花咲徳栄の練習場で見た本物の実戦

圧倒的な打力を誇った花咲徳栄の千丸剛キャプテン。器の大きな選手が育つ指導方法なのかもしれない。 © photograph by Hideki Sugiyama 圧倒的な打力を誇った花咲徳栄の千丸剛キャプテン。器の大きな選手が育つ指導方法なのかもしれない。

 祭りが終わった。

 埼玉代表・花咲徳栄高の強さは圧倒的だった。

 甲子園での6試合、すべての試合で2ケタ安打を放って合計80安打をマーク。すべての試合で9点以上の大量点を奪って合計61得点をあげて、まさにチームがテーマに挙げていたという“破壊力”をその表現のまま、甲子園のグラウンドで存分に体現してみせた。

 その通り、この夏の花咲徳栄の強さはこの破壊力に他ならないだろう。

 本塁打2、三塁打5、そして二塁打にいたっては21本をマークして、80安打のうち、長打は28本に及んだ。

 ならば、なぜ花咲徳栄の打者たちは、この甲子園という大舞台でこれだけの長打力を発揮できたのか。

 それはまず最初に、花咲徳栄の打線に居並ぶ強打者たちの身体能力のすばらしさを挙げねばならない。

 この大会、多くのチームが2ケタ番号の選手を多く繰り出した“総力戦”で戦いに臨んでいた中、花咲徳栄は、綱脇彗投手、清水達也投手の“黄金リレー”を行なっただけで、8人の野手については全員がいっさい交代することなく、6試合ともフルイニング出場を果たした。

 それだけ絶対的存在の野手たちだけに、おそらく近い将来、8人のほとんどがプロ球界に進んでいるはず……そんな予感が伝わってくるほどの高い能力を持ったチームだった。

花咲徳栄は普段、どんな練習をしているのか。

 そしてそれ以上に今年の花咲徳栄には、この夏の“大きな成果”を予感させる要素があった。

 思い出した場面がある。

 この春から夏の予選前にかけて、何度か花咲徳栄の練習グラウンドにうかがう機会があった。

 取材相手の選手に会うことも楽しみだったが、それ以外にも、今年の花咲徳栄には興味をそそられる選手たちが何人もいた。そしてさらに、浦和学院をはじめとして強豪居並ぶ埼玉で、コンスタントにいつも大会の上位に勝ち上がってくる花咲徳栄というチームが、いったいどんな練習をしているのか……。興味は尽きなかった。

花咲徳栄の練習は、延々と「一本バッティング」。

 練習を見て驚いた。

 長い時間をかけたアップを終えて、そこから先は、「一本バッティング」がえんえんと続く。

 準レギュラー組がポジションにつき、不動のレギュラーたちが試合形式で次々と打席に入って打球を飛ばす。そうした練習が2時間でも、3時間でも、えんえんと続いていく。

 マウンドからは、綱脇彗が投げ、清水達也が投げ、打者たちが狙うのは、その“ファーストストライク”。そのファーストストライクを、打者たちが次々にジャストミートしていく。

 投手たちにとっても打者たちにとっても、全国有数の強敵を相手にしての本気勝負。これ以上の実戦的な練習はないだろう。

 これなら強いわ……。スッと胸に落ちた。

 花咲徳栄の打者たちは、日常的にいつも“強豪”と試合を繰り返している。強豪と試合をすることが普通のことになっているのだ。甲子園の大舞台で、彼らが涼しい顔で長打、快打を繰り返していた理由がわかったような気がした。

フリー打撃って、ほぼ筋トレなのでは?

 野球の練習には、ちょっと変だな……と思えることを、誰もがそうと気づかずに長い年月の間、ずっと続けている。そんな場面が意外とあるものだ。

「フリーバッティング」という練習もその1つではないだろうか。

 3つも4つもゲージを設けて、さあ打ってください、というボールを打ち返す。マシン相手のバッティングにしても、仮に150キロだとしても、ストレートだとわかったボールを打っている。

 私には、バットとボールを使った筋トレにしか見えず、実戦に直結した練習とは思えない。

実際の試合で、選手にとって一番の脅威は何か。

 実戦のバッターボックスで何が脅威かといったら、相手の投げ込んでくるボールも確かに脅威なのだが、それと同程度に、いやそれ以上に、「1対1」の緊迫感のほうがより大きな脅威ではないのか。

