小林誠司を否定か G異例ドラフトの裏
© photograph by Kyodo News オフに30億円とも言われる大型補強をしたはずなのだが、CS進出を逃した巨人。小林の試練は続くのか……。
「今頃、小林はいったいどんな心境なんだろうね」
先月のドラフト会議直後から、30~40代前半の男性と仕事の打ち合わせや飲みに行くとよくそんな話題がでる。
不思議なもので、巨人の小林誠司と言えばそのイケメンぶりから圧倒的な女性人気の高さで知られていた。それがどうだろう? 崖っぷちの“松坂世代”と同時代を生きた、おっさんビギナーとも言える世代(俺含む)が、最近は小林を熱く語っている。それだけ、あのドラフトは衝撃的だった。
話題の清宮君の外れ1位指名で、再び抽選を外した高校通算52本塁打の村上宗隆(九州学院高)は捕手と言うより、慢性的に不足している“左の大砲候補”としてまだ分かる。だが、2位岸田行倫(大阪ガス)、3位大城卓三(NTT西日本)という2人の社会人捕手指名にはさすがにファンも驚いた。
確かに、ベテラン相川亮二と'09年ドラ2キャッチャー鬼屋敷正人が引退し、ドラフト後には實松一成が戦力外通告を受けた。
けど若手が育たないと指摘され続けているチームにおいて、2017年の数少ないプラス要素が小林誠司と大卒2年目・宇佐見真吾の正捕手争いじゃなかったのか……。
なんでそれすら否定するかのような指名をするのか?
コンバート前提なのか?
結局、巨人は育成でも大学生捕手2人を指名と、異例の捕手重点ドラフトに終始した。
あぁ、俺って会社から信頼されていないのかな……。
そんなに俺が悪いのか……。
もし自分が小林誠司ならヘコむと思う。あぁ会社から信頼されていないのかな。というか、多くのおっさんビギナーはこの理不尽とも思える28歳の小林が置かれた状況に敏感に反応した。
思うに、アラフォー男達は“10年前の自分”をそこに見ているのだ。
20代の男はこの世で一番無力である。
社会的な信用も経験もなければ、基本カネもない。
「おまえばまだ若い」と、ただただこき使われる日々。
「こいつらは俺より先を行っているかもしれません。でも俺より上に行ってるわけじゃない」
漫画『アオイホノオ』で主人公の焔燃(ホノオ モユル)はそう言って無力な自分自身を正当化し鼓舞する。
なぜなら、そうでも思わなきゃやってられないから。
同年代のキュートな女子のように「若いから」とおじさんに大事にされることもなければ、逆に「おまえはまだ若い」とオヤジ達からこき使われる日々。上司はうるさいし、残業も多い。時代遅れの先輩は「坊主になれ」とか言ってくる。
ちきしょうこんな会社やめてやる。
いや逃げるわけにはいかない。
よし、男は黙ってキャッチャーマスク……みたいなあの感じ。
会社で言えば、大きな部署でただ1人の若手という立場。
思えば、小林は2013年ドラ1でプロ入り以来ずっとハードな環境でサバイバルしてきた。
周囲からは“ポスト阿部慎之助”という、選手のタイプを考えたら無茶ぶりとも思える期待を受け、時に打撃やリードをボロクソに言われながらも1年目の63試合から→70→129→138と地道に年々出場数を増やしてきた。
ちなみに'15年、'16年と巨人は小林以外の20代捕手は1人も一軍でマスクを被っていない。会社で言ったら、部署でたった1人の若手社員として奮闘する日々だ。
なのに2年前には開幕マスクを被り同級生の菅野智之を勝利に導くも、その後チームは失速し、相川も怪我して、一塁転向したはずの阿部が開幕7戦目に電撃捕手復帰なんてこともあった。
俺なら萎える。
