屈辱を乗り越えた「遅咲き選手」たち

 新人王を受賞した京田陽太(中日)、源田壮亮(西武)以外にも浜口遥大(DeNA)、山岡泰輔(オリックス)、大山悠輔(阪神)などルーキーの活躍が目立った今年のプロ野球。中継ぎ投手でも高梨雄平(楽天)、黒木優太(オリックス)、有吉優樹(ロッテ)などがチームを支え、高校卒でも藤平尚真(楽天)、山本由伸(オリックス)が早くも初勝利をマークしている。

 その一方で長い二軍暮らしを経て、チームの主力となる選手も存在している。今回は今年キラリと光ったそんな遅咲きの選手について紹介したい。

 今年最もブレイクした遅咲きの選手と言えば、今年プロ入り10年目の桑原謙太朗(阪神)になるだろう。奈良産業大(現・奈良学園大)時代はリーグ戦で完全試合を達成するなど活躍。当時から鋭く横に変化するスライダーのキレは定評があり、07年の大学生・社会人ドラフトで横浜に入団した。

 即戦力の期待も大きく、ルーキーイヤーには1完封を含む3勝をマークしたものの、その後は低迷。トレードで移籍したオリックス、阪神でも成績を残すことができず、昨年は一軍登板数ゼロに終わっている。年齢を考えると戦力外になってもおかしくない状況だったが、今年はオープン戦で結果を残して開幕一軍入りを果たすと、5月からは完全にセットアッパーに定着して19試合連続無失点をマーク。終盤は疲れから打ち込まれる場面はあったものの、チームトップの67試合に登板して4勝39ホールド、防御率1.51という見事な成績でチームの2位躍進に大きく貢献した。

 以前は140キロ台中盤が多かったストレートが、現在では150キロを超えることも珍しくなくなり、そのことで決め球のスライダーが生きるようになったことがブレイクの要因と言えるだろう。また、そのストレートも手元で小さく変化し、芯でとらえづらいというのも特長だ。

 ただ、基本的なスタイルは変わっておらず、緻密なタイプではないためストレートが走らなくなると、今季終盤のように苦しくなってくる。続けて活躍するにはストレートの勢いを保つか、もうひとつ頼れる球種をマスターすることが必要になってくるだろう。

 桑原と同じ10年目でブレイクした野手が安部友裕(広島)だ。福岡工大城東高時代は甲子園出場こそなかったものの、スピード溢れるプレーが持ち味の大型ショートとして注目を集め、2007年の高校生ドラフトでは唐川侑己(ロッテ)の外れ1位指名で広島に入団した。

 入団当初は打撃に難があり、二軍暮らしが続いたが、5年目の2012年から徐々に一軍の戦力となると、2016年は内野のバックアップ要員として115試合に出場してチームの優勝に貢献。そして今年は開幕から好調を維持してサードのレギュラーをつかみ、初の規定打席に到達してリーグ4位となる打率.310の好成績を残した。

 安部は非力な印象が強かったが、年々体が大きくなってきたことで力強さが出てきたことが大きい。苦手だった左投手に対してもしっかり体が残るようになった。持ち味であるスピードも健在で、チーム2位となる17盗塁もマークしている。チャンスメーカータイプにしては三振が多く、打率の割に出塁率が高くないのは課題だが、同学年の「タナ(田中広輔)、キク(菊池涼介)、マル(丸佳浩)」の三人とともに、来季もチームの野手陣を引っ張る活躍が期待される。

日本ハム・大田泰示(c)朝日新聞社 © dot. 日本ハム・大田泰示(c)朝日新聞社

 その安部を抑えて見事首位打者に輝いた宮崎敏郎(DeNA)も在籍は5年目ながら、大学、社会人を経てのプロ入りであり、今年で29歳という年齢を考えると遅咲きの選手と言えるだろう。

 高校時代は全国的には無名で、大学も九州の地方リーグである日本文理大に所属しており、当時はドラフト候補とも言われていなかった。入社したセガサミーで中軸を打つようになってようやく注目を集めるようになったが、ドラフトでの6位という順位も決して評価が高くなかったことがよく分かるだろう。

 プロ入り後も2年目までは二軍暮らしが多かったが、セカンドも守れる器用さを生かして3年目から一軍に定着。そして今年はサードのレギュラーとして初の規定打席到達とともに首位打者にも輝き、チームの日本シリーズ進出にも大きく貢献した。上背はないものの、たくましい体格でパンチ力は申し分ない。ただの力任せではなく、柔らかいリストを生かして右方向へも安打を量産できることが高打率を残すことのできた要因と言えるだろう。

 野手でもうひとり、忘れてはならないのが大田泰示(日本ハム)だ。東海大相模高時代は3年夏の神奈川大会で大会記録となる5本塁打を放ち、超高校級の大型野手として注目を集め、ドラフトでは巨人、ソフトバンクとの競合の末、1位で巨人入りを果たした。

 しかし、高校時代から当たれば飛ぶものの無駄なバットの動きが大きく、大成するまでに時間がかかるという声も多かったが、その評価通り、プロ入り後は苦戦することとなる。二軍では結果を残して毎年のようにレギュラー獲得の期待がかけられるものの、課題の確実性はなかなか向上せず、巨人に在籍した8年間での通算安打は100本、通算本塁打は9本と期待を大きく裏切る結果に終わった。

 ところが、昨年オフに日本ハムにトレードで移籍すると、今季は4月下旬から外野の一角に定着。自身初となる規定打席をクリアし、これまでの通算成績を上回る110安打、15本塁打を放ち低迷するチームで奮闘を見せた。巨人時代はなかなか打つ形が安定しなかったが、今季は細かいことを気にせずにしっかり振り切ることができるようになった。15本塁打中8本がファーストストライクをとらえたものであり、積極性が出てきたこともプラス材料だ。低めの変化球に弱く、打率と出塁率の低さは課題として残っているものの、大谷翔平(エンゼルス)が抜けるチームにとってその長打力は極めて貴重である。

 以前は30歳を過ぎるとベテランという印象が強かったが、トレーニング技術の向上によって確実に選手寿命は延びている。技術や読みなどは経験によって培われる部分が大きいため、体力的な衰えを防ぐことができれば、30歳前後になっても大きく成績を上げられる可能性は十分にあるだろう。

 また、下積みが長い選手ほど活躍した時の輝きが大きいことも確かである。来季もルーキーをはじめとした新星とともに、ここで紹介したような遅咲きの選手のブレイクにもおおいに期待したい。(文・西尾典文)

●プロフィール

西尾典文

1979年生まれ。愛知県出身。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間300試合以上を現場で取材し、執筆活動を行っている

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