大企業と新興IT企業、叩かれ方に違い

メルカリやCASHのビジネス倫理に「モヤモヤした違和感」を覚える理由: フリマアプリの「メルカリ」で読書感想文などの宿題が販売されていることが議論を読んでいる。これは倫理的にどうなのだろうか? © diamond フリマアプリの「メルカリ」で読書感想文などの宿題が販売されていることが議論を読んでいる。これは倫理的にどうなのだろうか?

 うちの娘が小学校6年生のときの話だ。夏休みの自由研究として「自分でデザインしたリュックサック」を製作したことがある。娘が完成させたリュックを見て、私も家内も頭を抱えてしまった。完成度が高すぎるのだ。

 娘は昔から造形物の製作が好きで、この時期はミシンが気に入っていて、型紙も使わずに直観だけで何でもつくっていた。夏休みに新宿のオカダヤ(手芸用品専門店)で何色かの帆布とファスナーの材料を買ってくると、創造力の赴くまま複雑に布地を組み合わせたリュックを一晩でつくり上げた。

 出来上がったものは便利なポケットが7つ付いている上に、メインの荷物をしまうスペースには丁寧に裏地まで付いている。なんというか、市販品にしか見えない仕上がりだったのだ。

 それを見て私と家内が困っているのを見ながら、大人の思考を理解し始めたうちの娘は笑いながら、端切れを集めてちゃちゃっとファスナー式のペンケースをもう一個つくって、「こっちを宿題で出すよ」と笑ったのであった。

メルカリ出品の読書感想文、需要はあっても倫理的にどうか?

 さて、8月末になってフリマアプリの「メルカリ」で読書感想文や夏休みの自由研究などの宿題が販売されていることが議論になっている。こういうのを見て「いかがなものか?」と眉をひそめる人と同じくらい、こういうものを「買いたい」と思う人がいるのも世の中というものだ。きちんと需給が合致してマーケットが成立している。

 メルカリはヤフオクよりも、売買についての許容範囲が広い傾向がある。もちろん、年内上場を目指す企業だから、出品物に違法性が指摘されればそこで売買を取りやめる。夏休みの宿題の売買は違法とは言えないから継続している。しかし企業倫理という側面から見れば、「これはどうなのか?」と考えさせられてしまう取引ではある。

 ある時期にメルカリで、「4万円の現金を額面以上の4万7000円で売る」などという行為が流行ったことがある。途中で禁止になった売買だが、とにかく目先のお金が必要な人がとりあえず4万円を買ってクレジットカードで決済するようだ。クレジットカードの支払いはタイミングによっては40日後などになるので、それまでにお金をつくって返済するということだろう。

 この場合、実質的に40日間4万円を借りて7000円の金利を払うことになり、1年で考えると年利158%の高金利になる。つまり違法な闇金と同じだという指摘が出て、メルカリではこのような出品は禁止になった。ところがその後、すぐにメルカリに登場したのは1万円札で折ったペーパークラフトだった。値段は4個で4万7000円。これもしばらくして禁止された。

 そうしたら今度は、川原で拾った小石が4万7000円で売りに出されて「購入してくれた人には4万円キャッシュバックします」と来た。いくら禁止してもすぐに現金が手に入る別の方法が出てくるなら、それが超高金利の融資と同じであることに気づかずに利用する情報弱者は、山ほど存在するのだ。同じビジネスモデルの闇金の利用者が山ほど存在するのと同じである。

 メルカリの場合は、「実質的に違法な取引と同じことになるなら、一見合法でも禁止する」というのが企業倫理の「一線」のようだ。夏休みの宿題は「一線」を越えていないが、1万円札のペーパークラフトは一線を越えたということである。

CASHのビジネスモデルは「質屋」に当たらないという論理

 さて、メルカリがこういった取引を一掃した後に、新しい会社が新しいことを始めた。「CASH」である。「目の前のアイテムが一瞬でキャッシュになる」ということで話題を集めた買い取りアプリだ。

 6月にひともんちゃくあって十数時間でサービスを停止した後、8月に再開されたCASHは、売りたいと思ったブランド商品の写真を撮って送ると一瞬で査定額が出て、売却に合意すれば上限2万円までの現金が手に入るという仕組みだ。サービス開始後、2時間あまりで利用者に合計1000万円の現金を提供した。

 たとえばiPhoneを売却しようとCASHで査定してもらい、査定上限の2万円の現金を手にしたとする。このときユーザーは2ヵ月以内にiPhoneをCASHに送る約束をすることになる。ただ2ヵ月の間に、「やっぱりiPhoneを売りたくない」と思ったらペナルティとして3000円と振込手数料を負担すれば「売らなかったこと」に変更できる。

