ソフトB、ファミリー同士が覇権争い
世界最大のIT投資企業ソフトバンクグループは、米ウーバー・テクノロジーズをはじめ、世界中のライドシェア(相乗り)サービス会社に総額200億ドル(約2兆1100億円)前後を注ぎ込んでいる。
それら企業が今、ソフトバンクから得た資金の少なくとも一部を使って互いに競い争っている。
日本では、ウーバーが中国の滴滴出行との競争を加速している。滴滴はソフトバンクから100億ドル前後の投資を受け、日本市場進出を計画している。
インドでは、ウーバーは相乗りサービスの現地最大手ANIテクノロジーズの「オラ」と競っている。オラはソフトバンクが株式の約30%を保有し、取締役も1人送り込んでいる。
ウーバーはオーストラリアでも、2月に同国で営業を開始したオラと競合。東南アジアではシンガポールのグラブを追撃しているが、そのグラブはソフトバンクから7億5000万ドルの出資を受け、その後の2016年にはソフトバンク出身者が社長に就任している。
一方でソフトバンクは今年、ウーバーに77億ドルを投資し、15%の株式を取得している。
「ソフトバンクとビジネスをするのなら、時に彼らが自分たちの競合とビジネスをすることにも慣れなくてはならない」。ウーバーのダラ・コスロシャヒ最高経営責任者(CEO)は2月、規制当局者や提携企業との会合で東京を訪れた際にこう語った。
ソフトバンクは、投資したスタートアップ企業が互いに助け合う姿を目指しており、コスロシャヒ氏はそれを「ソフトバンクファミリー」と表現した。
孫正義会長兼社長の考えに詳しい関係者によると、同氏の狙いは世界が自動運転車へと向かう中、それら企業が研究開発で協力し、合弁事業を模索できるようにすることにある。
孫氏は最近、記者会見で以下のように語った。
「基本的にはウーバーに限らずウーバーも滴滴もグラブも、彼らのマネージメントそしてその主要株主が自ら判断する。彼らが直接お互いに交渉して合意に至るようであれば、またそれがわれわれにとっても株主価値をより増大させるものであれば、われわれも真剣に検討する。しかし、われわれが何かを強制するということは一切ない」
常識破りの投資
ベンチャーキャピタリスト(VC)は通常、互いに競合する企業には投資しないよう気をつけている。そのようなことをすれば不信感を招いたり、利益相反の懸念を生じさせたりしかねないためだ。また、互いの収益を侵食し合う可能性のある企業に投資することは、ほとんど意味がないというのが従来の考え方だ。
ソフトバンクはそうした慣例を打ち破っている。その一因についてVC企業ゴールデン・ゲート・ベンチャーズの共同創業者ビニー・ローリア氏は、同社には多額の資金があり、どちらかと言えば「市場統合を目指すプライベート・エクイティ・バイアウト企業」に近いためだと指摘する。
孫氏は昨年、外部投資家の力を借り、運用規模920億ドルで世界最大のITファンド「ビジョン・ファンド」を立ち上げた。この巨額の軍資金を得たことで、ソフトバンクはオンデマンド輸送などの業界に世界規模で長期的投資ができるようになった。
ソフトバンクの幹部らは、出資した相乗りサービス会社同士の争いは一時的なものと考えており、そうした時期を乗り越え、大きな見返りが得られるまで10年またはそれ以上待つ覚悟はできていると話す。
幹部らの考えはこうだ。相乗りサービスは最終的には各地域で1社が支配するようになり、それぞれの市場規模から判断すると、各社がさらなる拡大の必要性を感じる可能性は低いだろう――。一方で彼らは、出資先同士の協力を拡大しても構わないとも考えている。
とはいえ、出資先企業の戦略に対するソフトバンクの影響力は限られている。同社は少数株式を保有し、取締役を1人か2人送り込んでいるだけにすぎない。しかし、ウーバーや滴滴などにとってソフトバンクからの資金は、世界的な成長を目指して競争を続ける上で大きな武器になる。
「ソフトバンクには意見があるかもしれないが、彼らの意見だけが全体の意見ではない」。ウーバーのコスロシャヒ氏は最近、インドのニューデリーで記者団にこう述べた。同氏はソフトバンクがウーバーに競合との合併を迫っているかどうかについてはコメントを控えた。
激化する競争
日本は厳しい規制などによって相乗りサービスの波があまり届いていない数少ない主要市場の1つだが、ソフトバンクが望むファミリーのきずなは既にほころび始めている。滴滴とウーバーは日本進出にあたって似たような戦略を取っており、争いの火ぶたが切って落とされている。
ウーバーは現在、日本では料理宅配サービスの「ウーバーイーツ」とハイヤーサービスを手掛けている。一方、滴滴は2月、ソフトバンクと合弁会社を設立し、タクシー配車アプリを提供する方針を明らかにした。これは、中国語を話すドライバーによる無許可のタクシー営業(白タク)に対する規制当局の懸念に配慮した措置だ。日本では近年、年間数百万人に上る中国人旅行者を相手に中国語のアプリを使用して営業を行う白タクが増えている。
ウーバーのコスロシャヒ氏も日本では、市場規模1兆7000億円とされるタクシー業界でのビジネスチャンスを探る方向にシフトする意向を示している。同氏は2月に都内で行われたイベントで「われわれには明らかに別のビジネスのやり方が必要だった」とし、それはつまり「タクシー業界との提携」だと述べた。
一方でインドのオラは、ソフトバンクが独立を保つよりウーバーとの事業統合を進めようとすることを懸念しているという。オラの創業は2011年で、その2年後にウーバーがインドに進出した。ソフトバンクは初期の投資に加え、昨年、中国のテンセントホールディングスが主導したオラの11億ドルの資金調達ラウンドにも参加した。
東南アジアでもウーバーは、やはりソフトバンクが支援する競合のグラブと覇権を争っている。グラブは昨年、ソフトバンクと滴滴が主導する調達ラウンドで25億ドル調達すると発表した。同社は2012年に創業され、東南アジアの178都市で事業展開している。ウーバーの広報担当者によると、同社は2013年に東南アジアに進出し、現在60都市以上で営業している。
自動運転技術に投資するイスラエルのVCファンド、マニブ・モビリティのパートナー、オラフ・サッカーズ氏は「競争を封じ込めるのは難しいものだ」と話す。「価格競争の両サイドに投資することは、高くつくことになる」
