EV全盛時代へ 不安なトヨタホンダ株

EVを次世代エコカーの本命に据える動きが世界中で加速している=ロイター © NIKKEI STYLE EVを次世代エコカーの本命に据える動きが世界中で加速している=ロイター 「トヨタ自動車やホンダなどの自動車株は、配当利回りが高く、投資尺度で見て割安な銘柄が多数あるが、投資には積極的になれない」 © NIKKEI STYLE 「トヨタ自動車やホンダなどの自動車株は、配当利回りが高く、投資尺度で見て割安な銘柄が多数あるが、投資には積極的になれない」

 株式市場で自動車株には、配当利回りが高く、投資尺度で見て割安な銘柄が多数あります。予想配当利回り(8月10日時点)を見ると、トヨタ自動車が3.3%、ホンダが3.1%、日産自動車が4.8%です。東証1部の予想配当利回り(加重平均)が2.0%ですから、自動車株の高さがわかります。

 配当利回りが高いということは裏を返せば、投資家に人気がないということです。なぜなら、人気のある銘柄は投資家の買いで株価がどんどん上がります。1株当たりの配当金が変わらなければ、予想配当利回りは低くなります。実際、東証マザーズなどで人気の成長株やテーマ株は、予想配当利回りが低いものがほとんどです。

■自動車株には積極的になれない

 ただし、配当利回りの高い銘柄の中には投資家の誤解によって、株価が割安に放置されているものもあります。私は過去25年間、日本株のファンドマネジャーをやってきましたが、それを見つけるのが仕事でした。自動車株は確かに割安ですが、それでも今は投資に積極的にはなれません。日本の自動車産業には2つの不安があるからです。

 不安の一つは、次世代エコカーの本命が電気自動車(EV)になりつつあることです。次世代エコカーの候補としてはこれまで、EV、ガソリンエンジンと電気モーターを両方使うハイブリッド車、クリーンディーゼル車が競ってきました。しかし、独フォルクスワーゲンの排ガス不正が明らかになってから、クリーンディーゼル車はエコカーとは認められなくなりました。その後、ハイブリッド車とEVの競争となり、今ではEVが圧倒的優位に立ちつつあります。

 トヨタやホンダはハイブリッド車を中心に据える戦略をとってきましたので、痛手です。EVを次世代車の本命に据える動きは世界中で加速しており、フランスと英国は2040年までにガソリン車とディーゼル車の販売をやめる方針を打ち出しました。大気汚染が深刻な中国やインドでも環境規制を強化してEVの普及を促進しつつあります。

 中国政府は13年からEV・プラグインハイブリッド車(PHV)などの新エネルギー車に対して補助金を出しています。インドは30年までに新車販売をすべてEVにするという野心的な計画を発表しました。これを実現するために、まず物品サービス税でEVを優遇することを始めています。

 自動運転の開発熱が高まってきたことも、EV普及を推し進める要因となっています。自動運転はEVとの親和性が高いからです。

■EVが本格的に普及する条件が整う

 米国でもカリフォルニア州など10州で、2018年モデルイヤー(17年夏開始)から排ガスゼロ車(ZEV)についての規制が強化されます。自動車メーカーに対して、ZEVの販売を一定の比率以上にすることを義務付けるもので、17年モデルイヤーまでは、ハイブリッド車や低燃費ガソリン車までZEVの範囲に含まれていましたが、18年モデルイヤーからハイブリッド車と低燃費車が除かれ、EV・PHV・燃料電池車(FCV)・水素エンジン車の4種類だけがZEVとして認められることになります。

 米国というと、トランプ大統領が「自動車の環境規制を廃止し、石炭産業の雇用を取り戻す」と宣言。さらに、「パリ協定」(地球温暖化対策の国際的な枠組み)からの離脱を表明して世間を驚かせたのが記憶に新しいところです。ただし、カリフォルニア州など環境意識の高い州では、大統領の方針と関係なく環境規制を強めていく方針です。

 この規制は事実上、トヨタやホンダが得意とするハイブリッド車を狙い撃ちにしたといえます。カリフォルニア州ではトヨタのプリウスが人気でしたが、今後は、EVとPHVに販売をシフトしていかざるを得なくなります。トヨタなどと違い、日産はEVに遅れたわけではないのですが、現状ではガソリン車の販売が圧倒的なので影響は避けられそうにありません。

 EVとハイブリッド車の競争では、一時ハイブリッド車が優位に立ちました。3年前までEVは1回の充電で走れる航続距離が100~200キロしかなく、インフラ(充電ステーション)も整っていないことから、本格普及は難しいと考えられていました。

 ところが、今では自動車用電池の性能が大幅に向上しました。その結果、EVの航続距離は300~500キロまで延び、ガソリン車と遜色なくなってきました。また、インフラ整備も徐々に進み、EVが本格普及する条件が整いつつあります。

 トヨタやホンダが究極のエコカーと自負するFCVについては、インフラ(水素ステーション)整備などが課題となりそうです。一方、トヨタは20年までにEVを発売する方針を表明。ホンダも18年に中国専用のEVを現地生産するなど、EVにも軸足を移しつつあるようです。トヨタはマツダと資本提携してEVの出遅れを挽回しようとしており、どうなるのか注目です。

■地政学リスクの高まりに弱い

 もう一つの不安は、自動車産業は保護貿易でターゲットになりやすいことです。

 日本政府による尖閣諸島の国有化をきっかけに、12年に中国で大規模な反日デモが起こりました。日本製品排斥運動が広がる中、最も深刻な被害を受けたのが日本車でした。日本製品でも自動車は目立つのでターゲットとなりやすいのです。保護主義を強めるトランプ米大統領も自動車産業をターゲットとしており、日本車について無理難題をいってくる可能性があります。

 自動車産業に対しては、ちょっとした不具合や検査不正が明らかになるだけでも、巨額の制裁金が科される傾向があります。世界のあらゆる地域で地政学リスクが拡大していますが、広く事業展開している日本の自動車メーカーはリスクの高まりに対して弱いといえます。

■高配当利回りなら内需株がいい

 日本の誇る自動車産業は今、踏ん張りどころです。投資家として、日本の自動車セクターに積極投資したいといえる日が再びやってくることを願っています。しかし、現状ではリスクが高く、投資に慎重にならざるを得ません。高配当利回りに注目するなら、私は自動車株より内需株への投資を増やした方がいいと思います。小型の内需株には業績が良好で配当利回りも高い銘柄が多数あります。そうした銘柄に投資して、じっくり待つのが得策だと考えます。

プロのポートフォリオは運用に精通したプロが独自の視点で個人投資家に語りかけるコラムです。原則火曜日掲載で、楽天証券経済研究所所長兼チーフ・ストラテジストの窪田真之氏とレオス・キャピタルワークス社長兼最高投資責任者(CIO)の藤野英人氏が交代で執筆します。窪田真之

 楽天証券経済研究所所長兼チーフ・ストラテジスト。1961年生まれ。84年慶応義塾大学経済学部卒業後、住友銀行(当時)入行。99年大和住銀投信投資顧問日本株シニア・ファンドマネジャー。2014年楽天証券経済研究所チーフ・ストラテジスト、15年所長。大和住銀では日本株運用歴25年のファンドマネジャーとして活躍した。

Category: ,