部下から急に距離を置かれる課長

女性部下から急に距離を置かれた総務課長、一体何をやらかした? © diamond 女性部下から急に距離を置かれた総務課長、一体何をやらかした?

「働く人の支援を行う専門家」である産業カウンセラーとして、11年間で6500件のセッションと社員研修を行い、ビジネスパーソンの問題解決を多方面でサポートしてきた宮本実果氏。その経験から、ダメな中間管理職があまりにも多いと言う。ケーススタディから管理職を養成する「管理職養成講座」第2回は、女性社員から急に距離を置かれた総務課長のケースだ。

物腰柔らかで人当たりもいいのに女性社員が離れていく

 国内大手企業で総務課長を務めるSさん(49歳)は、課長に就いて1年近く経った今、以前よりも直属の部下である30代の女性社員との距離が、どんどん遠くなっている気がしています。

 S課長は、物腰柔らかな話し方で、人当たりもよく、決して女性社員から嫌われるようなタイプではありません。

 さらに、勉強熱心で、コミュニケーションに関する本を熟読、管理職向けの社内研修にも積極的に参加するなど、学ぶ姿勢も素晴らしいものがありました。ですから、本人としては、部下とのコミュニケーションにも自信がありました。

 ところがです。最近になって女性社員の態度が変わってきたのです。いったい何が原因だったのか、S課長は頭を抱えてしまいました。

子どもを迎えに行く時間を配慮してあげた課長

 その原因を探るべく、ある日のS課長と部下との会話や行動にフォーカスして検証していくことにします。

S課長 「(20代男性社員に対して)A君、来週の会議資料の件だけど、部長が早めに手元に欲しいと言っているから、悪いけど明日の午前中までに会議資料をまとめてもらえる?」

部下A君(20代男性) 「かしこまりました。明日の午前中までにまとめます!」

S課長 「(時短勤務30代女性社員に対して)Bさんは、お子さんの送り迎えがあるから無理しなくていいからね」

部下Bさん(30代女性) 「あ…。今週は忙しいと思っていたので、夫に行ってもらうことにしました」

S課長 「そうか、そうか。今日は特に残業もないし、急ぎの仕事もないから、Bさんの判断でお子さんのお迎え行ってくるといいよ」

部下Bさん 「あ、はい。ありがとうございます…」

 みなさん、この会話には二つの問題があるのにお気づきでしょうか。

部下それぞれの事情を確認しなかったばかりに

 一つ目は、A君に対して、「部長から資料を急がされている」ことを理由とした仕事の依頼をしていることです。正直、その瞬間に部下たちは全員、「上司に言われたことをそのまま部下に言うなよ、まったく…」と思ったでしょう。

 二つ目は、A君には会議資料の作成を急がせている一方で、Bさんには急ぎの仕事はないと言っています。

  2人の状況を確認せずに言ったことで、2人ともに悪い印象を抱かせてしまっているのです。

 A君には、上司から言われたことを理由に仕事を依頼してモヤっとさせた上で、残業までさせてしまう可能性があります。Bさんには、「始めから自分は戦力として期待されておらず、排除して仕事を進めているんだな」と感じさせています。

 実際、S課長にはそうした思いはなく、親身になってBさんが子どもを迎えに行く時間に配慮したものでした。しかし、残念ながらBさんには伝わらず、S課長と距離を取るようになってしまったのです。

 熱心に勉強してコミュニケーション能力には自信があったS課長でしたが、大きな落し穴にはまっています。

ビジネスのコミュニケーションには事情や状況を把握する「自己開示」が必要

 連載の第1回「上場企業の超優秀な管理職の部下が次々と辞めた意外な理由」でもお伝えしましたが、相手の気持ちに配慮することは、対人コミュニケーションとしては重要なことです。しかし、ビジネスにおけるコミュニケーションは、「仕事の成果」を目的とすることが重要です。  したがって、S課長が取るべきコミュニケーションは、「部下の事情に配慮した気遣いをする」のではなく、部下の様々な事情や状況をリアルタイムに把握する「自己開示」だったのです。

 自己開示とは、自分の事情を「ありのままに伝える」ことで、相手の本音を引き出し、スムーズな会話を可能にします。

 例えば、こんな感じです。

S課長 「A君とBさん、今、ちょっといいかな。来週の会議資料の件だけど、会議前に部長と情報共有することになったから、明日の午前中までに会議資料をまとめることができるだろうか」

部下A君 「明日までですか…。抱えている案件を後回しにすれば、何とかなるかもしれませんが残業になっちゃいますね…」

部下Bさん 「私は、今日の保育園のお迎えは夫に行ってもらえるので、通常勤務の時間で仕事ができます」

S課長 「二人の状況を考えると、A君には抱えている案件を引き続き進めてもらうことにするよ。Bさんは、時間はいつも通りの勤務で、仕事の優先順位を変えることは可能かな?今日と明日の朝、会議資料の作成を最優先してもらってもいいかな?」

部下Bさん 「大丈夫です。今日の予定していた業務を明後日までにずらせば、作成できます」

S課長 「Bさん、調整ありがとう。では、よろしく頼むよ」

 このように、3人ともの状況をありのまま伝える自己開示ができたことにより、A君は残業せず仕事に向き合い、Bさんは時短勤務を守りつつ、仕事の優先順位を変更することにより臨機応変に仕事を進めることができました。

 近年、残業をなくすことを目的に、勤務時間の短縮化や厳格化などを図る動きをよく耳にしますが、それでは根本的な業務改善にはなっていません。

 また、女性管理職を育成するといっても、時短勤務で働く女性をどのように育成すればいいのか悩む管理職の方も数多くいます。

 これらの問題は、今回取り上げた事例のように、正しいコミュニケーション力を身につけることによって解決させることができると思います。

(MICA COCORO代表 産業カウンセラー 宮本実果)

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