空中戦を卒業した豪州監督の「革命」

デゲネクはコンフェデ戦のドイツ戦でもプレーした。世界の強豪と対戦し続けた現アジア王者の実力は、侮るなど言っていられないレベルである。 © photograph by AFLO デゲネクはコンフェデ戦のドイツ戦でもプレーした。世界の強豪と対戦し続けた現アジア王者の実力は、侮るなど言っていられないレベルである。

 ちょっと気が早すぎた。

 僕の過去の記事を読んでくれた人がいるとしたら、少し前の言葉を訂正したい。

『ハリル「プレッシャーは大好きだ」監督業はマゾでなければ務まらない。』という一編で、「W杯は手を伸ばせば届きそうなところにある」と書いたが、実際はそんな耳あたりの優しいものじゃなかった。煽り抜きに、正真正銘のサバイバルになりそうな気配だ。

 その要因の最たるものは、31日に埼玉スタジアムで対戦するオーストラリア代表の強さにある。

サンチェス、ビダルら擁するチリに互角以上の戦い。

 6月にロシアで開催されたコンフェデレーションズカップで、サッカールーズ(Socceroos:オーストラリア代表の愛称。サッカーとカンガルーの複数形を掛け合わせた造語)はグループステージで敗退したが、その組を勝ち抜いたのはドイツとチリ。世界ランキング当時3位と4位のチームで、オーストラリア代表はドイツに2-3で敗れたものの、チリとは1-1の引き分けに終わった。そのチリとの3戦目は、彼らが勝てたとする見方もあるほどの接戦だった。

 つまり今週木曜日に日本が対戦する相手は、世界大会で真のワールドクラスと互角に渡り合ったわけだ。アーセナルのアレクシス・サンチェス、バイエルンのアルトゥーロ・ビダルといった本物の猛者たちと。

 オーストラリア代表指揮官、アンジェ・ポステコグルは彼の国のフットボールに「革命」を起こしている最中だ。彼自身が何度も口にしてきた「レボリューション」は、魅力的なスタイルの導入に始まり、それによってサッカー人口を増やし、最終的にはオーストラリアで一番人気のスポーツにするのが目標だという。

 オーストラリア式フットボールやクリケット、ラグビーが根強く支持される国で、それが達成されれば、まさに革命となる。

ロングボール&フィジカルから“ロアセロナ”に。

 それまでのオーストラリア代表といえば、ロングボール、フィジカル、闘争心が代名詞の古いブリティッシュスタイルのようなものだった。体格が良く、運動能力に秀でた選手たちに適した戦術といえるかもしれないが、90分間、主に空中戦とぶつかり合いを見せられるサポーターは、そんなサッカーを好きになれただろうか。熾烈なボディコンタクトなら、他のスポーツの方がもっと迫力がありそうだ。

 ポステコグルは'09年から'12年までブリスベン・ロアーを率いていたとき、バルセロナのようにショートパスで崩すスタイルで成功を収め、そのチームは“ロアセロナ”と呼ばれた。

 ギリシャにルーツを持つ52歳の指導者は翌年に代表監督に任命されると、その手法をサッカールーズにも持ち込み、'14年W杯はチリ、オランダ、スペインと同居するグループで敗退したが、その清々しい戦いは国内で評価されたという。そして'15年のアジアカップを制し、コンフェデへの切符を手にした。成長の跡は誰の目にも明らかだ。

「素晴らしい取り組み。100%、ボスを信じている」

 Jリーグでプレーする唯一のサッカールー(選手は単数形で表される)、横浜F・マリノスのミロシュ・デゲネクに「革命」について訊くと、「素晴らしい取り組み。僕ら選手たちは100%、ボスを信じているよ」と笑顔で答えてくれた。

「ボスはオーストラリア代表のスタイルを変えた。以前は長いボールを蹴ってとにかく戦うことを前面に押し出していたけれど、今のチームはショートパスをつないで、きちんとフットボールをする。それに適したクレバーで技術のある選手も多い。僕もパスを多用するスタイルが好きだよ。頭を使ってスマートにゲームを進めていくのはやっていて楽しいしね」

 日本在住のオーストラリア人記者スコット・マッキンタイア氏によれば、彼の母国のフットボールはそもそもクロアチアなど東欧の影響を受けて発展してきたもので、技術的な下地はあったという。たしかにこの国の代表選手の苗字は、ロギッチ、スピラノビッチ、ユリッチなど、旧セルビア系が多い。ミロシュと命名されたデゲネクもその1人だ。

フィットネス管理も超先進的であるのも見逃せない。

 また、オーストラリアはスポーツ科学の先進国でもある。有能なフィットネスコーチは世界のスポーツ界のトップレベルで仕事を任されており、例えばアーセナルも今季に新設した“ハイパフォーマンス部門”の責任者としてオーストラリア人の第一人者を招聘している(正式就任は11月)。

「代表のフィットネス管理は細部に至る」とマッキンタイア氏。

「これは個人的な意見だけど、コンフェデの3戦目にベストゲームを披露できたのは、コンディショニングによるところが大きいと思う。おそらくより先に勝ち進めると信じて、ピークを後ろに持っていくようにしたのではないかな」

 そのポジティブな姿勢も、彼らの強みだ。「僕らは何かをするとき、前向きに考え、完全に自分たちを信じる。それが国民性なんだ。移民の国のフロンティア精神と言い換えられるかもしれない」と彼は続けた。

クロップ、ペップに通じるポゼッションとハイプレス。

 あらためてチリ戦を見返すと、ポゼッションだけでなく、組織的なハイプレスも印象的だった。ユルゲン・クロップやペップ・グアルディオラのチームにも通じるところがあるといえば、言い過ぎだろうか。

 優れた指揮官が最新の戦術を植え付け、選手たちはコーチ陣とともに最高のフィットネスを整え、自信を持ってピッチにすべてを出し尽くす。その先にある「革命」の成就を心から信じて。

 昨年10月の日本戦の後、彼らはブラジル、ドイツ、カメルーン、チリと手を合わせてきた。おそらく、いやきっと、今の彼らはあの頃よりも強い。

 進化を遂げるサッカールーズが、日本代表の前に立ちはだかる。

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