「泣ける場所ない」児童施設の内側
尼崎市尼崎学園(尼学)の生活はかつて、大集団で営まれていた。「大舎制」。児童養護施設の大半が、この形態を取っていた。
12畳に最大9人が暮らす。ご飯は食堂で全員が並んで食べた。風呂は共同。一斉消灯は午後9時。個人のスペースは、ロッカーと小学校高学年以上が持つ学習机ぐらい。プライベートはほとんどなかった。
区切りのない空間にたくさんの子ども。いいことも、そうでないこともすぐに広がった。職員の目が行き届かず、ルールだけが増え続けた。
元職員の女性がこぼす。「子どもには、泣ける場所もなかった」。退所後、行方が分からなくなった子も少なくない。
救いもある。今もつながりのある当時の子が言う。「それでもな、家にいるより学園の方が幸せやったよ」
家庭的な雰囲気を施設でも-。個別ケアを充実させる。尼学は4年前、個室のあるユニット制に建て替えた。
2月3日、節分。山のような恵方巻がユニットに届いた。
小学1年の蒼空がはしゃぐ。一転、南南東を向いて黙々と3本食べた。中高生は余りを巡ってじゃんけん大会。受験や将来、気になる女の子。願いごとは多い。7本食べたつわものもいた。
小学2年の大雅が恨めしそうにのぞいていた。インフルエンザで自室に“隔離”中だ。
満腹の中高生3人が唐突に面をかぶった。「俺ら鬼やるから、豆投げてこいよ」。外に飛び出し、「ウォーッ」と叫んだ。大雅は自室のベランダから全力で豆をまいた。目元をくしゃくしゃにして笑っていた。「めっちゃ、おもしろい」
家庭の事情で、突然一緒に暮らすことになった子どもたち。兄弟ではない。それでも時間が、互いを癒やしていく。(文中仮名)
(記事・岡西篤志、土井秀人、小谷千穂、写真・三津山朋彦)
