手帳なしの被爆者、長崎市が登載拒否

 長崎市が原爆死没者の慰霊のため作成している「原爆死没者名簿」について、遺族から名簿への登載を申請された市が、被爆者健康手帳がないなどの理由で「被爆事実を確認できない」と判断した場合、拒否していることが分かった。同様に名簿を作成している広島市や、死没者の名前や遺影を登録している国立原爆死没者追悼平和祈念館(広島、長崎両市)は手帳がなくても原則として登載・登録に応じている。

 遺族や支援者は「慰霊目的の名簿登載にまで厳密な被爆事実の証明を求める長崎市の姿勢は非情だ」と批判している。

 原爆投下後の長崎市で入市被爆したとして市に手帳交付を申請したが却下され、今年1月に93歳で死亡した浜崎栄一さんの遺族が、毎日新聞の取材に、名簿登載を拒否されたことを明らかにした。

長崎市原爆死没者名簿 © 毎日新聞 長崎市原爆死没者名簿

 浜崎さんは長崎に原爆が投下された1945年8月9日から同14日にかけ、爆心地近くを通って入市被爆したとして昨年2月に手帳交付を申請したが、市は「申請内容が確認できない」として同6月に却下した。遺族は今年2月に原爆死没者名簿への登載を申請したが、同3月に市は「原爆死没者に該当しない」として拒否した。

 市は事務取扱要領で、登載対象を手帳交付を受けた人か、市長が手帳交付と同等の要件に該当するとみなした人と規定。市調査課は「手帳制度ができた57年以前に死亡した人や、57年以降に手帳を取らないまま死亡した人でも市が内部資料などで裏付けが取れた場合は登載できるが、浜崎さんは被爆事実が確認できなかった」と説明し、名簿登載の判断でも、手帳交付の際と同様に被爆事実の有無を厳密に審査していることを認めた。

 市によると書類が残る2012年以降では、15年にも手帳交付を受けず死亡した男性の遺族から入市被爆したとして登載申請があったが、「被爆事実が確認できない」として拒否したという。

 一方、広島市は名簿登載の要領に「手帳交付の有無を問わない」と明記。担当者は「死没者を慰霊して平和を祈念するのが趣旨。(遺族側に被爆の)立証を求めていない」と語った。広島、長崎両市にある国立原爆死没者追悼平和祈念館も、遺族から申請があった死没者の名前や遺影を登録し館内で公開しているが、手帳の有無を条件としていない。

 浜崎さんの遺族の男性は「悔しい。長崎市も被爆者に寄り添った対応をしてほしい」と話した。浜崎さんの手帳申請を支援した長崎市の市民団体「在外被爆者支援連絡会」の平野伸人共同代表は「手帳を持つ人だけが被爆者ではなく、取れずに亡くなった人も、あえて取らなかった人も被爆者。そういう人も含めて追悼すべきだ」と批判した。【樋口岳大】

 【ことば】原爆死没者名簿

 原爆死没者を慰霊し名前を永久に記録して人類の恒久平和を祈念するため、広島、長崎両市が作成している。これまでに広島30万8725人、長崎17万5743人の名前が登載されている。毎年新たに死亡したり、死亡が判明したりした被爆者の名前を追加し、両市が毎年8月の原爆の日に開く式典で奉安する。

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