農業とITとの理想的な協力関係とは

 「NoMaps 2017」初日のセッションリストにならんだ「農Maps@No Maps ~北海道米LABO~」。農業を取り巻く人々がそれぞれの立場から北海道米について語り、パネルディスカッションにも多くの時間が割かれた。そのパネルディスカッションを中心に、研究者、IT企業、農協などそれぞれの立場の意見を見ていきたい。

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バーチャルエンジニアリングによる農業革新の可能性

 「農Maps@No Maps ~北海道米LABO~」パネルディスカッションに参加したのは、北海道農協 青年部協議会 副会長 堀田昌意氏、北海道大学大学院 農学研究院 准教授(地域連携経済学研究室)小林国之氏、システムデザイン開発株式会社 代表取締役 菅野滿氏、農業データ連携基盤協議会 副会長 上原宏氏、ホクレン農業協同組合連合会 米穀事業本部米穀部主食課 課長補佐 松尾一平氏、フュージョン株式会社 代表取締役社長 佐々木卓也氏と多彩な顔ぶれ。

 モデレーターは北海道大学大学院 情報科学研究科 特任教授 山本強氏が務めた。話題は農業の機械化や流通の効率化から、後継者問題にまで幅広くおよんだ。(以下、敬称略)

北海道大学大学院 情報科学研究科 特任教授 山本強氏 © ASCII.JP 提供 北海道大学大学院 情報科学研究科 特任教授 山本強氏

山本:なぜ農業は衰退していくのか。電気量販店でルンバが簡単に買える時代になったのに、なぜロボット除草機みたいなものは販売されないのか。そういった話を集まったみなさんでしていきたいと思います。

菅野:農家の方に聞いた話なんですが、農業は一生で30回しか勝負できないって言うんです。米は特にそうで、植えるタイミングもワンポイントなので完全に1年に1回の勝負です。これってクルマづくりと似ているんですよね。クルマの場合は開発に数年かかるので勝負できる回数はもう少し少なくなりますし、大切なのはやはり勘と経験です。そして今、日本の自動車メーカーにも危機が起きています。

山本:どういうことでしょうか。

菅野:農業も自動車メーカーも、新しいことにトライする回数が限られています。ところがクルマづくりにおいてはここに変革が起きているんです。たとえばドイツではコンピューター・シミュレーションで何度も何度も試作を繰り返し、クオリティーを上げてきています。日本の自動車メーカーはこのものづくり革新に遅れをとったのです。

山本:それは農業に置き換えるとどのようなことになるのでしょうか。

システムデザイン開発株式会社 代表取締役 菅野滿氏 © ASCII.JP 提供 システムデザイン開発株式会社 代表取締役 菅野滿氏

菅野:農業では一生に30回しか勝負できないと言いましたが、実際にはもっと少なくなる可能性があります。というのも、農家のおやじというのはなかなか代を譲らないからです。死ぬまで譲らない人もいます。そうすると若い人が、父親を抜いていくのは難しくなる。そこで、単に生産効率を上げるのではなく、バーチャルエンジニアリングで新しいものにトライする回数を増やしたり、それを自動的に繰り返すことでコンピュータが最適解を見つけたりと、新しい切り口があるのではないかと思うんです。

 生産現場だけではなく、ITで市場を革新することも必要かもしれません。北海道のIT産業は優秀ですから、ITと米が結びつくことで電子市場を北海道に作るなど、色々な流通ルートに揉まれる必要もあるのかなと考えます。ホクレン(北海道農協)さんへの一極集中ではなく。

松尾:(ホクレンは)一極集中ではないし、そんな電子市場が生まれるならぜひ一緒にやっていきたいですよ。確かに札幌はIT産業が盛んな地域ですし、観光資源もある。そういうほかの業界と協力していくべきとは私も考えています。特に、北海道米を道外に売っていく場合には、ITを使って物流コストを下げたり、電子決済を取り入れたりと、流通だけを見てもさまざまな可能性があると思います。

農業の機械化が難しい理由と、解決の糸口を探る

山本:ルンバは簡単に買えるのに、水田用の自走型除草機がなぜないのか。そちらについてはどのようにお考えですか?

北海道農協 青年部協議会 副会長 堀田昌意氏 © ASCII.JP 提供 北海道農協 青年部協議会 副会長 堀田昌意氏

堀田:個人的には、ぜひ作っていただきたいですね。水田には用水路から水をいれるパイプや排水路がありますが、それらが設置されている高さや水田の深さなどは、圃場によってばらばらなんですよね。実は私は、これらを統一してロボットが動けるようにと考えて、数年前から水田の作り直しをしています。まだ道半ばですが、ゲートの場所や排水路の深さなどが決まっていれば、ひとつの機械ですべての圃場を回れるようになると信じて取り組んでいます。

山本:それは面白いですね。水田の作りから変えていくと。そういう発想がIT側の人間にないことが問題なのかもしれません。現状の田畑を見て、それに合わせた機械を作るためにものすごく苦労しています。でも、「田んぼをこうしてくれたら低いコストでいいものができる」って話を、農家と握り合えばいいと思うんです。IT側は「なんでも言うことを聞きます」って姿勢でしょう?

