高速に「凶器」落下物、年間36万件
© 産経新聞 提供 死亡事故誘発の「凶器」 高速道路の落下物、年間36万件 国交省「#9910」通報呼びかけ
高速道路上でのタイヤなどの落下物が、年間約36万件あることが25日、主要高速道路会社への取材で分かった。岡山県津山市の中国自動車道では今月、落下したとみられるタイヤが原因となり、母娘2人が死亡する事故が発生。急停止が難しい高速道路での落下物は“凶器”で、過去には死亡事故も引き起こしている。国土交通省は緊急ダイヤル「#9910」の活用を呼びかけており、専門家は「悲惨な事故を契機に緊急ダイヤルの存在を啓発すべきだ」と指摘している。
木材類や毛布も
「落とすのは一瞬、後悔は一生…」。スコップやドラム缶などの落下物の写真を添え、ホームページでドライバーにこう警告するのは阪神高速だ。管内では平成28年度、約2万3千件の落下物があった。落下物による事故や渋滞といった「二次被害」を防ごうと、同社はパトロールや清掃の強化を続けているが「落とし主の意識が変わらない限り現状は変わらない」(担当者)という。
首都高速では28年度に2万6519件、本州四国連絡高速道路でも約6200件の落下物があった。
今回の死亡事故が起きた中国道を管轄するNEXCO西日本での落下物は28年度は約13万1千件に達している。
NEXCO東日本とNEXCO中日本はいずれも27年度のデータではあるが、計約17万9500件の落下物があった。
高速各社によると、特に多い落下物はプラスチックやビニールのほか、タイヤを含む自動車部品だ。さらに角材やベニヤ板などの木材類に加え、車が誤って巻き込みかねない毛布の落下も目立つという。
3トンの鉄箱直撃
高速道路上での落下物に起因する死亡事故は各地で起きている。
岩手県北上市の東北自動車道では26年11月、落ちていた金属片が走行中のキャンピングカーのガソリンタンクに突き刺さり、車が炎上。4人が死亡した。
また熊本県八代市の九州自動車道のトンネルでは24年1月、落ちていた毛布を避けようと車線変更したトラックに観光バスが追突。バスの添乗員が死亡したほか、乗客約20人が負傷した。
さらに18年12月には、兵庫県西宮市の阪神高速神戸線で、大型トラックから積み荷の鉄製の箱(重さ約3トン)2個が落下。1個が後続の軽乗用車に衝突し、同乗の女性が死亡した。別の1個が側壁を突き破り、約18メートル下にある阪神甲子園球場敷地内の切符売り場手前に落下。けが人はなかったが、球場関係者や近隣の住民に衝撃を与えた。箱を固定していたワイヤが、別の事故で切れた可能性があるという。
迅速に駆けつけ
後を絶たない落下物に国交省や高速各社は、目撃したドライバーらに緊急ダイヤル「#9910」への通報を呼びかけている。
緊急ダイヤルは17年12月から運用を開始。落下物だけでなく、路面の陥没や路肩の崩壊といった道路損傷にも対応する。音声ガイダンスに従って異常の内容を伝えると、パトロール隊が迅速に駆けつけ、トラブルへの対応や通報したドライバーの安全確保を行う仕組みだ。
国交省によると、28年度には24万4千件の通報があり、担当者は「増加傾向にある」としているが、110番や119番と比べ「認知度はまだ高いとはいえない」(関係者)。
長山泰久・大阪大学名誉教授(交通心理学)は「緊急ダイヤルの存在をさらに広く訴えていくことが重要だ」と指摘。積載物の落下防止についても「意識の啓発を強め、運転中は絶対に荷物を落とさないことを常識にしなければならない」と訴えている。