大企業で活躍する人、MBA目指す事情

大企業で活躍している人たちがMBA進学を決意した理由: MBAで学ぶ目的は何ですか?その目的は達成できそうですか?(写真はイメージです) © diamond MBAで学ぶ目的は何ですか?その目的は達成できそうですか?(写真はイメージです)

2年目のゼミ生に率直に聞いてみた

 前回までの数回にわたり、資格取得やMBA取得の意味について考えてきました。中でもMBAは将来、企業や各種組織のリーダーになるための専門課程であり、目的が絞り込まれています。

 一つだけ注意していただきたいのが、MBAコースというのは、必ずしも企業のどこかの機能における専門家を養成することを意図していないということです。多くの人がこの点を勘違いしているため、まず指摘しておきたいと思います。

 もちろん、MBA“的”なコースとして、例えばMOT(Management of Technology)コース等は、CTO(Chief Technology Officer:最高技術責任者)育成を念頭に置いたものであり、特定ファンクションの専門家育成コースと言えるでしょう。しかし、MBAコースは本来、経営全般にわたる知識と感覚を涵養する、極めてホリスティックな色彩の強いものであることを最初に理解する必要があります。

 もちろん、MBAコースの中で人事・組織を中心に研究し、人事・組織の専門家になるということが不可能なわけではありません。ただ、細かい知識や技能(例えば具体的な賃金テーブル[賃金体系]の書き方)を伝えることを意図したコースではありません。あくまでもここで育成する専門家は、『経営者目線を持ったプロフェッショナル』ということになります。

 さて、このようなMBA本来の意義を理解していただいた上で、MBAとは何であるのか、MBAを取得するとどのようなことが期待されるのかを考えていきましょう。

 前回私は「MBA取得は35歳転職限界説を乗り越える一つの有効な手段である」と述べました。

 欧米やアジアの諸外国などと違って、日本の場合、MBAはストレートに昇給・昇格にはつながりません。そうであるにもかかわらず、2年間で300万円ほどの決して安くない授業料と書籍や資料、研究に必要な旅費交通費等の実費が必要であることに加え、極めて多くの時間を学びに費やすことが求められます。

 毎週、2日から3日間、19時から22時まで拘束され、さらに土曜日はほぼ1日潰れます。そして研究テーマを決め、2年目の最後には6万字を超える修士論文(最低限の要求字数は2万字ですが、これを上回るのが通常です)を書かなければなりません。

 こうした「短期的に目に見える効果がないにもかかわらず、大変負担の重い」MBA取得に毎年、毎年、多くの人が挑戦する意図は何なのでしょうか。「MBAの意義を勘違いしている人も少なくない」と言いましたが、実際のところはどうなのでしょうか。

 今回から数回にわたり、明治大学大学院グローバル・ビジネス研究科野田ゼミナールのゼミ生を取材し、彼らがなぜMBAの門を叩いたのか。どのような目論見や具体的目的があったのか(まだ勉強の途上[2年目半ば]ではありますが)、それは達成されそうなのか、あるいは思わぬ副次効果はなかったのか、そもそも各人の満足度はいかなるものかといった点について伺ってみたいと思います。

 私のゼミ生は男女それぞれ、年齢もまちまちで、今回の連載対象である30代とは必ずしも限りません。留学生もいます。読者の皆さんの状況に完全に一致する人はいないと思いますが、それでも参考になる部分は必ずあると思います。

 まずは大企業から自費で来ている3人に、2回にわたり登場していただきます。お名前はAさん、Bさん、Cさんとさせていただきます。

MBA進学、最大の目的は「この先の20年をより価値のあるものにするため」 

 Aさんは40歳になったばかり。同じ仕事を20年続けています。現在所属する会社は、某有名メーカーの国内販社数社の間接業務(コールセンター運営や経理、販売事務等)を集約して設立されたグループ内サービス会社です。

