燕川端復活へ伝統の松山合宿リポート
© サンケイスポーツ 提供 川端(右)ら8選手は手を合わせて「いただきます」。笑顔で鍋をつついた (撮影・蔵賢斗)
【密着24時/ミュージアム】 アスリートらの一日に密着し、知られざる姿に迫る企画の第5回は、1月9-17日にかけて愛媛・松山市で合同自主トレーニングを行った、ヤクルト・川端慎吾内野手(30)を追った。ヤクルトOBで楽天・池山隆寛2軍監督(52)が現役時代に訪れてから、代々引き継がれている自主トレは今年で22年目。2月1日に始まる春季キャンプを前にした厳しい練習と、権現温泉での共同生活をリポートする。 (取材構成・横山尚杜)
夏目漱石の小説「坊っちゃん」の舞台、松山で川端の一日が始まった。合同自主トレ中だった1月12日は、午前7時半に起床。目をこすりながらも温泉につかり、心身を徐々に目覚めさせる。
朝食後、車で20分の場所にある坊っちゃんスタジアムの室内練習場で練習開始。山田、中村ら12人が参加し、午前10時からウオーミングアップ。室温7度と冷え込んだが体幹トレ、ランニングなどをこなすと、体はポカポカだ。
午前11時。20メートルのシャトルラン(往復持久走)が始まった。70回を超えると山田がリタイア。100回超えで川端も「キツい…」と倒れ込むも復帰。キャッチボール、ノック、ゴロ捕球と午後0時半まで続いた。
ヤクルト選手の松山自主トレは今年で22年目。池山氏が始めて以来、稲葉篤紀氏(野球日本代表監督)、真中満氏(前ヤクルト監督)、ヤクルト・土橋勝征内野守備走塁コーチらが続いた。
川端が初めて参加したのは、プロ4年目を迎えた2009年1月。現役時代の宮本ヘッドコーチに誘われた。圧倒的な練習量に「自主トレの日が近づいてくると、キャンプ以上に緊張していた」と回顧。基本的に志願者は受け入れている。
質、量ともに充実した伝統の練習は午後も続く。午後1時半からの打撃練習では、川端が今季3年目の広岡の打撃練習で投手役を務めた。これも習わしだ。
「宮本さんにも同じことをやってもらった。自分が投げることで、若い選手も意識が変わってくる。(後輩が成長し)自分の立場が危うくなることもあるかもしれないが、自分も宮本さんや先輩にやってもらったことだから」と説明。助言を送りながら、200球以上を投げた。
練習終了は午後4時半。宿泊先の権現温泉に戻ると、湯に身をゆだね、疲れを癒やす。治療や昼寝など自由時間の後の夕食は全員で卓を囲み鍋をつついた。
午前0時にようやく就寝。参加者は相部屋で、川端は荒木と布団を並べて眠る。「松山自主トレのメンバーという特別な感情も芽生えて、絆もできますから」と共同生活の狙いを明かした。
「腰は痛みも不安もない。後悔しないように、しっかり練習をやっていきたい」
昨年8月、椎間板ヘルニアの除去手術を受け、プロ入り初めて1軍出場なし。充実の松山自主トレで、川端が復活への自信を深めた。
川端 慎吾(かわばた・しんご)
1987(昭和62)年10月16日生まれ、30歳。大阪府出身。市和歌山商(現市和歌山)高では2年夏から2季連続で甲子園に出場。2006年高校生ドラフト3巡目でヤクルト入団。11年に遊撃のレギュラーに定着し、13年からは主に三塁手。15年には首位打者と最多安打のタイトルを獲得した。昨季は椎間板ヘルニアの影響で1軍出場なし。通算成績は869試合に出場、打率.301、34本塁打、322打点。15年プレミア12日本代表。1メートル85、86キロ。右投げ左打ち。既婚。年俸1億4000万円。背番号5。
★カレー大好き
権現温泉で選手に好評なのがカレーライスだ。社長の石丸睦美さんが作っており、川端は「おいしいので、食べ過ぎてしまいます」。ルーは甘口で、北海道産のブランドじゃがいもで糖度が高い「インカのめざめ」がおいしさの秘密。権現温泉内のレストランでは、600円(税抜き)で食べられる。
★お宝たくさん
権現温泉の旅館の展示スペースには、宮本ヘッドコーチのユニホームや川端のバットなどが展示されている。このスペースを作り、2010年に亡くなった元社長の石丸直史さん(享年60)の息子で、自主トレも手伝っている篤史さんは「(川端)慎吾がバットを飾ってくださいと。本当にうれしかったです」。お宝グッズをさらに増やすことが、恩返しになる。
権現温泉(ごんげんおんせん)
愛媛・松山市にある温泉。アルカリ性単純泉で皮膚病、神経痛、疲労回復に効果があるとされる。1996年に池山(現楽天2軍監督)が訪れてから毎年、ヤクルトの選手が自主トレ時の宿泊施設として利用している。アクセスは車で松山空港より約35分、JR松山駅より約20分。