J1復帰実現せずとも 東京Vの上昇曲線

名門復活を託された竹本GM。ロティーナ体制の決断をした1人でもあり、信頼関係は堅い。久々のJ1復帰へ、視界は開けてきた。 © photograph by Tetsuro Kaieda 名門復活を託された竹本GM。ロティーナ体制の決断をした1人でもあり、信頼関係は堅い。久々のJ1復帰へ、視界は開けてきた。

 音もなく、そろっと記者会見室に入ってきたロティーナ監督が席に着き、隣に通訳の小寺真人が座る。

 感情を読み取れない顔だ。ややむすっとして見えるが、それはいつものこと。

 試合で勝っても負けても、表情や所作は一切変わらない。以前、ロティーナ監督は「勝ったときはとてもうれしく、幸せな気持ちになります。だが、会見のような公の場で笑顔を見せるのは、対戦相手にリスペクトを欠く行為です」と話した。逆もまたしかり。この人物の流儀である。

 11月26日、2017 J1昇格プレーオフ準決勝、アビスパ福岡対東京ヴェルディ。14分に山瀬功治のゴールで福岡が先制し、東京Vが追う展開となった。プレーオフはレギュラーシーズン4位の福岡にアドバンテージが与えられ、5位の東京Vは勝たなければ昇格の望みが絶たれる。この時点で2点が必要となり、苦境は深まった。

 リーグ最少失点の福岡の守備は統率され、付け入る隙を見せない。打開を試みる東京Vは後半に入って攻撃の手数を増やし、チャンスをつくりかけるが、かすかに漂ったゴールの予感も、予感のまま終わった。

 今季、チームトップの18得点を挙げたドウグラス・ヴィエイラ、17得点のアラン・ピニェイロは不発。躍進の原動力となったブラジル人コンビが得点はおろか、ただの1本もシュートを打てなかったことが、このゲームを象徴していた。

「まず、ヴェルディの選手たちを祝福したい」

 敗軍の将は、静かに語り始める。

「まず、はじめに東京ヴェルディの選手たちを祝福したいです。今季、彼らはとても素晴らしい仕事をしてくれました。試合後、泣いている選手や下を向いている選手もいましたが、シーズンを通して考えれば顔を上げるべきだと思います。決勝に進出した福岡のことも祝福したい。また、今日のような難しいゲームを裁き、すばらしい仕事をしたレフェリーたちも祝福したいです」

 審判員についてもさらっと触れるのが、ロティーナ監督のらしさだ。試合中はジャッジに対して感情を露わに不服な態度を見せることもあるが、根底には他者の仕事への敬意がある。

これまで何度も形勢を覆してきた修正力も効かず……。

「福岡の先制点によって、試合の方向が決定づけられました。スタートは決して悪くなかったのですが、相手がゴールを決めたことで引き分けでもよい状況がより有利に働き、自信を持ってプレーしていたように思います。福岡はリトリートした状態でとてもよい守備をするチームで、チャンスを容易に与えてくれない。ゲームを支配し、向こうの陣内でプレーすることはできましたが、多くのチャンスはつくり出せませんでした」

 ロティーナ監督は試合中の修正力に長け、これまで巧みな采配で何度も形勢を覆してきた。スペイン仕込みの磁場に引き込まれるように勝点を置いて去ったチームはいくつもあったが、今回ばかりは打つ手が功を奏さなかった。

 こうして、初のプレーオフ出場までこぎ着けた東京Vの2017シーズンは終焉を迎え、10年ぶりのJ1復帰は儚く消えた。

 完敗に違いないが、ここで得られた経験は消化吸収され、好影響を及ぼす可能性を秘める。チームに、プレーオフの経験者は梶川諒太と橋本英郎のみ。多くの東京Vの選手たちが土壇場での1点の重さ、怖さを思い知った。勝者と敗者を分かつ、新たな基準を手に入れたはずだ。

はた目には5位のチームが負けただけに見えたとしても。

 はた目には所詮リーグ5位のチームがコロっと負けた、取るに足らない出来事と映るだろう。事実、その通り。しかしちっぽけだけれども、チームにとって大切な一歩だ。

 ロティーナ体制を主導した竹本一彦ゼネラルマネージャーは、今季をこう総括する。

「非常に内容の濃いシーズンでしたね。ロティーナ監督の指導により徐々にチームが完成され、その中で若手が伸びていった。ただ今日の若手の出来であれば、ベテランにはまだ及びません。たとえば、経験のある橋本のほうが中盤で効果的な仕事ができたはずです。こういった舞台で、もっと自分の特長を発揮できるように成長を求めたい」

 サイドアタッカーとして開花した安西幸輝、攻守に貢献度の高い渡辺皓太、センターバックとして一本立ちしつつある畠中槙之輔など、めきめき頭角を現してきた若い選手は多い。長期的なスパンでチームづくりを進めているだろうロティーナ監督は彼らを粘り強く起用し、その方針は最後までブレなかった。

監督「勘違いすると危険ですよ」

「チームが昨季の18位から5位に順位を上げ、プレーオフに出場できたのは大きな収穫です。そうして、J1を垣間見ることもできた」

 垣間見るという表現は、じつに的を射ている。物陰からチラッと覗き見ただけ。つまり、J1を明確なターゲットとして直視し、距離感をつかむまでには至らなかった。

「来季の目標は5位を上回ること。当然、J1は現実的な目標になります。ただし、同時に足元をしっかり見ることが大事。勘違いすると危険ですよ。問題なくできていたことができなくなる。好成績を残した翌年、J3に降格した大分や北九州の例もあります」

 大分と北九州はともに、7位となった次のシーズン、J3に転落する憂き目を見た。J2は実力が拮抗しており、ちょっとしたボタンの掛け違いで取り返しのつかないことになる。

「福岡とのゲームでわかったように、最後は堅いディフェンスをこじ開けられる攻撃力が必要です。得点力、個のパワー、コンビネーションの精度。来年に向けて、足りない部分の補強を進めます」

 竹本GMは、そう話を締めくくった。

 ロティーナ体制2年目の東京Vはどのような進化を見せるだろうか。早くも胸の高鳴りを覚える。

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