「私の仕事は営業のコーディネート、売り上げの計上から債権回収までの業務です。ずっとこの仕事一筋で来ました。そこに不満はないのですが、このままあと20年同じように仕事をして定年を迎えるというのはどうなのかと、ふと思いました。起業するとか転職する気はないのですが、このまま何も変えないということに不安を覚えました」

 Aさんは自分自身を深く見つめました。「自分に足りないものは何か。自分には今、何が必要なのか」を考えました。

「私は学生時代、勉強があまり好きではありませんでした。自信を持って先に進むためには、もっと勉強をして、いろいろなことを知るべきだと思いました。経営層の方と対話する機会も増えていたので、そのためにももっと経営や事業の知識が必要だと思いました」

「さらに言えば、ずっと同じ職場にいて外の世界を知りません。だから視野を広げ、交友関係ももっと広げたいと思いました。仕事は継続したまま、それができる道を考えていた時に、身近にいたMBA経験者に話を聞いて、私も彼らに倣ってみようと思ったのです」

 Aさんは明確な目標があるというわけではなく、また経営者になるという目的があるわけでもありませんが、(1)自分の軸を作るための知識を身につける、(2)視野を広げて今後の仕事をより充実したものにする、(3)自分を変えるためのきっかけを探すことを目的としています。これらの目的も、MBAを選ぶ理由として確かに的を射たものだと思います。

「何もわからないところに飛び込むってどうなのだろうとも思いましたが、やってみなければ何も始まらないと思いました。知らないからこそ、やってみなくてはいけないと思ったのです」

 その勇気に拍手を送りたいと思います。

自分の中に、人事評価のしっかりとした軸を作りたかった

 Bさんは32歳のエンジニア。大学3年次に専門職大学院の研究室の門を叩き、サイバーセキュリティを学んだプロフェッショナルです。卒業後、日本のIT企業の日本法人に入社、数年で米国法人に転籍し、さらに数年後、請われて本社に再度戻った後、日系のシステムインテグレーターに転職、さらにその後、現在の銀行に転職をしました。

 エンジニアのプロとして業界を華麗に渡り歩いてきたBさんには、勤め始めてすぐ、一つの疑問が芽生えました。それが日を追うごとに大きくなり、耐え難い悩みになりました。

 その疑問とは要約すると、降格、昇格を含めた人事評価の基準についてです。

「自分にはもちろん何の評価軸もありませんでしたから、最初は自社で行われている評価が普通なのだと、ただ納得するしかありませんでした。しかし、業務経験を積むうちに、だんだんと疑問に思うようになりました。最初は、身近にいる周囲の人々に対する評価が気になり始めました。なぜこの人が自分の上にいるのか、逆になぜこの人はこれほど評価されないのか。中には明らかに不当な評価ではないかと思う例も見えてきました」

「そういう目で見ていると、評価の多くはどうやら上司の好き嫌いや、被評価者間のバランスを取るという理由での、いわば妥協の産物なのだとわかってきました。自分はまだ一方的に評価される立場だったわけですが、将来、部下を評価する立場になった時に、このまま何の基準もなく、今の上司と同じようにいい加減な評価をしていいものかと考えました。20代前半のことでした」

 その点を、どこかで学ばなければいけないと彼は強く思ったそうです。そう思っているうちに、いよいよ、自分にも不当と思える評価が下ったと言います。

「360度評価の結果と照らし合わせても、明らかに乖離があると思えました。なぜこうなるのかと納得できなかったため、関連する書籍を買いあさり、読みまくりました。さらにWebでも記事検索をしまくりました。そうする中で、自分のモヤモヤについて、論理的に解き明かしてくれる一つの記事に出合い、この先生の下で学んでみたいと思いました」

 ここは口幅ったい話なのですが、その「先生」が私でした。Bさんはそこから私について調べ、明治大学にたどり着いたのです。

「大学中退後、専門職大学院に入った時に、今の自分と同じで、すでに社会に出て働いている人が何人も大学院に来て学んでいました。その姿を見ていたので、当時から自分も社会に出て、いつかこんなふうに戻ってきて学び直したいという漠然とした思いがありました。その思いが、その時にまた触発されたのです」

