かつてとは別人、元阪神の大エース

あの井川慶が大阪のテレビ番組にゲスト出演!

 早いもので、2017年のペナントレースも終わりに近づいてきた。私が応援する阪神は9月中旬に広島のリーグ優勝を許したものの、セ・リーグ2位でのクライマックス・シリーズ進出が確定。昨季が借金12の4位だったことを考えると、上々の結果だ。

 その一方で、このところの球界では現役引退や戦力外通告など、秋らしい人事の話題も続いている。我が阪神も決して例外ではなく、掛布雅之二軍監督の退任や、安藤優也と狩野恵輔の現役引退など、寂しいニュースも次々に報じられた。

 そんな中、9月27日にはもうひとつ気になるニュースを見つけた。ニュースはニュースでも、大阪の朝日放送で平日夕方に生放送されている『キャスト』というテレビのニュース番組。この中のスポーツコーナーに、あの井川慶がゲスト出演したのだ。

9月27日放送のABC朝日放送「キャスト」に出演した井川慶 ©文藝春秋 © 文春オンライン 9月27日放送のABC朝日放送「キャスト」に出演した井川慶 ©文藝春秋

 ご存知のとおり、井川は2000年代前半から中盤にかけて阪神のエースとして活躍したあと、MLBに移籍するも満足な活躍ができず、2012年にNPBのオリックスに復帰。詳細は割愛するが、とにかくいろいろあって、38歳となった今はベースボール・ファースト・リーグ(以下、BFL)という独立リーグの兵庫ブルーサンダーズで無給契約ながら現役を続けている。今季の兵庫での成績は、14試合に投げて11勝0敗、防御率1.09。衰えたとはいえ、さすがに独立リーグでは格がちがうようだ。

 よって、この圧倒的な好成績をもってしても、NPBの高いレベルで井川が通用するかどうか、つまり井川復活と言えるかどうかはわからない。ひとつだけ確かなことは、かつて痛めた肩や肘が現在は良好な状態で、元気にイニングを消化できるようになっているということだ。ストレートの球速も140キロを超えるくらいまで戻ってきているという。

38歳になった井川はかつてとは別人のような柔和な笑顔

 井川といえば昔から朴訥とした雰囲気があって、基本的に無口で無表情な男だった。阪神時代、私もある仕事の関係で彼にインタビューしたことがあるのだが、そのときも表情に柔らかさがなく、さらに本音をはっきり語りたがらない、いや、質問に対する答えを真剣に考えすぎて、なかなかまとめられない、そんな印象を受けた。兵庫入団後に報道されたインタビューなどでも「NPBを目指すのか?」という質問に対して、「わからない」「1年間しっかり投げて、自分の中だけでも良いイメージで終えたい」といった、どこか捉えどころのない曖昧な回答ばかり。ファンが気になるのはやはりNPBへの想いだろうが、これまでの井川はそこに対する明言を避けているような空気さえ感じられた。

 ところが、同番組で見た井川はそんな過去の姿とはちがっていた。

 スポーツコーナーの解説を担当する阪神OBの下柳剛氏も交えてトークを展開していたのだが、阪神時代から親しい間柄だったという下柳氏が相手だからか、井川の表情は実に柔らかく、さらにいつもより饒舌で、笑顔も多い印象を受けた。あの井川も今や38歳。目じりの笑い皺が年月を感じさせる。本当に紆余曲折あったからか、なんとなく憑き物が落ちたかのような、そんな軽やかさがあった。これはもしや、今季限りでの現役引退を決意したのかもしれない。そんなことさえ思ったほどだ。

「NPBで投げられれば最高」井川にしては珍しい言葉

 しかし、同番組での井川はアナウンサーから来季のNPBへの想いを訊ねられると、彼にしては珍しく「もちろん、上でできれば最高です」と即答した。さらに「阪神からのオファーがあったら受ける?」という質問にも「そうですね。もちろん、そうです」と断言した。これまでの井川のメディア対応を考えると、ここまで具体的な意志をはっきり口にするのは極めて珍しい。今季、兵庫でそれなりのイニング数を消化(完投も記録)できたことで自信を得たのか、とにかく井川はもう一度“阪神で投げたい”という。実際、10月5日には阪神の二軍とBFL選抜との交流試合が行われ、BFLの先発として登板した井川は阪神二軍を相手に3回3安打1失点と、まずまずの投球を見せた。

 おそらく、井川は自分の野球人生の終わり方を模索しているんだと思う。かねてから「納得のいくかたちで終わりたい」と言っていた井川だが、その納得とは今やNPBで投げるということなのだろう。果たして、現在の阪神はそんな井川をどう受け止めているのか。チームとしては若返りを進めている最中だけに、その流れには合致していないが……。

 とはいえ、井川はかつて阪神で5年連続二桁勝利を挙げ、20勝や沢村賞、MVP、三度の最多奪三振、ノーヒットノーランなど数々の記録を打ち立て、チームを二度のリーグ優勝に導いた功労者の一人だ。彼はまちがいなく虎の大エースだったのだ。

 あれから月日が流れ、そんな井川にも現役最晩年が迫ってきた。果たして、井川はこのまま終わるのか、それともNPBに復帰できるのか。甲子園にたくさんの白星を運んできてくれた「エース・井川の終わり方」をこの目で見届けたい。

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