「1対1の緊迫感」には、相手の手の内を読まなくては……の切迫感もあるし、結果を出さなくては……のプレッシャーもあるし、何より、その場に居合わせている指導者、選手、場合によっては観客すべての視線を一身に浴びているという緊張感。評価されているという息苦しさ。さまざまな重圧が、打席のバッターにのしかかっている。

 しかし、フリーバッティングという打撃練習には、これらの要素が何ひとつない。日曜ゴルファーの“打ちっぱなし”みたいなもの、と言えるかもしれない。

 両サイド、高低への高校生離れしたコントロールを持つ綱脇彗と、高校生ばなれした140キロ後半をコンスタントに投げる清水達也が投げ、やはり高校球界屈指のスラッガーである西川愛也、野村佑希らが1対1でそれに立ち向かう。打者もそうだが、投手たちにとっても、これ以上の“実戦”はなかなかないだろう。

 花咲徳栄の打者たちは、甲子園レベルの実戦に慣れていたのだ。

 彼らにとって、普段の練習が「甲子園」だったのであり、この夏の甲子園は“日常”の延長だったように思う。

千丸剛キャプテンの練習における存在感。

 そして、そうした高度な練習を続ける中で、キラリと光る存在感を漂わせていたのが、キャプテン・千丸剛二塁手だった。

 俊足・好守の2番セカンドとして、ある時はつなぎ役であったり、チャンスメーカーであったり、また走者を置いての勝負強さも抜群だからポイントゲッターとしても機能して、相手チームにとってはこんなに怖い存在もいない。

 この千丸剛の内角速球のさばきが天下一品なのだ。

 この甲子園、千丸剛は内角速球をライト方向へ切れないライナーで5本の長打、単打を弾き返してみせた。

西川、野村に教え込んだ「とっておきのワザ」。

 そんな“名人”が、その一本バッティングの合い間に、バットの振り始めの左ヒジの入れ方をチームメイトに教えている。

 千丸剛は左打者だから左ヒジになるのだが、内角の速いボールは両腕のたたみ込みという技術がないと、バットの芯で捉えられない。その“たたみ込み”の準備動作になるのが、後ろのヒジの入れ方になる。

 脇を締めながら、いかに後ろのヒジを瞬時に胸の前へ入れてこられるか。この動作は、インサイドアウトのスイングの初動にもなるので、内角だけでなくすべてのコースへ合理的にバットを出すことの基本になってくる。

 千丸剛がライト方向だけでなく、左中間方向へも球勢の衰えないライナー性の打球を弾き返せるのは、そのせいだ。

 そんなとっておきのワザを、3番・西川愛也に、4番・野村佑希に、彼が手取り足取り教えている。

 準々決勝の盛岡大付戦のことだ。

 野村佑希が盛岡大付の左腕・三浦瑞樹の内角低目を、レフトポール際にライナーで叩き込んだ一打。普通に打ったら、ファールにしかならない難しい足元のボールを、ライナーのホームランにしたとっさの技術。

 千丸に打たせてもらったな……。

 ついうっかり、そんなふうにつぶやいてしまったものだ。

「練習は嘘をつかない」は嘘だ。

 こういう結果になったから言うわけではないが、この甲子園の前、何度か出していただいたテレビ、ラジオの番組の中で、「候補は横浜、大阪桐蔭なんでしょうが、注目のチームは?」と訊かれて、そのたび挙げてきたのが「前橋育英」と「花咲徳栄」だった。

 どちらも多彩な実力者の揃ったチーム編成の上に、前者には強い一体感を感じていたし、花咲徳栄には確かな実戦力が見えていた。

「大会で勝つために練習しています!」「甲子園めざして練習しています!」

 勝利を目標に掲げて日々懸命に練習しているその方法が、必ずしも勝利につながっていないのではないか。フッとそんなことを思って、ヒヤッとした気分になることがある。

 実戦力。

 自分で勝手に作った言葉だが、要はこの力を得たいがために練習を重ねているはずなのに、ちょっと方向がズレることはままあるのだ。

「練習は嘘をつかない」は嘘だと思っている。

「理にかなった練習はウソをつかない」

 それなら、とことん信じてついていってもよいのではないだろうか。

 花咲徳栄の初優勝を眺めながら、あらためてそんなことを感じた<夏>であった。

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