18年 投資家が知るべき3つのリスク
――筆者のジェームズ・マッキントッシュはWSJ市場担当シニアコラムニスト
***
2017年は実質あらゆる資産の価格が上昇した。休暇中に1年を振り返る投資家は幸せに満ちた思い出に浸ることだろう。だが投資は未来を見据えるものであり、過去を振り返るものではない。慢心を誘う2017年の実績は忘れ、悪い方向に行きかねない状況について考えたい。
その際、順調だったことを振り返るのは有効な方法だ。今年は起こらなかったが、来年に打撃を及ぼしかねない要素を3つ挙げる。
1. 金融引き締め
米連邦準備制度理事会(FRB)は今年3回利上げしたが、借り入れは以前より簡単になり、実際に長期のコストは低下した。長期債の利回りは上昇ではなく低下し、世界の金融状況はドル安によって一段と緩和した。シカゴ地区連銀の全米金融環境指数(NFCI)は1994年1月以来の緩和的な水準だ。同年には意表を突いたFRBの引き締めで債券市場がクラッシュした。
力のバランスが貸し手から借り手に移っている兆しはいくつもある。多くの企業が社債の契約条項削減に成功し、めまいがしそうな倍率のレバレッジドローンが提供され、新興のプライベートローンファンドに資金が流入している。債務が拡大するほど、金融引き締めが到来した時の痛みは大きい。
国際市場では、ドルが上昇すれば拡大しすぎた新興国市場の借り手に打撃が及ぶだろう。こうした借り手の中心は、以前は国だったが、2008年の危機以降にレバレッジを拡大してきたのは新興国の企業だ。ドルとユーロを借りている企業は賢明であれば、債務水準を外貨収入の金額に合わせているはずだ。そうでない企業はドル上昇で大きな打撃を受けるだろう。新興国勢の借り入れは10兆ドルを超えているが、こうした対策がなされている金額を知ることはできない。
2. 中国
世界の株式相場が10%超下落したのは、直近では15年の夏と16年の初めだ。いずれも中国に対する懸念が引き金になった。危険は相変わらずであるにもかかわらず、市場は懸念しなくなった。
このリスクは何年にもわたって議論されている。中国はあまりに多くの債務を抱え、存続できないプロジェクトの資金に充てている。同国が取り得る対策として、人民元の切り下げ(15年には世界同時株安を引き起こした)、不良債権の再構築、債務増加を上回るペースでの経済拡大に向けた成長モデルの変更がある。最初の2つには痛みが伴う上、成長モデル変更については、他の急成長国が試みた際にはリセッションを招くのが典型的なパターンだった。
強気派の予想通り、中国の官僚は10月の共産党大会前の失敗を許さなかった。この大会で習近平国家主席の指導思想が党規約に盛り込まれた。
筆者の懸念はくすぶっている。習氏の思想は成長のペースではなく質を重視することだ。それは完全に理にかなっている。遅くても持続可能な成長は、債務主導の好景気とその後の破裂よりいい。ただ古い産業をつぶすことなく経済を切り替えるのは難しい。それは彼らの債務に対処し、その労働者に新たな仕事をあてがうことを意味する。さらに悪いことに、資金供給の伸びが経済に及ぼす影響は遅れて表れるため、今年の拡大鈍化の影響は18年になってから感じられるかもしれない。
中国の投資家は、習氏が貯蓄中心の経済から消費経済への移行を成功させることに大きな賭けをしてきた。今年最も好調だった国内上場株は消費財部門に集中している。CSI300指数の生活必需品部門は83%上昇し、一般消費財部門は27%上昇した。
15年の時点では、投資家は中国共産党の独裁体制が経済を支配しているため失敗はあり得ないと信じていた。そのため小幅な切り下げが市場に大きな影響を与えた。現在は信頼感が減退している。バンクオブアメリカ・メリルリンチ(BAML)の投資信託マネジャー調査では、18年最大の投資リスクは中国の債務危機だとの回答が14%に上った。だが投資家は共産党の官僚組織が消費に基づく資本家へのリターンをもたらすとの考えを変えていない。その信仰ぶりは感動ものだ。
3. 株と債券の関係
投資家が債券を保有する理由に、株価下落時の損失緩和がある。1990年代終盤以来、この戦略は奏功していた。というのも債券価格は短期的には株と逆方向に動く傾向にあったためだが、長期では同じ方向に動く。
今年もこの戦略がうまくいった年だった。株が好調ななかでさえ債券は価格が上昇して無料の保険となったためだ。危険なのは、債券と株の関係が80年代や90年代初頭の状態に戻り、債券利回りが上昇して株価を押し下げることだ。原因としてありそうなのは、インフレが復活しながらも成長が相変わらず低迷する状況だ。もうひとつのシナリオは、ありそうにないが完全には排除できない。緩和マネーに頼る投資家に中央銀行がついに愛想をつかし、資産価格が手に負えなくなるのを防ぐために手を打つと決めるケースだ。
世界が低インフレと経済成長の「ゴルディロックス(適温)経済」にある時期には、恩恵にあずかっている投資家が何かについて大きな懸念を抱くのは難しい。しかし、投資家はこうした時にこそ自身の不安に対処する必要がある。好材料の多くは既に資産価格に織り込まれているため、経済と企業利益が「そこそこ」だっただけでも、投資家は失望するだろう。