堂安律がオランダで成功する理由

堂安律は自らスピーカーを手に、サポーターに決意と感謝を語った。彼のキャリアは始まったばかりだ。 © photograph by J.LEAGUE PHOTOS 堂安律は自らスピーカーを手に、サポーターに決意と感謝を語った。彼のキャリアは始まったばかりだ。

 堂安律がオランダ1部リーグ、フローニンゲンへの期限付き移籍を果たした。

 尊敬する宇佐美貴史のバイエルン移籍の時と同じ期限付きで、実は退団セレモニーの日にち(6月25日)も天候(雨)も引分という結果もまったく同じだった。1年前、ベンチで見ていた先輩の後につづいて同じタイミングで海外に旅立つ奇跡のような偶然の一致に何かしらの意味を探してしまうが、堂安は「試合に出ることを優先した」という点において、宇佐美とは異なる選択をしたと言える。

 中田英寿の時から海外移籍を果たした選手をみてきたが、技術が高いことを踏まえた上で、海外で活躍できるか否かのポイントは、その選手の「人間性」とプレイヤーとしてのビジョンが明確であることに尽きる。

 堂安は、その両方を兼ね備えている。

「ガンバ大阪のジュニアユースから今までの7年間、このクラブには家族のような場所として所属させてもらいました。このクラブのフロント、スポンサー、コーチングスタッフ、チームメイトのみんなに感謝したいと思います。そして一番はここのクラブのサポーターのことが大好きです。しっかり向こうで頑張ってきたいと思います」

 堂安は、退団セレモニーの最後、そう語った。

 前日の夜、1人でスピーチの草稿を考えたというが、お世話になった人たちに対してしっかりと「感謝」の気持ちが述べられている。いつもは勝気なコメントが多いが、こういう場で感謝の気持ちを忘れずに声に出して言うのはなかなかできることではない。堂安の優れた人間性の一面を垣間見た気がした。

ちょうど1年前は、PSVのオファーを断った。

 ビジョンも明確だ。

 昨年、同時期にPSVからオファーを受け、海外に挑戦できるチャンスがあった。だが、当時はトップチームの試合に出場できず、J3で悶々とした日々が続いていた。ハードワークやオフザボールでの動き、スピードに課題を抱えていた堂安は今、海外に行っても活躍できないと断念した。そして、今回の移籍になったわけだが、背中を大きく押してくれたのは、U-20W杯韓国大会だったという。

「U-20W杯で感じたことは同世代では力的に劣るもんがなかった。ただ、これ以降、徐々に差が開いていくと言われているので、ここから自分を厳しい環境に置いていかないと成長できない。それで海外でやりたいと思った」

「海外で成功するために必要なものは、メンタルでしょ」

 移籍先としてオランダという国を選択し、中堅クラブを選択したのも成長へのビジョンが明確だからである。

「19歳、20歳で試合に出れないと意味がない。まず試合に出て、圧倒的な数字を残さないとあとにつづかない。出れば、やれる自信はあります。オランダのサイドハーフはロッベンを始め、スピードがあって仕掛けるイメージが強い。ただ、自分はそれだけじゃなく、中盤で組み立てもできるんで違う色を出せるかなと。あとは実際に行って慣れればスピードだけではなく、緩急やタイミングでいろんなことができるようになると思うんで不安とかないですね。生活面もパンとチーズを食べるし、食べ物は心配してない。持っていくもんはスパイクだけ。もう楽しみしかないです(笑)」

 海外で順調に成長し、成功するためには何が必要なのか、も理解している。

「海外で成功するために必要なものは、メンタルでしょ。自分が一番うまいと思ってピッチに立たないとダメなんで、ビビらずにやることが一番大事なんじゃないかなと思います。もちろんコミュニケーションも大事だと思うんで、今はまだ英語もオランダ語もしゃべれないから勉強します」

1、2年はオランダ。そのあとは……。

 海外にいけば19歳でも助っ人だ。

 30%増しで自国の選手よりも厳しくみられるだろうし、うまくいかないと叩かれる。その痛烈さは日本の比ではない。くじけてダメージを引きずったままでは生存競争に勝てない。

 そんな時、自分を支えてくれるのは強いメンタルしかない。オランダの“後”は、どう考えているのだろうか。

「まず、1、2年はオランダで勝負したい。その先はいずれビッグクラブに行きたいですね。バルサでやるよりも、バルサと戦えるチームにいきたい。ユベントスとかユニフォームがかっこいいし、強いじゃないですか」

 誰もが行きたいというバルセロナではなく、対戦相手になるチーム、しかも人気のスペインやプレミアではなく、イタリアのユベントスというのがいい。弱冠23歳、ユベントスのエースで同じ左利きのパウロ・ディバラと自分の姿を重ね合わせているのかもしれないが、目指す先もその理由も自分らしくブレがない。

遠藤保仁「オランダは律に合ってる」

 遠藤保仁は、堂安の成功に太鼓判を押す。

「最初にオランダを選択したのはいいことだと思う。クラブは中堅でこれからステップアップできると思うし、サッカー自体もフィジカル重視ではなく、ボールを握ってサッカーをやろうよっていう国なんで律には合っている。ポジションは、センターで自由にボールを受けるプレーをした方が活きる選手なんでサイドよりは真ん中の方が向いている。まだ19歳で向上心もある。慣れれば十分やれると思う」

 世界である程度やれるのは、同世代の大会だがU-20W杯で証明済みだ。オランダでは今まで積み重ねてきた技術で挑戦するが、その一方で、今までの自分とは違う何かを求める貪欲さもある。

「オランダでは、新しい自分を見つけたい。圧倒的な数字を残して海外のファンに愛される選手になりたいし、キャラクター的にも愛されたいなって思います」

 最初の数カ月は、誰もがそうであるように苦労するだろう。しかし、1、2年後、多くのファンに愛される堂安の姿もまた想像できる。

“あいつはプレーだけじゃなく人間的にも素晴らしい選手だ”

 そんな声が聞こえてくるプレイヤーに成長しているはずだ。

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