ハリルJ 控え組が露呈した意識の低さ
サッカー日本代表は10月10日、キリンチャレンジカップ2017でハイチ代表と対戦した。格下相手に苦戦を強いられ、3-3で引き分けたこの試合。前半、倉田と杉本のゴールで2点を先取した日本だったが、その後ハイチの反撃に遭い、一時はリードを許す展開に。終了間際の香川のゴールで辛くも引き分けたものの、負けに等しい厳しい結果となった。
◆一定の水準を下回る、緊張感の欠けた試合に
「何の意味がある試合なのか――」。
10月6日に豊田スタジアムで行われた対ニュージランド戦後、香川真司はそうコメントした。欧州、南米など大半の地域でまだW杯予選が開催されていたため致し方ないことではあるのだが、確かに今回対戦した2チームは、強化という観点から言えば物足りない相手だった。W杯本大会でニュージーランドやハイチほど弱いチームと対戦することはまず有り得ない。南米予選5位チーム(後にペルーに決定)との大陸間プレーオフを残すニュージランドはまだしも、1年前にすでに予選敗退しているハイチとの試合はまさに「何の意味があるのか」とも言いたくなるような一戦だっただろう。日本の選手たちのギアはイマイチ上がりきらず、案の定緩すぎる強化試合となってしまった。
ただ、そんな緩い中でも最低限クリアしなければならない一定の水準というものがある。この日の日本代表の戦い振りは、その最低限のOKラインにはほど遠く、あまりにも酷いものだった。
ハイチは試合時点のFIFAランクで日本より8つ下の48位。W杯本大会には1974年西ドイツ大会以来出場できていない。今大会も北中米カリブ海3次予選ですでに敗退しており、尚且つこの試合に向けて2日間しか全体練習をしていないことなどを考えれば、本大会出場を決めている日本としては勝って当然の相手だ。3-0といったスコアで完勝した上で、「勝つには勝ったけど相手が相手なので……」といったコメントが選手たちから出る、というのが本来あるべき姿だ。ところが結果は前述の通り。ホーム開催にも関わらず、移動の疲れを残すハイチから大量3失点を喫し、引き分けるのがやっとだったのだ。
◆強化にならないアジア予選
日本代表は8月に本大会出場を決めていたが、他の大陸ではまだ熾烈な戦いが続いている。地球の裏側で行われていた南米予選でも、メッシ擁するアルゼンチン代表が大苦戦。最終戦で勝利し辛くも突破を決めたが、例え強豪国であっても本大会への道のりは楽ではない。オランダ、チリといった実力国が敗退し、あのイタリアでさえプレーオフに回るなど、予選を突破するまでがすでにいばらの道だ。逆に言えば、欧州や南米ではその厳しい予選を勝ち抜いた時点でチームの強化はかなり進んでいると考えて良い。実戦で歯ごたえのある厳しい戦いに晒されることが、各チームにとって何よりの鍛錬になるのだ。現に’02年日韓大会のブラジル代表のように、予選で苦戦を強いられたことでチーム力がアップし、一転して本大会で好結果を残すチームも多い。
では、日本のいるアジア予選はどうか。議論の必要もないほど明らかなことだが、前述した大陸予選と比べて、アジア予選は最も楽だと断言して良いだろう。前回のブラジル大会でも出場した4ヵ国がすべてグループリーグ最下位という惨憺たる結果だったにも関わらず、アジアには依然4.5という多過ぎる出場枠が与えられてしまっている。テレビなどでは「厳しいアジア最終予選」といった煽りが散々流れてはいるものの、その厳しさは南米や欧州の比較にならない。本大会グループリーグ敗退レベルか、もしくはそれ以下の相手としか対戦できず、しかも出場枠が多いとなれば、当然強化は進まない。1試合1試合の強度が違いすぎる。以前、本田圭佑が「世界的に見ると、W杯の準備の中でこの(低い)レベルでしか戦えないという点でアジアは不利」とコメントしたことがあったが、これは言い訳でも何でもなく、紛れもない事実を述べたまでだったのだ。
◆格下相手の試合にこそ求められる目的意識
だがもちろん、そういったアジアの環境は日本にはどうすることもできない。それであれば、なおさら1つ1つの試合で個々がいかに目的意識を持って取り組めたかが重要になってくるはずだ。欧州や南米の各チームが常に厳しい戦いに晒されている一方で、W杯出場32カ国の中でも格下にあたる日本がただ漫然とテストマッチをこなしていたのでは、その差は広がるばかりだ。相手がニュージーランドだろうがハイチだろうが、与えられた時間の中で最大限のアピールをしようと、あるいは自身の課題をクリアしようと躍起にならなければいけないはずだ。本大会が8ヶ月後に迫っている状況下で、意味のない試合など1つもないのだ。
にも関わらず、この日千載一遇のチャンスを得たはずの遠藤航、東口順昭といった選手たちのプレーからは、「このチャンスを必ず活かしてやる」といった気概は1ミリたりとも感じられなかった。普段出場機会の少ない選手たちが多く起用されたことでコンビネーションの面では難しさがあったはずだが、そういった連携面以前のメンタル的な問題が大きかったのは明らかだ。
試合後、ハリルホジッチ監督は「何人かの選手の精神的な弱さ、脆さには失望した。日本代表でプレーするにはもっと考えないといけない」と語ったが、この言葉がまさに本音だろう。あれだけモチベーションのないプレーを見せられてしまっては、監督にできることなどもはや残っていない。この試合の結果に関して監督に責任を問うのは気の毒というものだ。もちろん、選手のモチベーションを管理するのも監督の仕事ではあるが、ピッチでプレーするのはあくまでも選手だ。各自が明確な目的意識を持ってピッチに立つのは言われずとも当たり前のことであって、その“当たり前”がこれだけできなかったのでは話にならない。
◆進まないチーム強化。本大会までにチームは完成するのか
日本は来月、ブラジル、ベルギーという強豪国との2連戦を戦う。ニュージーランド、ハイチとの2連戦に気持ちを持ってこれなかった選手であっても、相手が強豪となれば自ずとモチベーションは高くなるだろう。先日の2連戦で散々なプレーを見せた選手が、一転して素晴らしい活躍を見せる可能性もゼロではない。
だが、仮に強豪国を相手に良いプレーをしたとしても、相手によってモチベーションが大きく左右されてしまうような選手に、本番での活躍が期待できるだろうか。日頃のクラブチームでのトレーニングの段階から、常に来年の本大会を見据えて取り組むことができているか、ブレずにそれを継続できているかが重要なはずだ。先日のハイチ戦では、“レギュラーの座を奪取して本番のピッチに立ってやる”といった気概を持って日頃から取り組んでいる選手が控え組の中にほとんどいない、という事実がはっきりと明らかになってしまった。おそらく、もう二度と招集されない者も出てくるだろう。
ハリルホジッチ監督としては、新戦力の発掘、チームの底上げといったテーマを持って今回のキリンチャレンジカップに臨んでいたはずだが、その目論見は見事に外れてしまった。11月の欧州遠征を経て徐々にメンバーを絞り込んでいく段階に入っていくが、いまだチーム全体の底上げ、ブラッシュアップといった作業ははかどっていない。ハリルジャパンはいつ本番仕様のチームに成長を遂げるのだろうか。それとも、宿題を終わらせられないまま本大会を迎えてしまうのだろうか。
ロシアW杯開幕まで残り8ヶ月。本番までに残された時間は、ごく僅かだ。
取材・文/福田 悠 撮影/難波雄史