旧村上ファンド、提案可決の舞台裏
© 東洋経済オンライン
「株主提案、ええんちゃうの?外部の目を入れるのはいいことよ」(自営業の女性株主)。「村上さんは金儲けだけでしょ。黒田電気のことなんか考えてへん」(黒田電気OBの男性株主)。
6月29日、電子部品商社の黒田電気は大阪で株主総会を開催した。小雨の降る中、本社前には午前8時台からカメラマンや記者が集まり、ただならぬ雰囲気を漂わせていた。
総会に集まった株主には「黒田電気の株は10年以上保有している」などと語る人が多かった。物言わぬ個人株主も今回、重い腰を上げた格好だ。
焦点は、株主提案が可決されるかどうか
本総会の最大の焦点は、旧村上ファンド系の投資会社「レノ」など村上世彰氏の関連会社・関係者による株主提案が通るかどうかだった。レノは黒田電気の筆頭株主で、共同保有者の分を合わせると3月末で35%(議決権ベースで37%)を保有している。一橋大学客員教授の安延申氏を社外取締役に選任する株主提案をしていた。
安延氏は、村上氏と同じく東京大学、通商産業省(現・経済産業省)の出身で、村上氏の先輩にあたる。機械情報産業局(現・商務情報政策局)情報処理振興課長、同電子政策課長を経てウッドランド社長に就任。フューチャーアーキテクト社長、佐川急便を擁するSGグループの情報処理子会社・SGシステムの社長を経験した経営のプロだ。
村上氏はかつてM&Aコンサルティング(通称村上ファンド)を率いて、昭栄、東京スタイル、阪神電気鉄道、ニッポン放送(いずれも当時の社名)の株を大量に保有。村上ファンドは「物申すファンド」として、当時の日本では珍しかった敵対的TOB(株式公開買い付け)やプロクシーファイト(委任状獲得競争)を手掛けたことで知られる。現在の村上氏は個人資産のみで国内外の上場企業や不動産に投資している。
午前10時から始まった総会には130人の株主が集まった。採決の前に会場から出てきた株主は「和やかな雰囲気だった」「声を荒げるような場面はなかった」「会社側もレノ側も説明が丁寧でわかりやすかった」と口をそろえた。
ただ、取材に応じた株主の多くは自身の賛成・反対の意思を問われると「それは難しいね」と言葉を濁し、足早に去っていった。
質疑応答では、業績悪化の理由や新中期計画に質問が集中した。レノの福島啓修社長は「前回の中計(2015年5月発表)では2018年3月期に売上高4000億円、営業利益130億円が目標だった。2018年3月期の業績見通しが売上高1650億円、営業利益57億円なのはなぜか」と問いただした。
また、「大手銀行が3メガバンクに集約された時のように、業界再編は動き出すと途端に進む。黒田電気も将来の業界再編に向けて今から準備しておくべきだ」との主張もなされた。
用紙による採決へ
株主提案をしたレノが株主に質問される場面もあった。「現在の株価をどう思うか」「イグジット(出口戦略)はどうするのか」「今後も黒田電気株を買い増すのか」と問われ、福島社長は「詳しくは答えられない」と明言を避けたという。
質問は10問あまり。12時過ぎに質疑応答を終了し採決に入った。委任状獲得競争になったため、本総会には検査役が立てられた。検査役とは、採決が公正に行われているかどうかを検査する第三者で、利害関係のない弁護士が務める。このため、拍手ではなく投票による採決となった。
株主に配られた用紙には取締役候補者の名前が記載され、その下に「賛成/反対」とあり、どちらかにマルをするよう説明された。用紙の色は候補者ごとに分けられていた。「賛成」と書かれた箱と「反対」と書かれた箱を持った社員が自分の席に来たら、どちらかに用紙を入れる仕組みだ。
ただし、レノが提案した安延氏の用紙には、ほかの候補者と異なり、「反対/賛成」とあり、「反対」が先に書いてあったのだ。ある株主は「反対を先に書く会社のやり方はアンフェアだと感じた」と話した。総会後、会社側に確認したところ「反対を先にしたのは株主に(会社提案ではなく株主提案であることを)わかりやすくするため」だったという。
12時40分に集計のために一時中断し、10分後に再開。結果、会社側の提案に加え、レノによる株主提案も可決された。委任状獲得競争の草分けともいえる村上氏の株主提案が通るのは、実はこれが初めて。過去は3戦全敗だった。村上氏以外でもスティールパートナーズの提案が通って以来、8年ぶりだ。株主提案が可決されるのは稀なのである。報告した細川浩一社長の表情は、出席した株主によれば「どこか残念そうだった」という。
閉会後、黒田電気幹部は記者団に対し「会社提案が可決されたということは新中計が株主に受け入れられたことだと理解している」と語った。一方で、株主からは「これだけ業績が悪化しているのだから、(レノ側の)株主提案が通ったのは当然。新中計が達成できるかどうか疑わしい」という声もあった。
村上氏「黒田電気がいい会社になってくれれば」
総会直後の取締役会を終えた後、安延氏は東洋経済の取材に応じた。「私が選任されたということは株主提案の3つの理由が承認されたことを意味する。3つの理由が実現されるかどうかを見守っていくし、実現されなさそうなら意見を言うつもりだ」と就任の決意を語った。
3つの理由とは「規模の利益追求のための他社との経営統合の検討・議論の推進」「従業員声明文捏造事件(2015年の臨時株主総会前、村上氏を社外取締役に据える株主提案に従業員が反対する声明文を出したが、これが捏造だったもの)に見られるコーポレートガバナンスの欠如の解消」「300万株(総額80億円)の自己株取得の今期中の実施」。平たくいえば、同業他社のM&Aの検討、ガバナンスの充実、自己株取得だ。
シンガポールから総会の推移を見守っていた村上氏は、提案が可決された直後、東洋経済の取材に対し「黒田電気がいい会社になってくれればいい」とコメント。「安延氏が独立取締役として選任されたことを重く受け止め、今後、安延氏との連絡は一切絶つつもりだ」とも語った。
投票結果の詳細は30日公表予定の臨時報告書で明らかになる。村上氏の関連会社が議決権の37%を有していたほか、米議決権行使会社ISSが賛成を推奨していたが、同業のグラスルイス社は反対を推奨していた。
実際の議決権行使状況はどうだったのか。レノなど村上氏の関連会社は細川社長の再任に反対票を投じていたともみられるので、会社提案の投票結果も気になるところだ。