佐々木:いやそんなことはありませんが(笑)

菅野:私たちは製品を作る際に、機能だけではなくコストについても考えます。どのような機能の物を作れば、どれくらいの価格で、何台買ってもらえるのか。それを考えるときに一番知りたいのは、機械の導入によってどれだけコストが下がるのかということです。

 たとえば大根の場合、ロス率が25%から30%もあるんですよ。それを5%でも下げることができれば、その分は丸儲けですよね。だったら、センサーなどの設備投資をしても十分な投資対効果が得られるなと。逆に100万円も200万円もするなら、人手でやった方がいいってことになります。

 コストの観点でもうひとつ言っておきたいのは、これは日本人の全体的な特性ですが、あまり完璧なものを求めないことですね。できることとコスト、投資と効果を見極められれば、ロボットが農業に入っていく余地はあるし、ビジネスとしても成り立つと思います。

山本:品質という面では、一般消費者向けの製品づくりよりハードルは低いんじゃないかと個人的には感じます。私自身も農家に育ったので知っていますが、農家は実はエンジニアで、自宅に納屋という工場を持っています。農業機械だって故障することがありますが、たとえば田植えのシーズンに機械が壊れたからといって修理に出している暇はありません。みんな自分で直して使うんです。そういう意味では、一般消費者に比べて完璧ではないものを受け付ける土壌を持っていると思います。

菅野:そうですね。私たちの製品も3年くらいかけて農家の人と一緒になってつくりあげてきました。簡単なロボットや簡単な仕組みで解決できることって農業の現場にいっぱいあると思っています。人手で解決するためにパートを雇うと時給1000円くらいのコストになりますが、同じコストで機械化ができれば人を探す手間はいらなくなるし、ITから見ても面白いマーケットになります。

流通における農業とITとの理想的な協力関係とは

山本:流通などもっと上のレイヤーでもITができることってあると思うんですが、そういったところはどうでしょうか。

松尾:大手コンビニエンスストアが2025年までに全商品にICタグを付けるとリリースが出て、すごいと思いましたね。そこまで大きい流通が使えばタグの単価が下がるでしょうから、普及にも加速がつくでしょう。道外に売り込むお米にICタグを付けることができれば、流通のデータを取ってマーケティングに活かせるだろうと、夢を広げています。

山本:消費者もそういうデータは見たいのではないでしょうか。といっても生データを見せられても「へえー」と言っておしまいでしょうから、見せ方に工夫はいるでしょうけど。

フュージョン株式会社 代表取締役社長 佐々木卓也氏 © ASCII.JP 提供 フュージョン株式会社 代表取締役社長 佐々木卓也氏

佐々木:データの見せ方という点ですごいと思うのは、クックパッドさんですね。素材を入れると、メニューがビジュアルで示される。同じように、この素材をどのように使えば消費者にとって有益なのか、そんな情報を消費者にわかりやすく示してあげることが必要だと思います。それは写真だったり動画だったりするのかもしれませんが、そこにITをうまく活用できるのではないかと。

 消費者だけではなく、流通の人たちにももっとわかりやすく情報を提供する必要があります。流通の人たちって、大体半年後のことを考えているんですよ。いま(10月)ですと、もうバレンタインを過ぎてひな祭りや母の日の話を始めています。

山本:そんなに早いんですか。そこには生鮮も含まれるんですか?

佐々木:生鮮も含まれます。夏場から「鍋はどうしよう」って話をしていますから。そこに、「来週大根がたくさん取れるから」って言われても、もう組み込めないんですよ。それに、流通の人が知っている食材しかそこには組み込まれません。定番以外の魅力的な商品があれば、できるだけ早く教えてくれと言われます。

北海道大学大学院 農学研究院 准教授(地域連携経済学研究室)小林国之氏 © ASCII.JP 提供 北海道大学大学院 農学研究院 准教授(地域連携経済学研究室)小林国之氏

小林:実際の収穫は天気などで変わってくるので、農協の営業マンが「2週間後に大根がこれくらい取れそうです」って言うと、それをスーパーマーケットが仕組んだ商品企画の中にどれくらい組み込めるかを仲卸が考えます。そこにITが入り込んできて、スーパーマーケットで扱えないような商材を扱い始めたりしています。

 一方、お米や穀物は産地である程度貯蔵して、需要を見込みながら精米して出荷します。貯蔵が利くことと、消費の変動が少ないことが背景にあります。買い方の変動も少なくて、4割くらいの人がスーパーマーケットで、1.5割くらいの人が生協で買っていて、2割くらいの人が生産者から直接購入しています。もらっているという人も2割くらいいますね。スーパーマーケットで買う人はあまり変化しないと思いますが、それ以外の買い方のデータを集めて、流通の仕方を変える可能性ってあるんでしょうか。

松尾:量販店とかドラッグストアでも最近お米を売っていますよね。ディスカウンターの流通は伸びています。重い物なので、水と並んで通販の目玉になっているとも聞きます。

小林:ホクレンは通販などへのシフトに対応できているんですか?

