東京五輪 楽しみになった侍J強化試合

第2戦で活躍した22歳の上林。“稲葉2世”の呼び名の通り、勝負強い打撃を見せてくれた。 © photograph by Kyodo News 第2戦で活躍した22歳の上林。“稲葉2世”の呼び名の通り、勝負強い打撃を見せてくれた。

 ナゴヤドームが満員のお客さんで埋まった。

 稲葉篤紀監督就任後、初めてのフル代表での強化試合。1月には筒香嘉智外野手(DeNA)や柳田悠岐外野手(ソフトバンク)ら主力となる一部メンバーを先行発表してチケットの売り上げを図ったが、そんな必要もなかったという。

「チケットを売り出した直後から売れ行きは好調で、一部メンバーの事前発表をする前にすでにかなりの売り上げがあった。最終的には完売になりましたし、京セラドームも一部外野席が当日売りになりましたが、それでもほぼ完売に近い売れ行きでした」(NPBエンタープライズ関係者)

 中日の低迷でここのところついぞスタンドが一杯になるところは見たことなかったナゴヤドームが満員札止めとなり、京セラドームもファンで膨れ上がった。

 曲がりなりにも侍ジャパンが商売として、成り立ち始めているというのが、球界にとっての今回の強化試合の1番のニュースだったかもしれない。

 その満員のファンの中での豪州相手の2試合。フル代表とはとても言えない相手だけに、格の違いははっきりしていた。

千賀、筒香ら投打の主役は揺るがない。

 第1戦は千賀滉大投手(ソフトバンク)がいきなり6連続三振でスタンドを沸かせ、その後も今永昇太(DeNA)、東浜巨(ソフトバンク)、田島慎二(中日)、岩嵜翔(ソフトバンク)、山崎康晃(DeNA)と6人の投手で16個の三振を奪っての完封劇。

 打線も6回に秋山翔吾外野手(西武)の四球と送りバントの1死二塁から3番・柳田の中前タイムリー、4番・筒香の右越え二塁打と主軸打者の期待通りの活躍で2点を奪っての勝利だった。

 一方の第2戦は柳田、筒香、浅村栄斗内野手(西武)のクリーンアップは無安打だったが、2番に抜擢された松本剛外野手(日本ハム)が2安打3打点、9番の今宮健太内野手(ソフトバンク)や昨年のアジアプロ野球・チャンピオンシップから続けて招集された上林誠知(ソフトバンク)がマルチの2安打と活躍。

 投手陣でも昨年に続いての招集となった堀瑞輝(日本ハム)と石崎剛(阪神)に初招集の高梨雄平(楽天)、がそれぞれ1回を無失点ピッチングを見せている。

いかに伸びしろのある若手を見出すか?

「今回の選手を軸にしていきます。その中で今年、若い選手が活躍して、トップチームに集合したときにどうやって国際大会で活躍するかを見てみたいという選手は呼びたいと思います」

 2試合を終えた稲葉監督は2020年の東京五輪に向けたチーム作りをこう説明した。

 千賀の快投や柳田、筒香の勝負強さは、改めて見るまでもない。それよりもこれから2年間で代表の中心になるだろう伸びしろのある選手をいかに見つけ出して、経験を積ませるか。

 今の侍ジャパンの強化試合の意味は、まさにそこにあるはずだ。

 そういう意味では引き締まって見応えのあった第1戦も面白かったが、試合としては少し冗漫になってしまったが、それ以上に若手がしっかりと足跡を残しただ第2戦には意味があった。

投の堀、打の松本と上林らは2年後を見据える。

「19歳でこのマウンドに立てたのは、自分にとっていい経験になります」

 こう語ったのは第2戦で3番手として2イニングをパーフェクトに抑えた左腕の堀だった。

 堀は昨年のアジアプロ野球チャンピオンシップにも招集されて、初戦の韓国戦では延長10回のタイブレークで2死一、二塁から火消し役としての登板なども経験して、今回が連続での代表入りだ。

「今回は緊張せずに集中することができたのが良かった。コースにしっかり請求できていましたし、シーズンで結果を残して、また次も選んでもらえるようにしたい」

 本人がこう語ったように、稲葉監督にとっても2年後に向けて期待の大きい選手の一人であることは間違いない。

 一方、打線でも昨年のアジアプロ野球チャンピオンシップに続けて招集された松本と上林がトップチームでも気後れすることなく結果を残して初陣を飾った。

「代表でもチームでも自分が生き残る道を考えたい。2番なので(2本の)安打より、最初の2打席が良かったと思っている」

 こう語る松本は1回に先頭の秋山が出塁すると、すかさず送りバントを決めてそれが敵失を誘って一気にチャンスを広げ、第2打席では無死二、三塁から手堅く右犠飛で追加点を奪うバッティングを見せた。

すでに五輪を強く意識してプレーする選手達。

 12球団の主力とスター選手が揃う代表だが、全員が3番や4番ではチームとしてのつながりを失う。

 それだけに振り回すだけではなく、安打を打ててなおかつ、必要なときにはつなげる打者をいかに見出していくか。

「バントや進塁打など、このメンバーの中でも役割を理解している。チームに帰っても続けられれば、ジャパンでのつながりを求める場面で必要な選手になる」

 稲葉監督の松本評だ。

 一方、第2戦では不発のクリーンアップを救ったのが野手最年少の22歳、上林だった。

 初回の2死満塁では必死に走って投前適時打で1点を奪うと、9回には左中間を破る二塁打でパワーも見せつけた。打撃フォームが似ていることから“稲葉二世”と呼ばれる監督の秘蔵っ子も、2年後の侍の中心へとイメージを膨らませる素材であることは間違いない。

「コメントを聞いていますと、選手が『オリンピックに向けて』とみんな言ってくれていますので、少しずつそういう意識を持ってくれているのかなと感じています。すごくいいことだと思っています」

 開幕直前にフル代表の試合を組むことには賛否がある。ただ、これだけのファンが集まり、そして選手の視線の先には2020年の東京五輪でのメダルが見据えられている。

 2年後のチームのイメージが作れたことに、この2試合の意味は十分にあった。

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