ソニー、8Kテレビに消極的な理由

 8Kの実用放送であるNHK スーパーハイビジョン(SHV) 8Kチャンネルが、2018年12月1日からスタートする。

 4Kの普及がまだこれからという段階ではあるが、年内には8Kが一般家庭でも視聴できる環境が整うというわけだ。

 だが、8Kに対する国内電機メーカー各社の足並みはそろっていない。それは、年初に米国・ラスベガスで開催された世界最大のテクノロジーイベント「CES 2018」でも垣間見られた。

●3月までに1000台以上売る!

 8Kに最も積極的なのは、シャープだ。

 現在、同社が取り組んでいる中期経営計画において、「8Kエコシステム」の構築と推進を、重点事業領域の1つに掲げていることからもそれが分かる。映像を生成する「カメラ・編集システム」、映像を伝送する「通信・放送インフラ」、映像を映し出す「表示機器」の3つの観点から、8Kエコシステムの構築に取り組み、それを実現する形で、2017年12月には、液晶テレビ「AQUOS 8K」を日本国内で発売。市場想定価格は、100万円前後(税別)と高額ながら、18年3月までに1000台以上の販売を目指している。

 実用放送開始まで1年というタイミングで販売を開始した今回の年末商戦では、主要量販店で、AQUOS 8Kを展示して、8Kならでの画質を訴求。さらに、デビューキャンペーン「シャープ8Kテレビ誕生祭」を実施し、8Kテレビ以外の液晶テレビを購入しても、ギフトカタログをプレゼントするという手法で、8Kを盛り上げてみせた。

 さらに、ビジネス領域での展開にも力を注いでいる。医療分野では、8K内視鏡システムとしての活用を開始。工業分野では、精密機器の生産現場で微細な傷を発見する検査システムで8Kを活用し、シャープの国内工場へも導入する。また、農業分野では、害虫駆除や農作物の生育管理システムを構築し、美術館や博物館向けには、展示物と8K映像のコラボレーションにより、展示物に関する理解をより深める提案をしているという。そのほかにも、警備やインフラ保守、パブリックビューイングでのスポーツ観戦、教育など、幅広い分野で8Kを活用した提案を開始しているところだ。

 シャープの戴正呉社長は、「AI(人工知能)やビッグデータ、さらには関連パートナーが持つ技術などを組み合わせて、8Kエコシステムを実現するさまざまな革新的なソリューションを創出することに取り組んでいく」としている。

 シャープは、大阪府堺市の堺ディスプレイプロダクトで、8K対応の液晶パネルを生産しているという強みも、同社が8Kビジネスを加速する理由の1つだ。17年度下期には、8Kエコシステム構築に向けた技術開発に、事業本部の経費とは別枠となる約47億円の社長ファンドを充当することも発表している。そして、20年度には、シャープが販売する60型以上のテレビの半数以上を8Kテレビにする意欲的な目標も打ち出している。

●世界に8Kビジネスを広げる

 CES 2018でも、シャープは8Kに特化した展示を行っていた。

 同社は、展示会場には出展せず、ホテルの一室を借りて、招待者に限定した展示を行っていた。展示していたのは、70型8Kディスプレイ、27型8Kディスプレイおよび8Kカムコーダーだ。色鮮やかなボディペイントを行う様子を、8Kカムコーダーで撮影し、それを8Kモニターで表示することで、8Kならではの表現力を訴えてみせた。シャープが、米国において、8K製品を公開したのはこれが初めてだ。

 ここでの展示は、放送局などの業務用途を想定したものとなっており、特に世界初となる業務用8Kカムコーダーは、1台で8K映像の撮影、収録、再生、ライン出力を実現。シャープが映像制作機器分野に本格参入することを宣言するものでもある。同社は、「8K映像制作に必要な環境を早期に構築し、映像コンテンツの8K化を一気に加速していきたい」とする。

 戴社長は、「シャープは真似されるものを作る会社。シャープが目指す8Kエコシステムは、他社に真似されるものであり、社会に貢献するものである」と前置きしながら、「8Kのビジネスは、フォックスコン(鴻海精密工業)がサポートすることになり、日本だけでなく、米国や欧州、中国でも8Kが使われるようになる」と、この分野で先行し、世界規模で8Kビジネスを拡大することに意欲を見せる。

●パナソニックが慎重になるワケ

 一方で、パナソニックとソニーは、8Kに対しては、現時点では、慎重な姿勢を見せている。

 メインブースに家電製品を展示しなかったパナソニックは、ホテルの別会場で、欧州での先行発売を予定している4K有機ELテレビなどを展示したものの、8Kに関する展示はまったく行わなかった。

 同社では、8Kテレビの製品化については検討しているものの、具体的な商品化には慎重だ。「8Kがコンシューマ市場に本当に受け入れられるかを見極めなくてはならない。18年12月から開始する8Kの実用放送開始に合わせて、テレビへの搭載あるいは外付け受信チューナーによる受信対応を検討している」と述べる。

