ハーフナーの独善的FW論が面白い
© photograph by Yuki Suenaga 194cmという身長からポストプレーをイメージされるが、ハーフナー・マイクの本質はゴリゴリの点取り屋なのだ。
ゴールを奪う。
その一点を指標に置くならば、オランダの4シーズン半で51点を稼いでいるハーフナー・マイクは欧州でプレーする日本人選手のなかで最も結果を残してきた。毎年2ケタ以上はゴールネットを揺らしてきた計算だ。4大リーグではないとはいえ、欧州主要1部リーグでの50点到達は日本人プレーヤーで初めて。誇っていい数字である。
ADOデンハーグのエースとして今季は開幕から4戦3発と好スタートを切りながら、残留争いに巻き込まれたチームとともに一時、調子を落とした。ウイルス性感染症を患い、離脱もあった。だが今年2月の監督交代を機にチームも、ハーフナー自身も浮上。終盤戦の2カ月で6ゴールと固め打ちしてチームを残留に導いている。
インタビューのテーマは、ゴールのコツ。
6月、オフに入った彼と久しぶりに会った。
以前よりも大きくなったような印象を受けた。「相手を力でねじ伏せたいから」と意識して体重を2kgほど増やしたという。だが見た目の大きさからくる、それではなかった。
一つひとつの言葉からにじみ出る自信と矜持、そして割り切り。
己が目指すべきストライカー像の確立が、彼のスケール感を広げていた。
「俺は1人で打開できる選手じゃありませんから。周りの助けがあって、いろいろとやってもらったうえでおいしいところを持っていかせてもらう。でもボールが来るところに、ちゃんと自分がいるかどうか。そこに点を取れるか取れないかが、自分としてはあると思うんです」
ゴールのコツ。
インタビューのテーマを伝えると、彼は視線をこちらに向けて言った。
ボールが来るところにちゃんといる。そこにもうひとつ言葉を付け加えるならば、「相手を外して」なり「相手より先に」だろうか。
「自分の場合、相手の視線を見るんですよ」
今季の終盤戦は、まさにハーフナーの本領発揮だった。
リーグ戦では昨年8月以来のゴールとなった3月11日のNEC戦。左FKのボールに対して、マーカーに前に行くと見せかけて、キックと同時に後ろに下がって相手を外して高い打点のヘディングで合わせている。最下位を脱出し、チームに9試合ぶりの勝利をもたらす決勝弾だった。
「自分の場合、相手の視線を見るんですよ。どこにあるか、ですよね。あのNEC戦は自分が動いたことによって、やばいと思って(自分のほうに)目線が来る。人って、やっぱり目で見て判断するじゃないですか。相手も俺を行かせたらダメだと思って、前に出ようとする。じゃあこっちとしては下がればフリーになるなっていう判断でした」
最終節のエクセルシオール戦(5月14日)も、右からのクロスに対してニアに行くふりで相手を前方に行かせてポジションをつくり、そこから前に飛び込んでのダイビングヘッドでゴールを挙げた。
ニアと読む相手の裏をついてファーへ。
ここでも彼なりの駆け引きが隠れていた。
「去年、ニアに合わせるクロスが多かったんです。クロッサーに相手のプレッシャーが掛かっている場合、大体はボールがニアに来る。あとは、どうやって合わせるか。クロスの瞬間に駆け引きして、入っていく一番いいタイミングを考えています」
このエクセルシオール戦のゴールシーン、相手はニアで前に入られないことを警戒していた。それを逆手に取るかのように、合わせるポイントをニアではなく中央に置いて、相手を外している。
ローダ戦(4月2日)、PSV戦(15日)はこぼれ球を押し込んでいる。偶然ではない。これも「予測してちゃんといる」意識から生まれている。
味方でもパスだと思うシーンで、反転して自ら打つ。
一方で、相手など関係ない強引な顔もある。
それが4月5日のヴィレムII戦のゴールだ。ペナルティーエリア内で相手を背にしてパスを受け、そのままターンして利き足とは逆の右足シュートでゴール右隅を射抜いた。
「もうひとり(ボックス内に)入ってきて、その味方にパスを出すもんだとみんな思っていたみたいですね。(パス)くれって、手を出してましたから。でもボックスに入ったら、自己中心でやるのがフォワード。中盤の選手はパスとかボール奪取とかあるけど、フォワードの結果は分かりやすくて、やっぱりゴールが一番なんで。俺、アシストじゃ嫌なんです。フォワードとしては1点でも多く取りたい。2ケタ取れなかった今シーズンは、自分のなかで納得できていない」
ハーフナーは思わず顔をしかめた。最低ラインの2ケタに届かなかった話を口にすれば、すぐに悔しさが襲ってくる。
個人でのシュート練習を一切しない理由。
ゴールの感覚を研ぎ澄ますために、彼は個人でのシュート練習を一切やらない。Jリーグ時代から続けていることで、全体練習だけで十分という考え方だ。
「相手がいない状況でやるのは、自分としてはあまり意味を感じない。試合の状況でどれだけ集中して、狙ったところに打てるかどうかだと、自分の場合はそう思っているんで。よく見たら、ゴールって広いじゃないですか。そこにゴールキーパーが1人立っているだけ。それを考えたうえで、むしろほかの試合のゴールシーンを見ます。どう打っているかというよりも、相手のディフェンダーやゴールキーパーはどう立っているか、シュートに対してどう防ごうとしているかを見ています」
向き合うのは自分ではなく、あくまで相手である。
技術やスピードなど己に足りない要素を求めたところで、ゴール数が伸びるわけではない。総合力より特化力。高さ、パワー、タイミングという己の特長を最大限活かしながら、駆け引きに勝つ。そしてゴールマウスにシュートを打ち込む。そこにのみ集中している。
移籍話にも動じず、独善的にシュートを。
「俺は、走ってチームに貢献するタイプじゃないですから。とにかく点を取ることで貢献できるフォワードだと思っています。だから点を取れなかったら、批判されるぐらいで全然いいんです。
フォワードですから、やっぱりチームで一番目立っていたい。でもどこの国のストライカーも同じじゃないですか。『俺が、俺が』って。もちろん自分だって『俺が』って思ってますよ」
ヴィッセル神戸への移籍が取り沙汰されている。
インタビュー時点では、ハーフナー自身「まだ何も聞いていない」ということだった。Jリーグでは移籍を繰り返し、海外初挑戦となったフィテッセの次にスペインリーグを新天地に選んだ。半年後にコルドバを離れるとフィンランドでもプレーした。その過程で、中国リーグへの移籍が騒がれたこともあった。
どこに移籍しようが、やることは変わらない。駆け引きに勝って、独善的にシュートを打ち込むだけである。
余計なことは頭に入れない、シンプルイズベスト。
ハーフナー・マイクはゴールだけをひたすら追い求めていく。