二松学舎で1年秋から3番を打つ男

平間陸斗の2年の夏は、3回戦で三本松(香川)に敗れて終わった。最後の夏、一回り大きくなって帰ってこられるか。 © photograph by Hideki Sugiyama 平間陸斗の2年の夏は、3回戦で三本松(香川)に敗れて終わった。最後の夏、一回り大きくなって帰ってこられるか。

 見に行きたくなるチームってありませんか?

 試合の勝ち負けより、選手個人を興味の対象にしている私のような者には、今度の新チームにはどんな新戦力を押し立ててくるのか、ひと冬越してあの選手はどんなふうに変わっているだろうか? 確かめずにはいられないチームとがある。

 単に好選手を揃えているというだけじゃ、わざわざ行こうとは思わない。極端にいうと、1番から9番までまったく異なる個性の選手が並んでいるようなチームがいい。

 大阪桐蔭高などもまったく憎たらしいほど強いが、毎年よくまあこれほど……とあきれるほどのバリエーションでチームを構成してくるから、見ずにはいられない。いや、ついつい待ち遠しく試合に駆けつけてしまう。

1年の秋から3番を打つ平間陸斗。

 私の住む東京でいえば、日大三高と二松学舎大附高がその双璧だろう。

 昨夏の二松学舎大附も、1試合があっという間に終わってしまうような見ていて飽きないチームだった。その中から、広島4位指名の永井敦士外野手(178cm88kg・右投右打)のような選手が生まれたわけだが、そのほかにも、バッティングだってプロ仕様の長身左腕・市川睦(日大進学予定)や、小柄でも意外性満載のクセ者・鳥羽晃平外野手(上武大進学予定)など、いつトイレに立てばいいんだ……というほどに“役者”が揃っていた。

 その中に、当時2年生にしては隙のない、大人っぽい野球をする選手がいた。

 平間陸斗という三塁手(177cm83kg・右投右打)だ。

 強打者、好打者が居並ぶ二松学舎大附の打線で、1年の秋からいつも3番を打っていた。

 別に、清宮幸太郎のように、とんでもなく飛ばすとか、そういうひと目見てどうこうという選手じゃない。しかし、見るたびに「へぇー……」っと唸らされる場面を必ず作る。

 特に、勝負強さがすごかった。

 いとも簡単にタイムリーを打ってみせる。それも初球だったり、ファーストストライクだったり、仕掛けが早く、ひと振りできめてみせるから、感心してしまう。

高校生離れした“実戦力”。

「絞り球をはっきり決めて……っていうのはあります。最近は初球から変化球で攻められることが多いんで逆に変化球待ちで、甘いストレートが来ても対応できるように」

 練習中の立ち話だったのであまり深い話もできなかったが、高校生なら普通はストレート待ちでいきたいだろうに、最初から変化球待ちでいこうとする“実戦力”。

 意識の高さが違う。

「こんなことがあったんですよね……」

 二松学舎大附・市原勝人監督の話が興味深かった。

送りバントのサインに「ええっ!」。

 ある公式戦でのこと。確実な送りバントに定評のある高校を相手に、「バントは向こうのほうが上だから、今日は送りバントのサインは出さない」と、試合前のミーティングで市原監督が宣言した。

「ところが、想定外に点が取れてコールドスコアですよ。その上、チャンスで平間にまわってきた。ここで1点追加して安心したいって気持ちが私の中に湧いてきて、自分で『今日はバントは使わない』って言っておきながら、スクイズのサインを出してしまった。

 そうしたら平間が、『ええっ!』って顔したんですよ。『監督さん、打って点取れって言ったじゃないですか』みたいな、いかにも『話が違うじゃないですか』みたいなね」

 ハッとしたという。

 すぐに“取り消し”のサインを出したら、平間陸斗、次の投球でものの見事に左中間をライナーで破ってみせた。

「一度決めて伝えたことは貫かないとダメなんだって、なんだか、彼に教えられたみたいな気がしましたね」

 負うた子に教えられ。

 監督冥利に尽きる場面だったはずだ。

とっさに出るスイングがすごい。

 昨秋の東京都大会以来、4カ月ぶりに目の前で見た平間陸斗はひと回り大きくなっていた。秋から5kgほど体重が増えて、83kgになったという。

 こちらから見るとちょっとポッチャリしたように見えるが、ここから先、春から夏にかけて練習でこってり続けることで、ちょうど程よくひと絞りされるだろう。

 バッティング練習を見ても、重くなった体を持て余している様子はない。低い角度のライナー性が左中間からセンター方向へ飛んでいく。

 ちょっと力んだ感じで引っぱった打球が飛ぶと、たとえそれがフェンス直撃でも、次の打球をセンター方向へ修正する。目先の結果より、投球を捉えるタイミングの確かさのほうを優先して考えている。