 また、8Kテレビについては、「75型以上の大画面テレビで効果が発揮される」と語っており、大画面サイズでの商品化が前提となりそうだ。

 パナソニックのテレビ事業は、有機ELパネルを搭載した製品をフラッグシップに位置付けており、そこに同社がプラズマテレビ時代から培ってきた自発光技術などが生かせると考えている。当然、8K時代においても、有機ELをフラッグシップに位置付けるというのが自然な流れになるが、現時点では、8K対応においては液晶パネルの開発が先行しており、仮にパナソニックが8Kを商品化した場合にも、まずは液晶パネルで投入する可能性が高い。

 8Kへと高精細化すると画素部(発光部)の面積が小さくなるため、明るさを確保しにくいという課題があり、この点で有機ELは不利と言われている。それに対して、液晶は、発光部を大きく取れるため高精細化しやすく、8K化には有利とされているからだ。

 同社では、「最終的には、有機ELの方が、8Kにおいて真価を発揮できる」と見ており、テレビ向け有機ELパネルを生産するLG電子が、今後、技術的課題をどう解決するのかが注目される。CES 2018では、パネルの生産を行うLG Displayが、招待客だけを対象に、88型の8K有機ELパネルを公開しており、量産化に向けて準備が進んでいることを示している。有機ELパネルの8K化の動きが注目される。

●「これから伸びるのは4K」とソニー・平井社長

 ソニーは、CES 2018において、8Kにも対応した次世代高画質プロセッサ「X1 Ultimate」を発表。4Kテレビに搭載している現行のX1 Extremeと比較して、約2倍のリアルタイム画像処理能力を実現するとともに、液晶パネルと有機ELパネルのそれぞれの特徴を引き出した高レベルの画質を表現できることを訴求した。

 ここでは単なる技術発表だけでなく、同社ブースでは、試作段階にあるX1 Ultimateを活用した4K有機ELディスプレイと8K液晶ディスプレイを参考展示。8Kにおいても、独自の画像処理技術とバックライト技術を組み合わせて、HDRフォーマットの最高値である1万nitの超高ピーク輝度を表現し、8K時代に向けた準備に余念がないことを示した。

 だが、ソニーの平井一夫社長は、8Kの実用放送開始に向けた取り組みにはやや消極的だ。CES 2018の会場でインタビューに答えた平井社長は、CES 2018のX1 Ultimateによる8Kディスプレイの展示について、「最上位の活用方法として8Kをお見せしたが、これはすぐに商品化するものではなく、今の技術でここまでできるという技術の優位性を見ていただいたにすぎない」とする。

 そして、テレビ事業のマーケティング戦略の観点からも、「4Kがいよいよ定着してきた段階にある一方、8Kコンテンツを届ける方法が難しい中で、8Kテレビをメッセージングするのは時期が早いと考える。いまは、『4KプラスHDR』こそが顧客に対するメッセージだと考えている」と力を込める。

 続けて、「これから伸びるのは4Kテレビ。8Kがこれからの主流だというような、あえて混乱するようなメッセージを出す必要もない。次々と技術を訴えても、ユーザーにとってベネフィットがなく、メーカーにとってもプラスに働くものではない」と、まずは4Kテレビを訴求していく姿勢を強調する。

 NHK SHV 8Kが12月1日からスタートするタイミングで、BS右旋では12月1日からBS朝日、BSジャパン、BS日テレ、NHK SHV 4K、BS-TBS 4K、BSフジが4K実用放送を開始。BS/110度CS左旋では、ショップチャンネル、映画エンタテインメントチャンネル、WOWOWのほか、スカチャン4Kの8番組が同じく12月1日から4K実用放送を開始する。

 8Kは1チャンネルだが、4Kの実用放送は、衛星放送波で18チャンネルが一気に立ち上がる。

 また、ケーブルテレビやIPTVのほか、Netflixやアクトビラ、dTV、YouTube、Amazonビデオでも4Kコンテンツの配信を行っており、4Kコンテンツは豊富だ。4Kテレビが20万円を切る価格で販売されていることも、4Kテレビの普及を加速させることになるだろう。4Kを優先するのは、こうした市場背景も見逃せない。

 だが、ソニーは、8Kの業務領域への提案は先行させたい意向だ。

 「かつてのアナログ時代に、ハイビジョンで撮影したコンテンツを4:3のアナログ放送で配信していた時期があった。これと同じように、コンテンツを制作する側は、今から8Kでコンテンツを作っておき、実際にユーザーに届ける際には、HDや4Kで配信し、将来的に8Kが本格化したとき、8Kで届ける準備ができるようになる。制作する側は新たな技術を先取りするべき。これは、ユーザーに対して今8Kをどう届けるのかは別の問題である」とコメントする。

 放送機器事業においても多くの実績を持つソニーは、8Kには放送機器の分野で先行させたいという思惑があると言える。

 ただ、ソニーの平井社長は、「8Kが本格化する時期については、なかなか明確には言えない」とし、「8Kで撮影したコンテンツも増やさなくてはならないし、チップセットの性能も上げていく必要がある。また、8Kコンテンツをどう配信するのかも課題」とする。

 8Kの実用放送が始まっても、8Kブームが到来するには、電機メーカー各社の足並みがそろう必要がある。それにはまだ時間がかかりそうだ。

(大河原克行)

Category: ,