「かつて、不当な人事評価を受けた結果、辞めていった仲間もいましたし、精神的に追い込まれた知人もいました。自分が他人を評価するような立場になった時に、そうしたストレスフルな職場を作らないようにできればいいと思いました」

 すぐに経営者にならずとも、彼はエンジニアであるとともに、経営者目線での正しいリーダーシップを発揮したいと考えていたわけです。

営業部長を全うするために自分の軸を持ちたい

 Cさんは現在40代後半で、外資系メーカーの営業部長を務めている女性です。これまでCさんは同じ会社で、トレーナーや新製品の立ち上げ、ブランドマネジャー、そして営業と、豊富な経験を積んできました。

「30代はとても充実していました。本当にいろいろな経験をさせてもらいましたし、海外の会議でのプレゼンテーションといった機会も与えられました。正直、今ではほとんど何も記憶に残っていないのですが、プチMBAのようなコースにも派遣してもらったこともありました」

「今にして思えば、与えられた仕事と与えられた機会を一所懸命にこなしてきたわけです。言ってみれば、いただいた縁を必死に生かしてここまで来たわけです。ただ、営業部長という今の立場は、オファーをいただいた時に最初は断りました。なぜなら自分はマーケティングで行きたいと思っていましたし、男ばかり、それも営業の猛者を束ねるというのは女性の役目ではないと思ったからです。しかし上層部から説得されました。結局、オファーに乗らないのは今までの自分の流儀に反すると思い、最終的には受けることにしました」

 その結果が彼女に新たな試練を与えました。人事評価を中心とした、人材マネジメントについての疑問です。

「評価を担当する人の中には評価理由があいまいなマネージャーもいます。評価の根拠など話し合いをする中で、自分にはそれなりの実務経験はあっても、相手を論理的に説得するだけの人事やマネジメントに関する知識がないと気づき始めたのです。部長になって3年、4年と経つうちに、今まで積み上げてきた知識だけでは物事のすべてに対応できるわけではないと思い知り、辛くなってきました」

 加えていくつかの偶然がCさんの背中を押したようです。一つはふと目に入った専門職大学院に関する新聞記事の「思った時が行き時だ」というタイトルでした。そして、職場から行きやすい大学院を探し、その大学院の教師を検索していたところ、私の以前のダイヤモンド・オンラインの40代向け連載「40代からの人生の折り返し方」にたどり着いたそうです。

「その記事を読んでいくうちに、目の前にいる男性の部下たちを自然と思い浮かべることができました。人事評価や制度改革のための知識という話をしましたが、もっと大きく括れば、私の最大の関心事は『そうした人たち=他人を、変えること』でした。そのためのマネジメントでありリーダーシップを学びたかった。さらにもう一つは、自分の価値を上げたいという思いでした」

「私は、MBAホルダーであるということには何の魅力も感じません。若くしてMBAを取りに行く人たちの中には、例えばマーケッターとして箔を付けたいなどと、自己満足に浸っている人もいます。私にはそうした望みはありませんし、MBAはそうした場所ではないと思っています。もっと自己の本質的な価値を上げたいというか、自分の軸を作り、自信にしたいと思いました。そのためにも自分の慣れ親しんだ場所ではない、業界を超えた様々な専門家が集まる別次元の場所で学びたいと思ったのです」

 自分の本質的な価値を上げ、軸を作りたいというのは、まさに経営者マインドに通じる話だと思います。

 三者三様ではありますが、そこにはキャリアの大きな踊り場で、次のステップを踏み出すための何らかの拠り所が欲しいという共通の意味合いがあったのです。

 さて、こうした3人が実際にMBAで学んでいくうちに、それぞれの目的達成に近づくことができたのか、思わぬ脇道や障壁はあったのか。そうした内容について、次回、お伝えしたいと思います。

(明治大学専門職大学院グローバル・ビジネス研究科教授 野田 稔)

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