サブプライム危機を連想させる事態

 既婚男性なら痛感していることだが、記念日を軽く考えてはいけない。記念日を忘れるということは過去を無視することであり、それによって現在は危険にさらされ、未来は不透明になる。

 今月は頭文字を大文字でつづることが許されるほどの重大事件、あの金融危機(the Financial Crisis)の始まりから10周年となる。2007年6月を思い出してほしい。サブプライム住宅ローンを裏付けとした信用デリバティブ(金融派生商品)に投機していた証券大手ベアー・スターンズ傘下の二つのヘッジファンドが破綻した。それは引き金にこそならなかったが、連鎖反応の最初の出来事だった。

 同年8月には世界の短期金融市場が混乱に陥り、金融引き締めを着実に進めながらも同月の米連邦公開市場委員会(FOMC)会合で「インフレ圧力」を依然として心配していた米連邦準備制度理事会(FRB)は、金融緩和に転じざるを得なくなった。その後に繰り返された金利の引き下げや、2008年3月のベアー・スターンズとJPモルガン・チェースの強制的な合併にもかかわらず、同年9月に証券大手リーマン・ブラザーズが破綻すると米金融システムは崩壊に近づいた。

今月は金融危機の始まりから10周年にあたる © Provided by The Wall Street Journal.

 金融危機、それがもたらしたグレート・リセッション、その両方を防ぐために実施された政策、そしてその余波は、今日に至るまで経済と金融市場を支配してきた。それだけにこの金融市場版「サムター要塞の最初の砲撃」(南北戦争の発端となった)の10周年がほとんど注目されていないのは不思議である。それは恐らくウォール街が本当に「落胆させる言葉が聞かれない場所」だからだろう。少なくとも顧客に聞こえるところでそれが発せられることはない。

• 信用ブームの鎮圧を目指す中国当局

 そういう意味では歴史は繰り返していないが、最近、金融業界では幾つかの小さな亀裂が生じてきた。今の時代、そうした小さな亀裂は米国だけではなく、中国やカナダで生じてもすぐに目に付いてしまう。

 中国の規制当局は先週、国内の銀行やその他の貸し手に対し、ほとんど知られていないが総額500億ドル以上の資産を世界的に買いあさってきた「一部の大企業のシステミックリスク」を監視することを命じた。買収された資産にはニューヨーク市にある高級ホテル、ウォルドルフ・アストリアやカナダのエンターテインメント企業、シルク・ドゥ・ソレイユといった知名度が高いものもある。

 中国の民間複合企業、復星国際(フォーサン・インターナショナル、656.香港)と持ち株会社の海航実業集団(HNAホールディング・グループ、521.香港)の株価は、両社に対する調査が行われるとの報道を受けて22日に急落したが、翌23日には安定した。ウォルドルフを所有する未公開企業、安邦保険集団は、同社の財務に関する一連の批判的な記事や、同社を率いる呉小暉会長が数週にわたって当局に拘束されているという報道を受けて既に厳しい目にさらされていた。

 状況はそれぞれの企業で異なるが、こうした動きは、いわゆる理財商品が拍車となって度を越した信用ブームを抑え込もうとする中国当局による直近の最も顕著な対応である。当局は信用ブームが特に不動産市場で資産バブルを形成することを恐れている。ウェブサイト、ニッケイ・アジアン・レビューによると、特に安邦保険集団の呉会長は、自身の帝国を築くのに政治家や規制当局者とのコネを利用してきたという(同会長はかつて中国の最高実力者だった鄧小平氏の孫娘と結婚している)。

 米国のサブプライム危機のような破綻を招く前に、中国政府がそうした過剰な借り入れを鎮圧したがっているのは明らかだ。当時のサブプライム危機は、特に米国の規制当局にほとんど理解されていなかった信用デリバティブによっても拡大した。中国は信用バブルをしぼませると同時に、少なくとも公式データ上では経済成長率を6.5%に維持しようとしている。

 中国本土上場の人民元建て株式(A株)が影響力の大きいMSCI新興国株式指数に組み入れられることが先週発表されたばかりなので、中国政府としてはこれを台無しにし得る事態を何としても避けたいところだ。賢明な中央銀行に監督された欧米流の株式市場でさえ大暴落が起きたのに、中国流の指揮統制でこの状況をうまく収拾することができるのだろうか。「結論を出すのはまだ早過ぎる」。これはニクソン元大統領が1972年に北京を訪問した時、その約200年前に起きたフランス革命の影響を聞かれた周恩来元首相の返答である。

 実際のところ、周恩来氏はフランス革命ではなく、1968年にパリで起きた学生暴動について言及したのだが、その言葉は中国がいかに長期的に物事を考えるかを示す引用句となってしまった。

 カナダでもサブプライム危機をほうふつとさせる事態が起きた。カナダ最大のノンバンクで住宅ローンを専門とするホーム・キャピタル・グループ(HCG.カナダ)が経営難に陥り、著名投資家ウォーレン・バフェット氏が率いる投資会社バークシャー・ハザウェイ(BRK.A)から命綱となる資本注入を受けたのである。その総額は24億カナダドル(18億ドル)。特にトロントとバンクーバーで高騰している住宅価格には、10年前に米国で起きた住宅バブルの崩壊に似たものを感じる。

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