加熱式たばこ、日本企業は出遅れ

 世界的にたばこ販売が減少し、かつて急成長を遂げた電子たばこの勢いが後退する中、たばこ大手が次の一手に出ている。

 世界のたばこ大手3社は、従来のたばこよりも健康的でありながら、本物のたばこを吸っている感覚を楽しめるという新たな加熱式たばこ端末を投入している。現在、市場にはたくさんの種類の電子たばこが流通しているが、これらの代替品について喫煙者の多くは、この「本物を吸っているような感覚」が欠けていると不満を漏らしてきた。

 加熱式たばこ端末は、大半の電子たばこで一般的に利用されているニコチン含有リキッドではなく、本物のたばこを加熱する。まだ米国では加熱式端末を利用できないが、近く状況が変化する可能性はある。

© Provided by The Wall Street Journal.

 米食品医薬品局(FDA)は先月、喫煙者がより安全な選択肢に移るのを後押しする方策の一環として、たばこ代替品に一段と柔軟なアプローチを取ることを示唆した。

 FDAのスコット・ゴットリーブ長官は、「この数年だけでも複数の新たな製品カテゴリーが登場し、利用されており、これらによって今後たばこを燃やすことなくニコチン摂取が可能になるかもしれない」と話した。

 米たばこ大手フィリップ・モリス・インターナショナルは、加熱式たばこ端末「アイコス」の承認をFDAに求めている。米アルトリア・グループはフィリップ・モリスと組み、米国で「マルボロ」ブランドを冠したアイコスの販売を目指している。また、アルトリアはたばこよりも安全な製品としてアイコスの販売を促進したいと考えているが、こうした主張を展開するにはFDAの承認が欠かせなくなる。たばこ産業にとって、米国は最も利益を上げられる市場の一つだ。

 英ブリティッシュ・アメリカン・タバコ(BAT)も来年、加熱式たばこ端末「グロー」の販売認可をFDAに申請する計画だ。

 海外での幸先の良い出だしを受け、投資家とアナリストの間では「加熱式」カテゴリーがフィリップ・モリスやBATなどに新たな活力を与えるかもしれないとの期待が高まっている。

 たばこメーカーは長らく、販売量の減少に対し価格の引き上げで対応することが可能だった。しかし、業界幹部はこれが永遠に続かないことを理解しており、たばこ大手各社は代替品の開発にしのぎを削ってきた。

 ここで大きな賭けに出ているのはフィリップ・モリスだ。一連のたばこ代替品を投入してきた競合のBATや日本たばこ産業(JT)と異なり、フィリップ・モリスは企業努力のほとんどをアイコスに集中させてきた。同社は英ロンドンや東京などの都市に端末販売の専門店を開いている。

 加熱式端末メーカーらによると、同製品は電子たばこほどではないものの、たばこよりは健康的だという。現在売られている一般的な電子たばこは、液体を熱してニコチン入りの吸引できる蒸気を発生させる。たばこ各社は独自の電子たばこを投入してきたが、この中には古風なたばこに似せた製品も含まれる。この市場では規模の小さい数百社がひしめき合い、多くのメーカーがサイズの大きい、詰め替え可能な蒸発装置に注力してきた。

 こうした電子たばこは急速に普及し、一時は驚異的な売り上げ成長を記録したが、最近は沈静化してきた。市場調査会社ユーロモニター・インターナショナルによると、米国での電子たばこ販売は2014年に前年比130%増加したが、16年は21%増にとどまった。

 減速には、市場が成熟したことによる当然の結果という部分もある。しかし、特に米国では安全性への不安と規制障壁も足かせとなってきた。

 もう一つの大きな障壁は「顧客満足度」だ。電子たばこ利用者の一部は、ニコチンの摂取スピードが遅い、あるいは、本物のたばこのような「スロートヒット(吸い応え)」がないといった不満を述べている。

 フィリップ・モリスとBAT、JTは、「たばこの葉」に回帰することでこの問題を解決できたと考えている。加熱式端末は栽培された葉を(燃やすのではなく)熱し、たばこよりも安全とされるニコチン入りの蒸気を発生させる。各社によると、これを使えば本物のたばこに近い味わいと吸い心地が楽しめる。

 BATのグローとフィリップ・モリスのアイコスには、見た目と感触が普通のたばこに似た使い捨ての「スティック」を加熱する端末が含まれる。一方、JTの「プルーム・テック」はよりハイブリッドなアプローチを取っており、専用カートリッジに染み込ませた液体を水蒸気にして「たばこカプセル」に通す方式を採用している。BATの「アイフューズ」も別のハイブリッド形式を取っており、ニコチンを含有する液体を吸引できる水蒸気にし、それをたばこの部分に送る。

 BATの米国事業であるレイノルズ・アメリカンは無煙たばこ「エクリプス」を長く販売してきたが、販売に勢いはなく、販売網も非常に限られていた。

 一歩抜きんでているのはフィリップ・モリスで、同社は25カ国以上でアイコスを販売している。電子たばこへの規制が厳しい日本では、昨年夏に全国でアイコスの販売を開始。それ以降は多くの愛煙家を引き寄せ、同社によると、日本におけるアイコスの出荷シェアは、フィリップ・モリスが占める同国でのたばこ市場シェア全体の10%に上る。

 ユーロモニターのアナリスト、シェーン・マクギル氏は、「彼ら(フィリップ・モリス)には完全な先発優位がある」と指摘。また、この新製品は同社の利益を押し上げると予想されている。米投資銀行パイパー・ジャフレーのアナリスト、マイケル・ラベリー氏は、アイコスの現在の利益率が通常のたばこを約30~50%上回ると試算している。同氏はアイコスの利益が2019年までに全体の15%を占める可能性があると述べた。

 株主もこれに注目している。フィリップ・モリスの株価は競合のBATを上回って推移してきたが、その主な理由がアイコスの成功だ。

 ユーロモニターは加熱式セクターの市場規模が2021年までに154億ドル(約1兆7000億円)に達し、たばこ代替品市場の45%(2016年は17%)を占めるようになると予想。一方、電子たばこの同市場シェアは現在の83%から55%に縮小すると見ている。

 しかし、本物のたばこと比較すれば、たばこ代替品の市場規模は依然として小さい。ユーロモニターは、2021年までに中国を除くたばこ市場全体に占める割合について、加熱式端末で3%、電子たばこで4%にとどまると予想している。

 加熱式たばこが米国で認可されるかについては、まだ不透明感が漂う。一方、その安全性を疑問視する声もある。スイスの研究者が行った5月の研究から、通常のたばこから検出されるのと同じ発がん性物質の一部がアイコスから放出されていることが判明した。研究論文の執筆者たちは、アイコスがもたらす健康への影響を評価する独立調査を求めている。これを受けてフィリップ・モリスは6月、スイスの3つの研究機関の上級幹部に対し、その研究方法に疑問を呈する文書を提出した。

 JTでリスク低減製品を担当するバイスプレジデント、イアン・ジョーンズ氏は「加熱式たばこ製品には、将来的に限りない可能性が秘められている」と述べる一方、「それでも、目を向けるべき未知の疑問もたくさん残されている」と指摘した。

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