 マシンの投球が外に逸れる。とっさにスタンスを踏み換えて、打球を右中間へのライナーにしてみせた“とっさ力”がすばらしい。何が飛んでくるかわからない実戦でのバッティングなんて、「とっさにどんな打ち方ができるのか」。極論すれば、それがすべてだろう。

 練習の時のような“自分のスイング”で打てることなど数えるほどしかないことは、経験者の方なら体感でご存知のはずだ。

 自分のスイングにこだわらず、投球に合わせたスイングを躊躇なく繰り出せる実戦力が、二松学舎大附高・平間陸斗の勝負強いバッティングの正体と見た。

「チームを束ねる力では突出してますから」

 市原監督もこう自信をのぞかせる。

「『さあ、見てください!』って選手ですね、平間の場合は。ウチは、ほかにも身体能力抜群の畠山大豪(3年・外野手・180cm83kg・右投右打)や、この春は4番で使おうと思ってる保川遥(3年・一塁手・181cm80kg・右投右打)とか、楽しみな選手が何人もいるんですが、やっぱりリーダーシップというか精神年齢というか、チームを束ねる力では平間が頭ひとつ突出してますから」

ミスしても「すいません」は不要。

 グラウンドでは、ランナーを付けた守備練習「ゲームノック」が始まっている。

「ワンアウト、一塁、三塁!」

 捕手が状況設定をする。ノックバットを持った吉田直人コーチがホームベースの所から打球を飛ばすが、打球処理にミスがあっても、コーチから怒声が飛ぶことはめったにない。その代わり、選手たちから容赦ない叱責の声が飛び交う。

「ありがとうございます!」

 ミスを正された選手が帽子をとって、礼を述べている。

「『はい!』と『すいません!』で済ませてしまっては、何も残らない。怒られたんじゃなくて、アドバイスをもらったわけですから、普通なら『ありがとうございます』でしょ。ウチはこうなんです」

会話の輪を広げられる主将・平間。

 併殺狙いの場面で捕球ミス、送球ミスが続いて、主将・平間陸斗が選手たちを集めた。

 およそ20人ほどの選手たちの輪の中で、平間主将が選手に語りかけている。言葉をかけられた選手からも、ほかの選手たちに向かって話が始まった。会話の“輪”が広がっていく。

 相手を封じ込めるような一方通行じゃないのがいい。“双方向”の語り合いなのがいい。

「おそらく平間は、素早くプレーすることとあわててプレーすることの違いを諭してるんだと思います。私、野球でミスが発生する理由って、ほとんどあわてるのが原因だと思ってるんです。バント処理だって、併殺だって、普通にやればできるんです。バントなんて、捕り損なっても拾って投げればアウトでしょ。ウチは今、あわてない練習を一生懸命やってるんです」

 なるほどな、と思った。

野球は、現場に来てみないとわからない。

 併殺プレーも通常の打者走者を刺すプレーも、平間陸斗の動きの流れがすごくスムースだ。

 こういう連動で、こういうリズム、テンポで打球を捕球して投げれば、タイミング的にはまず刺せる。

 そんな“体内時計”が内蔵されているような平間陸斗のフィールディング。

 あわてないから、投げるために捕っている。あわてる選手は、捕る前からもう投げようとして姿勢が高くなったり、顔(目)が一瞬早く送球方向を向いてしまったり。

 平間陸斗は、投げる姿勢に移りやすい体勢で捕っている。だから、目の位置の低い姿勢で捕球して、そのままの体の高さで投げられる。結果として、スローイングの安定感が抜群だ。

 いたずらに数を重ねるだけが練習じゃない。

 ひとつの練習に意味と理由を持たせて、それを選手たちが確認し合いながら進めていく。結果として納得が積み重なっていく。

 それが、「練習の質」というものだろう。

 やっぱり野球は、現場に来てみないとわからない。

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