポットライトが当たってもいい。

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