水木しげる作品、重要主題だった戦争

 「鬼太郎の目玉オヤジは戦場で飛び散った眼球がモデルだろう。水木の描く妖怪の影に戦死者たちの哀(かな)しみが潜む」-。漫画界の巨匠水木しげるさん(1922~2015年)の代表作「ゲゲゲの鬼太郎」について、1953年の戦後生まれで、沖縄戦を題材にした漫画を描き続ける漫画家比嘉慂(ひがすすむ)さん(沖縄県出身)が、そんな見方を示す。

 妖怪漫画の開拓者で、妖怪研究家としても活躍した水木さんにとって、「戦争」は「妖怪」と並ぶ重要な主題だった。南洋の激戦地で多くの戦友を失い、自らは左腕を失った。奇跡的に生き延びた太平洋戦争の記憶は、生涯忘れがたいものであったに違いない。

 神戸・元町の大丸ミュージアム神戸で今夏開かれていた企画展「追悼水木しげる ゲゲゲの人生展」には「戦争」コーナーが設けられていた。戦記漫画の原画や、戦地から父へ宛てたはがき、戦地で描いたスケッチなどが並んでいた。

 自伝的戦記漫画「総員玉砕せよ!」の原稿も出品作の一つ。書き手の執念を感じさせる力作で、戦争の理不尽さや無意味な暴力性を浮き彫りにする。

 比嘉さんは20歳のころ、本作を読んだという。人生を変えた漫画の一つなのだろう、8月発売の漫画誌に載せた漫画「『ガマンできないマンガ』教えます」の中で、思いを次のように語る。「最終の戦死者たちの描写には圧倒される。忘れてなるものかと水木の気迫がこもる」「この戦記に漂う息詰まる臭い。身近にあった沖縄戦の臭いと同じだ。子どもの頃、藪(やぶ)の中に遺骨を見た」

 企画展には、出征前の水木さんによる手記の原稿もあった。「将来は語れない時代だ。毎日五萬も十萬も戦死する時代だ」「今は考へる事すらゆるされない時代だ」…。死を意識した若者の苦悩、不安が色濃くにじむ。飄々(ひょうひょう)として、ユーモアに満ちた後年の雰囲気やキャラクターからすると、意外とも思える悲壮さ漂う文面に驚く。

「総員玉砕せよ!」の原稿などを収録した「ゲゲゲの人生展」カタログ © 神戸新聞NEXT/神戸新聞社 「総員玉砕せよ!」の原稿などを収録した「ゲゲゲの人生展」カタログ

 「なまけ者になりなさい」など、“名言”を記した直筆色紙も展示されていた。

 こんな言葉があった。「けんかはよせ腹がへるぞ」。戦死者には餓死者も少なくなかった。「腹がへるぞ」は、作者一流のとぼけた戦争批判であり、実感のこもった言葉でもあったのだろう。戦後72年の夏。終戦の日に、亡き巨匠の言葉をかみしめる。(堀井正純)

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