ヘッジファンド、今年は欧州で荒稼ぎ
昨年の米大統領選後、米国に投資すれば大きな利益を上げられると話していたヘッジファンド運用担当者は多かったが、いま実際に利益をもたらしているのは欧州だ。
世界のヘッジファンドの中には、米国株に比べて長く出遅れていたイタリア株、フランス株、スペイン株への投資で年初来リターンが20%を超えるものもある。米調査会社ヘッジファンド・リサーチ(HFR)の最新データによると、ヘッジファンドの今年1〜5月の平均リターンは3%にとどまる。
米ルーサーン・キャピタル・マネジメントの創業者、ピーター・タセラー氏は「昨年は欧州関連の買い持ち高をかなり積極的に積み上げた」と話す。事情に詳しい関係者によると、同社の主力ファンドは6月15日時点の年初来リターンが20.5%に上る。
欧州市場の回復が続けば、世界市場の光景は一変するだろう。欧州株式市場の多くはいまだに2007年の高値を下回る。ユーロ相場と英ポンド相場はさえない展開が10年も続く。
ユーロ圏では、1-3月期の域内総生産(GDP)が前期比0.6%増と2011年以降で2番目に高い伸びとなったほか、6月の製造業景況指数(PMI)が6年2カ月ぶりの高水準を記録した。ドイツだけでなく、スペインやポルトガルといったかつての問題国でも経済が着実に成長している。
市場は経済成長のほか、やや落ち着きを取り戻した政局、さらに欧州ソブリン債務危機の最悪期は過ぎ去ったとの見方に反応している。3日時点の年初来リターンはS&P500種指数が8.5%でStoxx欧州600指数の6%を上回るが、ドル換算だと後者のリターンは14.3%まで跳ね上がる。
タセラー氏によると、ルーサーンは今年からフランス、スペイン、イタリアへの投資比率を大幅に高め始めた。半面、不安定な時期の安全逃避先とされる北欧諸国への投資比率を下げた。関係者によると、ルーサーンはイタリア最大手の銀行ウニクレディト(年初来で26%高)やフランスの住宅建設会社カウフマン・アンド・ブロード(同11%高)といった株式を購入した。
タセラー氏は需要の回復や企業の投資再開を理由に、欧州の向こう2〜3年の経済成長率を2〜3%と見込む。これまで厳しい局面にあった国での景気連動型投資については「現在50%のリターンを上げている」と述べた。
もっとも、ギリシャなどへの投資で何度も痛い目にあってきた海外投資家の一部は、足元の回復は一時的だとみて今回は慎重姿勢を崩していない。こうした投資家が口にするのは、欧州各国の硬直した労働規則、人口高齢化、政府支出に関する制約、英国の欧州連合(EU)離脱が欧州の経済成長に及ぼす影響の不透明さといった、おなじみの不安材料だ。
JPモルガン・チェースの研究によると、海外株を投資対象とするアクティブ型ミューチュアルファンドの資産規模上位29本(米国内のファンドが中心)は、全体として見るとユーロ圏の株式保有は増えていない。
強気派のヘッジファンドは、懐疑派が考えを改めれば、欧州市場は一段の上昇余地があるとの見方だ。しかも、その気になれば即座にポジションを解消できるヘッジファンドにとって、回復の持続力はそれほど重要でない。
米スカイブリッジ・キャピタルのロバート・ダガン氏は「欧州の雰囲気は良くなり、経済指標には力強さが見られ、企業利益も予想を上回っているようだ」と指摘。同氏は欧州株を投資対象とするファンドの持ち高を増やしており、その一部は年初来リターンが10〜20%に達しているという。
欧州株とユーロ相場の先行きを楽観している投資家は、スイスの食品大手ネスレに対する著名投資家ダニエル・ローブ氏の動きに触れ、欧州が最も重要な投資先となっている新たな証左だと話す。
ローブ氏率いる米ヘッジファンドのサード・ポイントは、ネスレの株式35億ドル相当を取得し、株主還元の拡大へ向けた多くの変更を要求した。
ローブ氏は4月末、投資家宛ての書簡で「欧州にもっと多くの(投資)機会があるとみている。経済指標は力強く改善しており、フランス大統領選を無事通過したことでそうした傾向は続く公算が大きいためだ」と述べた。
さらに、米大統領選でのドナルド・トランプ氏勝利が追い風となる銘柄に投資する『トランプ・トレード』よりも、世界経済の成長改善を重視していると語った。具体的な数字を確認した関係者によると、同氏が運用する主力ファンドの5月末時点の年初来リターンは9.9%となっている。
アクティビスト(物言う株主)のクリス・ホーン氏が創業した英ザ・チルドレンズ・インベストメント(TCI)も最近利益を上げている。関係者によると、TCIの主力ファンド(欧州への投資比率が高い)は株高に大きく賭けており、1~5月に約23%のリターンを稼いだ。
少数銘柄に集中投資するTCIのリターンに貢献している銘柄の1つが、スペインの空港運営会社アエナだ。アエナ株は年初来で29%高となっている。
英ランズドーン・パートナーズも欧州投資で利益を上げている。関係者によると、ランズドーンが運用する欧州株ファンドは年初来リターンが15.6%に上る。また、それよりも規模が小さい「プランセ」ファンドは、フランス大統領選の前後に大きく下落したフランス株を勝って利益を上げ、年初来リターンは13.5%に達する。
リターン獲得に再び苦労しているヘッジファンド業界でこれだけのリターンを挙げているというのは特筆に値する。
