ロヒンギャ難民、身分証の拒否相次ぐ
【コックスバザール(バングラデシュ南東部)で金子淳】ミャンマーの少数派イスラム教徒「ロヒンギャ」の難民が流入したバングラデシュで、バングラ政府が発行する難民用の身分証の作成を拒否する難民が相次いでいる。身分証に「ロヒンギャ」と明示されておらず、国籍欄に「ミャンマー」と書かれているためだ。複雑な民族感情が支援や難民の全容把握を困難にしている実態がある。
「我々はロヒンギャとして認めてもらいたい。ロヒンギャと書かれていない身分証なら取りたくない」。8月末からバングラ南東部コックスバザールの難民キャンプで暮らすソユト・アロムさん(43)は声を荒らげた。キャンプ外では身分証がないと軍や警察に呼び止められることがあるが、「キャンプにいれば問題ない」と話す。
国連関係者などによると、身分証の発行は9月、バングラ政府が「治安上の理由」から始めた。難民キャンプの登録所で名前などを申告し、顔写真、両手の指紋などを登録すると、その場でカードがもらえる仕組みだ。正式名称は「ミャンマー国民の登録証」で、身分証に「ロヒンギャ」の単語はない。
ロヒンギャはミャンマーでは「ベンガル人」と呼ばれ、国籍も与えられておらず、民族としても認められていない。バングラ政府はこうしたミャンマー側の事情に配慮し、ロヒンギャという呼称を避けているとみられる。
だが、「ミャンマーでは国籍がないのに、バングラで『ミャンマー人』になるのはおかしい」と反発する難民も少なくない。軍人に連れられて身分証を「作らされた」というサイード・ホセインさん(70)は、カードを手に「なぜロヒンギャと書いていないのか。私はミャンマー人ではない」と憤った。
コックスバザールでは現在も難民流入が続いており、現在は身分証なしでも食料支援などを受け取れる。だが、両政府は23日にロヒンギャの帰還にむけた覚書に署名し、今後は住人の特定などに向けた作業に入る。国連関係者は「将来的には身分証が必要になる可能性がある。政治的意見を持つのは自由だが、難民は登録してほしい」と話している。
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