三越伊勢丹、退職金5000万円追加の訳

退職金の上乗せ額は最大で約5000万円に上るという。百貨店最大手の三越伊勢丹ホールディングス(HD)は今年6月に就任した杉江俊彦社長のもとでいよいよ大リストラを始める。削減対象は比較的若い48~49歳の「バブル入社組」も含む。なぜ、大金を積んでまで辞めさせたいのか――。

今後3年間に800~1200人の削減を目指す

百貨店最大手の三越伊勢丹ホールディングス(HD)は、2017年9月中間連結決算の営業利益が前年同期比25.4%増の76億円だったにもかかわらず、同年11月、退職金の上乗せ支給を柱とする大規模な早期退職制度を新設した。先に発表された高級スーパー「クイーンズ伊勢丹」の売却決定とあわせ、同年6月就任の杉江俊彦社長のもとでいよいよ大リストラが始まるのだ。くだんの退職金上乗せ額は最大でなんと約5000万円に上る。対象は48~49歳の「バブル入社組」にまで拡大され、今後3年間に800~1200人の削減を目指すという。

三越伊勢丹HDといえば、同年3月に大西洋前社長の突然の辞任表明が業界を騒がせたばかり。不可解なこの人事は事実上の解任であり、杉江氏らによる「クーデター」だったと見られている。大西氏は13年に伊勢丹新宿本店の大々的なリモデルを手掛け、羽田空港内のハイセンスなストアや大手セレクトショップのビームスとのコラボレーションなど、次々と斬新な取り組みを率いてきた「業界の顔」。人脈豊富な大西氏には社外に支持者が多く、そうした人たちは退任後の今も「なぜ、大西さんが?」と首をひねっている。

だが、同社の内部事情に詳しい関係者は「クーデターが起きたのは、それほど不思議なことではなかった」と指摘し、次のように解説する。

「三越伊勢丹には大西さんに誘われて中途入社した人が何人もいますが、彼らがそろって口にするのは『伊勢丹は福助社長や参議院議員を務めた藤巻幸夫さん(故人)が敏腕バイヤーとして活躍した会社なので、転職したらきっと刺激的な仕事ができる! とワクワクしていたのに、実際は違った』という落胆の言葉。ある人は転職早々、『伊勢丹では藤巻さんのような人は例外だよ。外から来たあなたが空気を変えてくれ』と言われたそうです。実際、社内には外から見ているだけではわからない息苦しさがありました」

前社長に対する“クーデター”勃発の背景

キラキラした外面とは異なり、社風は官僚的で、プロパー社員のほぼ9割は大西流改革を理解できていなかったという。そのため、大西体制の末期には、中国人観光客向けの新規事業やリニューアルなどの重要案件で1年以上の遅れが出ていた。

関係者によれば、そうなってしまう理由は主に2つ考えられる。1つは、三越と伊勢丹が無理やり合併したことによる風通しの悪さ。もう1つは、バブル入社組をはじめとする中間管理職層の抵抗である。大西前社長も同様の認識を持っていたようだが、大規模な人減らしにまでは踏み込まなかった。不採算店舗の閉鎖は進めたものの、その分だけ新規事業で雇用を吸収する方針をとったのだ。

「しかし実際には、バブル入社組の多くは変化を嫌っていた。プライドが高く、現状維持を優先してしまうのです。それもあって、大西さんは彼ら中間管理職を飛ばして、現場の元気な若い社員とのコミュニケーションを優先していました。そのやり方が社内に軋轢を生み、結果としてクーデターを招いてしまったのかもしれません」

その「抵抗勢力」を減らして、若手の活躍の場を広げようというのが今回の早期退職制度である。破格の条件を用意しただけに、優秀な人材が真っ先に辞めてしまうのではないかという懸念はあるが、関係者は「既存の百貨店事業を変えていこうという意欲がないなら、去ってくれたほうがいいのでは」と辛辣だ。

結果としてバブル入社組が優秀な若手に席を譲り、活躍の場を与えることになるとすれば「杉江社長は大西改革でやり残したことをやったんだ、と評価されるかもしれません」。

三越伊勢丹 © PRESIDENT 三越伊勢丹"退職金5000万円上乗せ"の理由

大西氏は昨年、社内向けのスピーチで「三越伊勢丹は別格の百貨店と言われるが、そんなことで安心してはダメ。ある部分でリードしているのは事実だが、2位以下に圧倒的に差をつけているわけではない。周回遅れの部分もたくさんあることを忘れるな」と述べ、危機感をあらわにしたという。大リストラによって、その周回遅れを取り戻せるか。

(写真=東洋経済/AFLO)

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