「営業部を支えていたアベ先輩が他の部署に移る、その代役はおまえに頼んだ」なんて社長とグータッチしたのに、ほんの数日で「ゴメン、全然ダメ。やっぱあいつを呼び戻すから」と思いきりダメ出し。周囲は次があるさとか慰めてくれるけど、それもまた虚しいもんだ。
巨人で“若手の役割”を全て引き受けている男。
巨人ではキャプテン坂本勇人と小林以外にレギュラーとして試合に出続けている20代野手がいないから、あらゆる批判が背番号22に集中する。
東京ドームの大観衆の目が光る賛否のステージに上がれないまま消えて行く選手も多い中で、一身に“若手の役割”を引き受けた男――。
昨年のとあるコラムで「だいたい小林は正捕手になれなきゃ死ぬみたいな雰囲気だけど、別に将来的に打撃力のある捕手との併用で第2捕手としてでもチームの戦力になれればいいと思う。背番号22の成長に必要なのは、経験と同時に負担をワリカンできる同年代のライバルである」と書いたのをよく覚えている。
そして今春にはWBCで侍ジャパンの正捕手として打率.450と大活躍、世界のコバちゃん旋風を巻き起こした。
レギュラーシーズンでも自己最多の138試合出場。
守備面では強肩を武器に盗塁阻止率.380を記録し2年連続のリーグ1位。
一方で打撃では規定打席に到達した打者の中では、12球団最下位の打率.206。それでも大エースに成長した菅野とのスガコバコンビで最優秀バッテリー賞を獲得。
プロ4年目でようやくポジションを掴んだ……と思ったら、夏場に宇佐見という年下の“打てる捕手”が台頭し、ドラフトで21歳の岸田、24歳の大城の指名と来たもんだ。
「小林に一定の目処がついた」からこその捕手指名。
社会人捕手の連続上位指名は小林誠司が物足りないから?
確かに一部評論家が指摘するようにそれはあるだろう。
だが、同時にこうも言えるのではないか。「小林に一定の目処がついたから、巨人は捕手再編成に踏み切れた」と。
打率.350、4本塁打の打撃成績を残した宇佐見にしても今季出場わずか21試合、もちろん社会人出身と言っても岸田や大城もプロではまだ未知数だ。それなのに、引退の相川に続き實松までリリースした。要は安心ベテラン保険を切ったわけだ。なぜって、今の小林なら彼らの役割もできると踏んだから。
誰もいなくなり、そして小林だけが残った。
V3時代のツケを払っているかのような、過渡期のチームの急激な捕手の若返りの中心には28歳の小林誠司の存在がある。
不思議なもんだ。
あの頼りなさそうに見えたイケメンが、伸びかけの坊主頭で秋季キャンプ限定のチームキャプテンを務めている。ついこの間まで一軍唯一の若手捕手だったのに、気が付けばチーム最年長捕手だ。
誰もいなくなり、そして小林だけが残った。
来季はプロ5年目の29歳を迎える背番号22。そして今夜も「ここからだぞ。仕事を任せられるようになってからが本当の勝負の始まりだ」なんつって松坂世代のアラフォー男たちはビール片手に小林を語り合う。俺らにもそんな時代があったよね……となんか懐かしいこの感じ。
“サラリーマンの鑑”と言われた鹿取義隆。
一昔前、巨人戦ナイターが毎晩地上波中継されていた頃、プロ野球チームが会社にたとえられることがよくあった。
例えば、王貞治監督の酷使にも文句を言わずひたすら投げ続けた鹿取義隆を“サラリーマンの鑑”と週刊誌が大々的に取り上げたように。というか、このコラムだってあえてその視点の延長線上で書いた。ちなみに酒席のネタで求められるのはアイドル論にも近い「隙のない完璧さ」よりも「突っ込みどころのある不完全さ」だ。不完全さは時に共感を呼ぶ。例えば、コバちゃんの似合いすぎのサラサラヘアではなく、愛嬌のあるイケメン坊主頭のように。
小林誠司という選手は球場でアイドル的な人気を誇る一方で、酒場のオヤジたちのリアルヒーローでもあるのである。
