「犠牲になって」RIZIN参戦の裏側

格闘技ブームに再び火をともしたRENA ツヨくてカワイイだけじゃない「やると決めたらやる!」: 女子格闘家のRENA © zakzak 提供 女子格闘家のRENA

 桜庭和志、グレイシー一族、ヒョードル、ノゲイラ、果てはボブ・サップまで…。かつて紅白歌合戦のライバルともいわれた総合格闘技(MMA=ミックスド・マーシャル・アーツ)はいつの間にかブームを終えた。その灯を再びともらせたのは1人の女子。今年10月のRIZIN(ライジン)でメーンを張った“ツヨカワ”クイーンのMMAデビューはわずか2年前だった。

 「地元の大阪でやれることをやり尽くして、東京でもうひと花咲かせたいなと思って上京したころ、ちょうどRIZINさんからオファーがあって。でも、私がやっているシュートボクシングは立技格闘技で、寝技もあるMMAとは違う。打撃はバシッと一発で決まるけど、寝技はメキメキッて痛そう。だからムリ、ムリって。怖かった」

 それでも、「とりあえず記者会見には出てほしい」と要請を受けた時点で、思いは決まった。

 「記者会見に出て、試合には出ないっていうのはなしですよね。シュートボクシングのシーザー武志会長からは、『犠牲になってくれ』と言われて。犠牲って何(?)とも思いましたけど。結局10月から、MMAの練習をやり始めました」

 試合は年末。正味3カ月もないなかでの挑戦は無謀だ。しかし浪速の根性っ娘はあきらめなかった。気持ちの強さは幼少時から鍛えられてきたもの。大阪の4姉妹は毎日がケンカ。末っ子がどれほどシバかれたかは…。

 「お姉ちゃん3人が強めというか、悪くいえば“ヤンキー”。長女と次女は殴り合っているし、私は馬乗りにされてドツかれたり。試合じゃないからルールはないし、止める人もいない。お母さんも『やめときや~』くらい。最後の最後に『ええ加減にしいや!』と、やっとレフェリーになってくれる感じでした」

 その悔しさが成功につながるのだから面白い。ふと見かけたシュートボクシングの看板。小学生ながらその門を叩いた。

 「お姉ちゃんは8歳、6歳、3歳上。すぐ上は一番背が高く、体格でもかなわかった。そのままじゃ勝てるわけがない。だから、“いつかシバいたるで!”って。それが入門のきっかけです」

 生まれながらの“サバイバル”を経験していれば、頭角を現すまでにそう時間はいらなかった。

 「通ううちに先生のチャンピオンベルトがほしくなっちゃって。お姉ちゃんはどうでもよくなった。あこがれの選手もいなかった。だってあこがれてしまったら、その人以上にはなれないから」

 強い気持ちと突破力があれば、どんな“サバイバル”でもへっちゃら。MMAも肚をくくれた。

 「やると決まったらやる。でも、打撃にいくら自信があってもそれだけではダメ。MMA対策としてひたすら飛びつき腕十字を練習しました。以前に佐藤ルミナさん(修斗の元名選手)に教わっていて、これしかないかなって。毎日50回はコーチに飛びついてました」

 2015年12月31日のRIZIN初戦、見事にその腕十字でイリアーナ・ヴァレンティーノを撃破。女王候補の誕生にアリーナは熱狂した。

 「MMA用の関節技はあれだけ。本当にようできたなあ、よう勝てたなあって。あそこで負けていたら、RIZINにはもう出ていません」

 次の山本美憂戦はチョーク、ハンナ・タイソン戦は左ミドルキック、ドーラ・ペリエシュ戦とアンディ・ウィン戦は左ボディブローでKO勝ち。MMA5戦5勝というシンデレラばりの活躍に、街なかでも声をかけられるようになった。

 「『RENAさんですか?』って。“はいっ”とは言うけど、人見知りだからあとは何を言えばいいのか分からなくて、心のなかで“何だよ~っ”って。声をかけてくれるのかくれないのか分からないときも、“何だよ~っ”って、パニックになっちゃう。でも、本当にうれしいんです」

 ファンに愛される“ツヨカワ”クイーンはどこまで強くなるのか。将来はUFCなどアメリカで闘いたい夢もあるが、今は日本での地位を固めるのが先決。まずは31日のRIZIN・女子スーパーアトム級トーナメントで優勝できなければ、何の意味もないだろう。

 「アンディ・サワーさんとか、テレビで見ていたシュートボクシングの名選手と今、総合で一緒に闘っている。訳が分からないほど展開が速いですね。でも、アメリカとかはずっと先のお話。RIZINに専念して、まずは年末を獲らないと。当日は入念に作り込んだ入場シーンから、試合、最後のマイク・パフォーマンスの“イチッ、ニッ、サンッ、シュート!”まで、すべてを見ていただきたいです」。極上のRENAエンターテインメント、さらに羽ばたく大晦日が楽しみだ。(ペン・秋谷哲 カメラ・納冨康)

 ■RENA(レーナ) 本名・久保田玲奈(くぼた・れな)。1991年6月29日、大阪府生まれ。26歳。160センチ、49キロ。小学6年生でシュートボクシングに入門し、2007年7月1日に16歳でプロデビュー。09、10、12、14年とガールズS-cupで優勝、11年初代RISE QUEEN王座、15年初代SB女子フライ級王座も獲得した。15年大晦日の「RIZIN」でMMA初参戦V。「RIZIN」無敗V6をかけ、31日の女子スーパーアトム級トーナメント準決勝(さいたまスーパーアリーナ)でアイリーン・リベラ=スペイン=と対戦する(決勝も同日)。趣味はダイビング、ショッピング。愛犬はフレンチブルドッグのおはぎとみたらし。幼少時にシバかれた姉3人とは「みんな大人になって仲良くしています」。

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