 つまり「iPhoneを2万円で売るのは大損なので、2万円の現金を手にした後、60日以内に2万3000円を振り込んで取引を終了しよう」と考える経済合理的なユーザーにとっては、このビジネスモデルは闇金と実質的に同じになる。

 しかしCASHは、法律的には適法になるようビジネスモデルを組み上げている。つまり、先に買い取る契約をするから質屋には該当せず、3000円は売却をキャンセルした場合の手数料なので貸金業にも該当しないという論理だ。このCASHはまだ始まったばかりであり、これから本当にうまくいくかどうかはわからない。合法なので倫理には関係なく、消費者ニーズに応えるというスタンスのようだ。

未成年が金利ゼロで借金ZOZOTOWNに集まる利用者たち

 一方で、時価総額1兆円企業では同じようなビジネスモデルを、より合法的に洗練させて成功している。それがファッション通販サイト「ZOZOTOWN」(スタートトゥディ)のツケ払いサービスだ。

 5万4000円までの買い物であれば、クレジットカードがつくれない未成年であっても、2ヵ月以内にコンビニか銀行振り込みで代金を支払えばOKというものだ。このサービス、あっという間に利用者が100万人を突破した。

 この仕組みを批判する人は、「金利ゼロとはいえ未成年に借金をさせるのはよくない」と言う。しかし社会全般で見れば、このZOZOTOWNのやり方に倫理観を問う人は少ない。それだけ洗練されているのだ。

 ビジネスモデルとして見れば、後払いの気軽さから必要以上にモノを買う人が増えるというメリットがあり、同社は実際にそこで儲けている。一方で、焦げ付きのリスクは一定水準あるのだが、これも闇金と同じ少額債権の強みで、きちんと督促をすれば回収率は高くなる。もちろん違法性はないのである。

 上場IT企業の倫理観ということで言えば、最近気になるニュースとしてDeNAが女性向けメディア「MERY」の復活を計画しているというものがある(ただし、閉鎖中の旧MERYとは別の新メディアにするという)。問題になってサービスを停止していた同社のキュレーションサービスにおいては、医療情報サイトの「WELQ」だけでなく、ファッションサイトのMERYでも多数の投稿が著作権違反を起こしており、著作権を侵害された人たちとの和解もまだ終わってはいない。

 もっとも、著作権違反を起こしているのはユーザーであって、運営は手をつけていないという建前から、DeNAは「違法行為はしていない」という主張はできる。しかし、実態は違法な利用者を大量に集めて、そのPVで大儲けすることが前提のビジネスモデルだったわけだ。倫理観という側面で見れば、ドラッグ取引の場になっているクラブの経営者の社会責任に近い。問題が起きたクラブを閉店させ、別のオーナーで店舗を再開させれば問題はないという「一線」の捉え方と同じに見える。

 それにしても、なぜ最近のデジタルサービスには倫理的に見て危ういケースが多いのだろう。合法であれば、ないしは違法であるという指導が入らなければ、何にでもチャレンジしようというのが彼らのトレンドにさえ見えてしまう。

伝統的な大企業とは「叩かれ方」が違う

 しかし、この問題について一歩引いて見ると、一般の大企業には倫理観があるとも断言しづらい。

 伝統的な大企業でも、これまで長年にわたって消費者に対する商品の押し込み営業、取引先に対する立場の強さを利用した不当な下請け叩きや口約束の反故、従業員に対するサービス残業の不払いなどが問題になってきた。通常時は倫理観の高い企業であっても、会社が傾けば何でもやる。

 それに加えて、伝統的な大企業は悪いことをしても、叩かれ方がIT企業とは少し違った形になる。

 たとえば、ライブドアは粉飾決算で追及されたが、同じことを経団連の幹部企業がやると「不適正会計」と表現される。街金だったら違法金利と言われることが、都銀がやっていた頃は違法だが罰則規定がないことから「グレーゾーン金利」と表現されていた。ブラック企業というのもやさしい表現だ。本当は従業員の時間と賃金を盗んでいるのだが、ブラック企業という言葉には「窃盗」のイメージはない。

 突き詰めて見ると、デジタルサービスの方が「便利さが目立つぶん、倫理問題も同じくらいに目立つ」というだけのことなのかもしれない。実態で言えばIT企業であれ一般企業であれ、日本は叩けばみんなホコリが出る国なのである。

(百年コンサルティング代表 鈴木貴博)

Category: ,