モウ監督が再生したマンU負の遺産

大型センターハーフの先駆者であるフェライニ。そのサイズ感とスケールは、名将のもとで再び脚光を浴びている。 © photograph by Getty Images 大型センターハーフの先駆者であるフェライニ。そのサイズ感とスケールは、名将のもとで再び脚光を浴びている。

 今季のプレミアリーグは、首位マンチェスター・シティを得失点差「1」でマンチェスター・ユナイテッドが追う展開で10月を迎えている。ポール・ポグバを9月前半に怪我で失っても、シティと共に開幕から負け知らずのまま首位争いを演じている。

 ポグバは、中盤におけるエネルギーと攻撃センスの源。その代役を務めているのはマルアヌ・フェライニだ。フィジカルの塊のようなフェライニは、ネマニャ・マティッチとダブルボランチを組み、7節クリスタルパレス戦で2得点を挙げてマンオブザマッチに輝いた。試合中には得点者としてオールド・トラッフォードの観衆に名前を謳われ、試合後には勝利の立役者として拍手喝采で見送られた。

ラフプレーが目立ったモイーズ体制の「負の遺産」。

 この一戦を経て、メディアでは「状況一変」と騒がれることになった。これまでフェライニと言えば、ファンからブーイングを浴びたことが1度や2度ではないほど、ユナイテッドでは極度に不評だった。2013年夏、新監督に就任したデイビッド・モイーズが獲得した唯一の新戦力は、1年もたずに終わったモイーズ体制の「負の遺産」と認識されてきた。

 空中戦での肘打ちを含むラフなプレースタイルは、攻撃サッカーの王道を信条とするユナイテッドファンの「目に余る」とされ、「ユナイテッド流」の選手ではないとの理由で放出を望む声が絶えなかった。ファンのみならず、モイーズの後を受けたルイス・ファンハール前監督も、フロントに売却画策を要請したとさえ言われる。

 そのフェライニが、ジョゼ・モウリーニョ体制下で力強さと高さを遺憾なく発揮している。例えば、今季CL初戦バーゼル戦では負傷したポグバと代わったフェライニは、得意のヘディングによる先制ゴールもあってマンオブザマッチに選ばれ、指揮官の信頼に重要な働きで応えている。この結果が、華やかさや巧さを好むファンにも受け入れられるようになったのだ。

外野に何を言われても平然とする男への信頼。

 状況が好転した理由は、フェライニが「モウリーニョ流」の選手であることが大きい。「ひたすら勝つことに集中して、外野に何を言われても平然としている。同じ姿勢を選手にも求める」とモウリーニョを説明していたのは、チェルシー時代に師弟関係にあったフランク・ランパードだ。

 フェライニを「ファイター」と形容することの多いモウリーニョは、ベンチスタートが続いてもジムでの筋トレや居残り練習を欠かさず、出番を与えられればフィジカルを最大限に生かそうとするこの男を、自らと同じ姿勢の持ち主と見て取ったに違いない。

 ランパードの言葉を続けると「とことん信頼を示して、より自分らしいプレーを引き出してくれる」のがモウリーニョという監督でもある。実際、ファンハールとは違って就任当初からフェライニを「非常に重要な戦力」と公言し続けてきた。同時に、周囲の非難からは徹底的にフェライニを守ってもいる。

 例えば、退場処分を受けた昨季終盤のシティ戦後のこと。セルヒオ・アグエロへの頭突きはメディアで「愚行」と叩かれたが、指揮官は「トンネルで見かけたが、アグエロは鼻が折れているわけでもなく、いつものように男前だった」と語り、間接的に相手FWの反応が大袈裟すぎたと示唆した。またベンチを出た直後にPKを与えてファンの大顰蹙を買ったエバートン戦でさえ、「単純なミスはあったが悪くはない」パフォーマンスと弁護した。

昨季のEL優勝はフェライニ抜きにはあり得なかった。

 11月で30歳になるフェライニのプレースタイルが変わったわけではなく、機動力や足元の技術という弱点が大幅に改善されたわけでもない。それでもモウリーニョ自身も「絆」を強調しているように、自らを信頼してくれる監督の存在と、それに伴う自信回復が貢献度アップをもたらしたと考えられる。

 ユナイテッドが昨季果たしたヨーロッパリーグ(EL)優勝は、フェライニ抜きにはあり得なかった。

 セルタとの準決勝第2レグでの勝利をもたらしたゴールは、この日1本目の枠内シュートでもあるフェライニのヘディングだった。そしてアヤックスを下した決勝では、フェライニのパスがポグバによる先制点を呼んだ。

ターゲットマンにもボランチ兼ストライカーにも。

 EL制覇によってCL出場権を得たことで、ユナイテッドファンはモウリーニョへの信頼と期待をあらためて強めることになった。結果的にフェライニにも「モウリーニョが認めているのだから」と、態度が寛容になった部分はある。

 なにより今季はCLと二足の草鞋を履きつつ、クラブにとって5年ぶりのプレミア優勝を目指す指揮官は、フェライニについて「いてくれないと困る」とまで言っている。今夏のガラタサライ移籍商談に待ったをかけたのもモウリーニョに他ならない。

 結果を重んじるモウリーニョは、必要とあれば守備的な采配を振るう覚悟を示している。5バックで逃げ切った6節サウサンプトン戦が象徴的だ。その試合で及第点以上の出来を見せたフェライニは、ロングボールのターゲットマンとなり続けた。

 しかも、ポグバが復帰に最大3カ月との説もある怪我を負った現在、フェライニはオプションの“プランB”だけではなく、“プランA”でも主力となり得る。マティッチの加入で中盤の守備が安定したことから、相手ゴール前に顔を出す頻度を増してフィニッシュに絡む。いわゆる「ボランチ兼ストライカー」の任務を与えられている。冒頭に挙げたクリスタルパレス戦での2得点も、ボックス内で決めたゴールだった。

優勝候補との直接対決でも力を見せられるか?

 代表ウィーク後は10月14日の敵地リバプール戦をはじめ、トッテナム、チェルシーといった優勝候補との直接対決が控えている。ポグバ不在でもフェライニが持ち味をフルに発揮して貢献し続ければ、1年契約しか提示の用意がなかったフロントから、好条件に修正された新契約が提示される可能性も十分だ。

 その契約にフェライニ自身が首を縦に振れば、納得の笑みを浮かべる指揮官の様子は想像に難くない。そしてユナイテッドファンにも、移籍ではなく残留が歓迎されるのではないか?

 優勝を狙える「モウリーニョのユナイテッド流」選手として。

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