ドラフト待つ「野球部在籍なし」の男

ロッテの角中勝也らを輩出した四国ILに加えて、BCリーグのレベルも徐々に上がりつつある。新たな才能の出現に期待したい。 © photograph by Hideki Sugiyama ロッテの角中勝也らを輩出した四国ILに加えて、BCリーグのレベルも徐々に上がりつつある。新たな才能の出現に期待したい。

 独立リーグはNPB(日本野球機構、以下「プロ」と表記)にこそ加盟していないが、れっきとしたプロ野球で、1人でも多くの選手をNPB各球団に入団させることを目標にしている。

 巨人三軍対BCリーグ選抜の交流戦が行われた9月27日、ジャイアンツ球場のバックネット裏スタンドではプロ各球団のフロントとBCリーグ関係者があちこちで歓談していて、私のそばでは「今年もよろしくお願いします」とプロ関係者が頭を下げると、BCリーグ関係者が「じゃんじゃん持って行ってください」と破顔一笑する姿が見られた。

 たとえば社会人野球(日本野球連盟)は、高校卒は3年間、大学卒は2年間、在籍するチームに居続けなければいけないが、BCリーグや四国アイランドリーグなど独立リーグにはそういう拘束がないので、高校を卒業して入団1年目の18歳がプロ野球のドラフトにかかる可能性がある。

 また、社会人野球は2006年に鈴木誠(JR東日本・投手)が育成ドラフトで巨人から指名されてから、NPBに「育成ドラフトで指名しないよう」申し入れ、それ以降社会人は育成ドラフトで指名されていない。しかし、独立リーグの選手は主に育成ドラフトで指名されてプロ入りしている。そのためどうしてもプロ入りしたい選手が会社を退職して独立リーグに入団するケースもある。

元プロ指導者の真骨頂は、選手のスケールアップ。

 BCリーグは10チームで構成され、監督はすべて元プロ選手である。10チームに在籍する38人の指導者(監督、コーチ)のうちNPB出身者でないのは2017年開幕時点でわずか9人。

 高校、大学、社会人などのアマチュア野球では、学校のため、会社のためという前提があるので選手の個人プレーよりバントなど犠牲的精神を選手に求めがちだが、元プロ指導者の真骨頂は選手のスケールアップ。

 私が見た9月27日の巨人三軍対BCリーグ選抜では、巨人三軍が2回バントしたのに対してBCリーグ選抜はゼロ。又吉克樹が登板したことで印象に残っている2013年の四国アイランド選抜対フューチャーズ(イースタンリーグ所属選手の混成チーム)戦でも3戦して四国アイランド選抜は1回もバントをしていない。独立リーグの存在意義がわかっていただけると思って紹介した。

育成ではないドラフトで指名される可能性がある選手も。

 さて9月27日の巨人三軍対BCリーグ選抜の交流戦は予想外にいい選手が多く注目した。BCリーグは8人の投手が登板し、ストレートが145キロ以上を計測したのが沼田拓巳(石川)、前田大佳(栃木)、村田陽春(武蔵)、橋詰循(栃木)の4人で、沼田は最速150キロ、前田、村田は148キロを計測した。

 投球フォームはそれぞれ個性的。前田はヒジが十分に使えないアーム式という投げ方で、ボールが高めに抜けないように体ごとボールを押さえ込むことで逆にフォームの力感を生んでいる。

 村田は右腕が背中のほうに深く入り、橋詰は左肩上りとそれぞれクセが強いが、元プロの指導者たちはフォームをあまりいじらず、ボールの速さのほうを伸ばそうとする。フォームの矯正はプロに入ってやってもらえ、というスタンスである。

 個性派が多い中で沼田(23歳・右投右打・185cm/88kg)はクセが少なかった。1回裏は内野安打とポテンヒットなどで2点、2回は自らの暴投で1点を許しているが、150キロのストレートと打者寄りで横変化するスライダーのキレがよく、2回にはこのスライダーで8、9番打者を連続三振に取っている。同リーグの関係者は沼田とこの日は投げなかった150キロ右腕、寺岡寛治(石川)の2人は育成ではなく本番のドラフト(あえて表現すれば支配下ドラフト)で指名される可能性があると話してくれた。

高校時代、野球部に所属していなかった選手も!

 もう1人注目した選手は2番・レフトでスタメン出場した和田康士朗(富山・18歳・左投左打・184cm/68kg)だ。この選手で驚かされるのは埼玉県立小川高校に通っていた頃、野球部に在籍していなかったこと。陸上部に通っていて、野球はクラブチームの都幾川倶楽部硬式野球団(以下、都幾川倶楽部)でプレーしていたという。

 プロ野球史上、日本人プレーヤーで高校の野球部に在籍していなかった選手はいただろうか考えてみた。100メートル走の元日本記録保持者で1964年の東京オリンピックに出場したこともある飯島秀雄('68年ロッテ9位)などはいるが、数少ないはずである。

 '91年に西武が8位指名した日月(たちもり)哲史はやり投げで国体入賞した選手だが、関東高校では当初、野球部に在籍していたらしい。和田の「高校野球部在籍なし」がいかに珍しいかわかっていただけると思う。

俊足以上に目を引く、柳田ばりの強打。

 巨人三軍戦では2番を打っているので、一見チャンスメーカータイプにも見える。4回にセンター前ヒットを打ったあと二盗に成功、このとき二盗に要したタイムは私の計測で3.20秒で、十分俊足と評価できる。50メートル走の最速は5.8秒、陸上部時代は走り幅跳びが専門で、ベスト記録は6メートル45センチ。これらの数字を見ても脚力を生かした走塁を持ち味にする選手と考えたくなる。しかし、和田の持ち味はそれだけではない。

 バッティングでのミートポイントが限りなくキャッチャー寄りで、このポイントでボールを捉えて後ろ手で強く押し込むという柳田悠岐(ソフトバンク)ばりの強打こそ和田の最大の持ち味である。

 この選手が、高校卒業後1年しか経っていない18歳というのには驚かされる。都幾川倶楽部は今年の全日本クラブ野球選手権の関東代表決定戦に出場したほどの強豪チームだが、クラブチームの経験しかなく、高校野球の経験がない18歳がいきなりドラフト候補と注目される選手に成長しているのである。素質が有り余っていると言うしかない。

独立リーグが掬い上げた才能の数々。

 過去BCリーグの選手がドラフトで指名されたのは、育成ドラフトでは内村賢介(元楽天、DeNA)など25人いるが、支配下ドラフトではいずれもオリックスが指名した前田祐二、森本将太、柴田健斗の3人しかいない。ここに今年、沼田、寺岡、和田の3人が入るのではないかと密かに囁かれているのである。

 ちなみに独立リーグの先達、四国アイランドリーグでは過去、17人が支配下ドラフトで指名され、'06年にロッテから7巡指名された角中勝也(高知)は'12年、'16年のパ・リーグ首位打者に輝き、'13年のWBC(ワールドベースボールクラシック)の日本代表にも選出されている。

 もし'06年当時、独立リーグが存在していなかったら角中はプロ野球に進んでいなかったかもしれない。そう考えると四国アイランドリーグやBCリーグが有名大学や社会人チームに入れなかった選手たちの受け皿になっている現在の姿は、とても貴重だと言わざるを得ない。

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