大阪桐蔭「最強世代」のジンクス
© photograph by Hideki Sugiyama 甲子園の常連となった大阪桐蔭と西谷監督。それでも気を緩めるどころか、危機感をもって戦いに挑む。
第90回記念選抜高校野球大会に出場する36校が発表された。
出場校が増えた今大会は、昨秋神宮大会の覇者・明徳義塾、春2度目の優勝を狙う日大三、北海道地区代表の駒大苫小牧など多士済々の顔ぶれがそろった。中でも注目を浴びているのが、連覇を目指す大阪桐蔭だ。
昨年の優勝メンバーが多く残る大阪桐蔭への評価は高い。投手と野手を兼任する根尾昂や昨夏のU-18W杯のメンバーだった藤原恭大ら5人のドラフト候補を擁し、「最強世代」と称される。
神宮大会準決勝では長崎の創成館に4-7で完敗。にもかかわらず評価が変わらないのは、今チームへの期待に加えて、「大阪桐蔭=優勝候補」というイメージが定着したこともあるだろう。
とはいえ名だたるOBがプロで活躍している同校だけに、「最強世代」という下馬評はいささかオーバーな気もする。
「最強世代はネット社会が作った虚像だと思います」
「監督になってから25年目くらいになりますけど、今年のチームがどれだけ強いかといったら、上から数えて10番目くらいです。“最強世代”といわれるのはちょっと恥ずかしいですね。去年の優勝を経験した選手が多いのは確かですけど、それはプラスになるかマイナスになるかは別の話ですから。(最強世代は)ネット社会が作った虚像だと思います」
大阪桐蔭の指揮官・西谷浩一監督もそう釘を刺している。
謙遜ではない。多くの指導者とも通じることだが、成長途中の段階で手放しで「強いチームだ」と口にする監督はそうはいないだろう。高校球児のゴールが夏の大会と仮定すれば、今は「最強チーム」をつくる過程なのだ。
ただ西谷監督が「最強世代」を否定する背景には、心のどこかに「最強チームと言われる世代に限って、全国制覇を逃している」という過去の例があるからだろう。西谷監督は大阪桐蔭の“最強”とされた世代が苦汁をなめた過去を忘れていない。
岩田、中村、西岡がいたのに甲子園を逃す。
印象的なのは、エースに岩田稔(阪神)、主砲に中村剛也(西武)、2年生に西岡剛(阪神)がいた'01年のチームだ。岩田の体調不良も影響したが、「大阪桐蔭最強世代」とされながら、甲子園優勝はおろか、夏の出場すら逃したのである。
西谷監督は言う。
「この時はPL学園にもすごい選手が集まっていたときだったんです。朝井秀樹(元楽天)、桜井広大(元阪神)、小斉祐輔(楽天)、今江敏晃(楽天)。だから、それに勝つためにはどうしたらいいかと目標をたてて、当時のチームは叩きあげで作っていったんですね。今でこそ中村は有名になりましたが、高校入学当時では今江君の方が圧倒的に知られていましたから。
中村らは1年からしっかり鍛えましたし、今までで一番練習した学年でした。大阪大会の決勝(上宮太子戦)では0-5から最終回に追いついて、延長にもつれ込んだんですけど、それでも負けてしまった。これだけ子どもたちが頑張っているのに、導いてやれなかった。なんと監督の力がないのか、と力不足を痛感しましたね。あの時勝たせてやれなかったことが、今も一番の後悔として残っています」
中田翔や浅村、藤浪が2年時のチームも……。
強さと結果が比例しなかったのはこのチームだけではない。
'07年のエースで4番の中田翔(日本ハム)を擁し、捕手に岡田雅利(西武)、二塁手に浅村栄斗(西武)がいたチーム、さらには'11年、藤浪晋太郎(阪神)が2年生エースだったときも西田直斗(阪神)らタレントが揃っていたが、どちらも夏の甲子園出場を逃しているのだ。
「夏の甲子園優勝には共通点があるんです。それは前年度の方が強いチームだったということです。最強チームで勝たせてやれなくて、ちょっと力が落ちるかなというチームで勝っている。'04年の夏、中田の代、藤浪が2年生の代の3回は、甲子園に出ていたら優勝候補だったと思います」
「最強チーム」にこのような歴史があるだけに、西谷監督は今回のチームが“最強世代”と呼ばれるのに抵抗があるのだろう。
「100回大会優勝をターゲットにしたわけではない」
また、現チームの評判が上がり続ける要素として、今夏で甲子園が100回大会を迎えることも関係している。以下の噂は、その一例である。
「大阪桐蔭は100回大会を迎える2018年の夏に優勝する気でいる。そのために、全国から有望な選手をかき集めた。中学時代から146キロを投げた根尾を獲りにいったのは、そのためだ」
しかし当然ながら、勝ちにこだわる西谷監督は、100回記念大会であっても何回大会でも、常に優勝を狙うタイプだ。目標設定だけでなく、スカウティングの段階からより強いチームにしようと毎年、選手を追いかけている。
「もちろん100回記念大会は盛り上がるでしょうし、その大会の甲子園に出たいし、優勝したいと思っています。選手たちにも『100回大会には出よう』と話しています。でも、それは今年になってからのことで、以前から100回大会を目指して選手を獲りにいったわけでも、練習を厳しくしているわけでも、選手起用したわけでもありません。
99回大会も101回大会も、僕は優勝したいと思ってチーム作りをしています。2年生が多いチームで優勝したから評価が高いのは分かりますけど、今までの中で一番強いチームだという印象を僕は持っていないです」
好投手が3人揃っていることの悩みもある。
西谷監督は現チームに物足りなさを感じている。それは強豪チームだからこその悩みに直面しているからだ。
例えば投手陣は、昨夏の甲子園で好投したエースの柿木蓮、センバツの胴上げ投手となった根尾、身長190センチから投げ下ろすピッチング魅力の左腕・横川凱とハイレベルだが、枚数が多いからこそ、個々の伸び悩みにも繋がっていると見ている。
「もし投手陣に柿木しかいなければ、全試合彼が投げる気になりますから、責任感が生まれてきます。でも、3人いることで『きょうは誰やろな』みたいな空気も生まれる。調子が悪かったら代わる投手がいることで、どの投手にも強さが足りないと感じています。選手の将来のことを考えれば、投手の登板過多を防ぐには枚数が多い方がいいですけど、その分、成長度合いが1枚のケースと同じようにいくかといえば、そういうわけではありません」
類まれな力を持った選手が多いからこその難しさ。
かつての“最強チーム”の翌年に大阪桐蔭が成績を残してきた理由は明白だ。
中村や中田など「個」の力に頼ることができなかったから、誰もが泥臭くプレーすることを心掛けた。西谷監督はそれを「危機感」と表現するが、タレントがいた前のチームより自分たちは劣るのだからと、もっと必死にやらなければいけない意識が自然と生まれていた。
もちろん、現チームが必死にやっていないわけではない。
ただ、甲子園の経験者が多く、類いまれな個の力を持つ選手が揃っているチームだからこそ感じる難しさがあるのだ。
連覇を狙う今大会は大阪桐蔭にとって、本当の「最強チーム」になっていくための過程だ。これまでの「最強」と同じような結末なのか、それとも勝ち続けて新たな歴史を作るのか――。
“最強世代”は“最強チームのジンクス”と、この1年間戦うことになる。