松尾:自社サイトやAmazonで販売するなど、トライアルはしています。レビューも返ってくるし、これから有望な市場だと認識しています。市場を拡大するために、輸出も始めています。しかし色々なお米が一気に入って日本米同士の価格競争になっては意味がないので、北海道のブランド力を活かしたマーケット作りを心がけています。

山本:日本の米の食べ方って特殊だと思うんですが、これは海外で受け入れられるんでしょうか。おかず文化とセットで輸出するとか、そういう工夫が必要じゃないかと思うのですが。

小林:居酒屋文化などと一緒に、食べ方や店舗ごと売り込んでいく。そういう手法での海外進出は実際に始まっていますね。

松尾:東南アジアのように屋台文化が浸透していて、自宅で食事をする習慣自体がないところでは、炊飯器も持っていないんですよね。そういう、土地ごとの文化に合わせて売り込んでいく必要はあります。

新たな楽しみ方の提案による市場拡大の可能性は国内にもまだあるのか

山本:さっき楽屋で「ササニシキって最近見なくなったよね」って話をしていましたが、米の銘柄にも流行があるんですよね。日本人は純粋で素の物を好む傾向があるけれど、色々な銘柄の米をブレンドして楽しむなんてことはできないんでしょうか。

小林:米を単一銘柄で食べるようになったのは、実は最近のことなんですよ。元々はそれぞれの米屋が独自にブレンドして自分の店の味を作っていました。そういう文化があるので、ブレンド米には可能性があると思いますね。

ホクレン農業協同組合連合会 米穀事業本部米穀部主食課 課長補佐 松尾一平氏 © ASCII.JP 提供 ホクレン農業協同組合連合会 米穀事業本部米穀部主食課 課長補佐 松尾一平氏

松尾:今でもお寿司屋さんでは、自分好みのブレンドを作って使っているところが多いですよ。しかし残念ながら一般家庭では銘柄買いが一般化してしまい、私たちもブレンド米にチャレンジしたけれど長続きしませんでした。時代が変わればもう1回チャレンジできるかもしれませんね。北海道米には色々な品種があるので、選べる楽しさに、ブレンドする楽しさを加えるとか。コーヒーみたいにブレンドの違いを楽しんだり、店頭で買った物をブレンドして精米してもらったり、そういう楽しみ方を提案すれば新しいマーケットが生まれるかもしれません。

山本:ブレンドってただ混ぜるだけではなく、物語だと思うんです。ブレンダーの名を冠したウィスキーがあるように、カリスマライスブレンダーのような人が現れて、どんどん情報を出していけば、新しい市場にもつながりそうですよね。

明るい話題ばかりではない北海道の農業、その未来は

山本:前向きな話題を展開してきましたが、そうはいっても北海道に限らず農業が直面している状況は決して明るいとは言えません。子供がなりたい職業の上位にも挙がらないということからも、業界自体が問題を抱えていると言わざるをえません。後継者問題など、いまそこにある課題へのアプローチについて、どのようにお考えですか?

農業データ連携基盤協議会 副会長 上原宏氏 © ASCII.JP 提供 農業データ連携基盤協議会 副会長 上原宏氏

上原:後継者問題は大きいですね。新規で経験のない人が都会からやってきて就農するためのハードルをいかに低くするか。そこは、データ農業が一番貢献できるところかもしれないと思っています。あとは、米にどのようにして付加価値をつけていくかということですね。先ほども海外では色々な食べ方があるという話が出ましたが、実はリゾット米と酒米って似ているらしいんですよ。酒米を上手に炊くとおいしいリゾットができるそうです。食べ方と一緒に輸出するのもいいけど、栽培の仕方を少し変えてやるだけでも、国際競争力を得られる可能性はあるのかもしれません。

松尾:後継者問題の現状を語るととても暗くなるのですが、水田農家で今後20年先まで後継者がいるのは2割くらいと言われています。堀田さんは、継いでくださった貴重なおひとりです。

堀田:私自身は農家を継ぎましたけど、後継者問題にはすでに頭を悩ませています。結婚して男の子にも恵まれましたが、それが解決になったかというと、そうではありません。たぶん、継がないだろうと思っているからです。でも、できるだけ継ぎやすい形にしていこうと思っています。息子が継いでくれなくても、ほかの誰かが継ぎやすいように。

 後継者がいない、というところで思考停止するのではなく、解決策を考える姿勢でこの問題をとらえてみたらいいと思います。子供が継いでくれればもちろんそれでいいし、会社にして何人かで事業として継続していく方法もあると思います。極端な話をすれば、ノウハウだけ継いでもらって、あとは全部人材派遣でやればいいのではないかと思ったりもします。少なくとも、次の世代に残せるように、継ぎやすいように、そう取り組むばかりです。

山本:話題がとても広かったので、もっと深堀りして聞きたいという人もいるでしょう。この後ミートアップがありますので、そちらで登壇者を捕まえてください。

 その山本氏の言葉を持って、パネルディスカッションは締めくくられた。その後は会場を移してライスボールプレイヤー 川原悟氏によるおむすびパフォーマンスを交えながらのミートアップが開催され、参加者はさまざまなおにぎりを食べ比べながら北海道米について語り合った。

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