人類最強と言われるビジネスモデル

人類最強のビジネスモデルは◯◯である: 図1 事業創造フレームワーク 連載第4回、第5回では、事業創造フレームワーク2「準備期の利益方程式」について解説します。 © diamond 図1 事業創造フレームワーク 連載第4回、第5回では、事業創造フレームワーク2「準備期の利益方程式」について解説します。

3年で8つの事業を立ち上げた山口揚平さんによると、利益が出るしくみ(利益方程式)はたった4つのパターンに分けられ、これらのパターンを当てはめるだけで儲かるビジネスモデルができるそうです。また「人類が発明した最強のビジネスモデル」がわたしたちの身近にあると指摘します。それは一体どの業種のことでしょうか。

コンセプトの次は「利益方程式」を考案する

 利益方程式とは、利益が出る「構造」のことである。売上がどの時期にどの程度入り、費用がどの程度かかるのか、そして利益はいつ頃からどの程度得られるのか、といったように、キャッシュの出入りによって表現される。事業創造のためには、この利益方程式を明確につくることが必要である。

 最も著名な経営学者の1人であるピーター・ドラッカーも計画の重要性を説いている。利益方程式は事業の青写真ともいえる。

 まだ始めていない事業の利益方程式をつくることなどできるのか、と思う人もいるかもしれない。利益方程式はあくまで仮説だ。しかし、仮説にすぎないとしても、利益方程式は絶対に考案すべきである。市場調査やユーザーインタビュー、開発費やオペレーションコストの見積もりが必要だ。

 利益方程式には細かい数字は必要ない。大局的な構造をとらえることに意味がある。社内外問わず、コミュニケーションツールとして有益である。具体的には、いつ、どれくらいの収益/損失が出るのか、どの程度のリスクであれば許容できるのかなどについて、社内でコンセンサスを取ることができる。社外で資金調達に役立てることも可能だ。

ベンチャー企業が既存産業に参入するためには

 利益方程式には大きく分けて2つの用途がある。1つ目は「参入条件の検証」である。たとえば、ベンチャー企業が既存産業へ参入しようとするときのことを考えてみよう。こちらが新規参入者である以上、既存企業と同じような費用・満足度で商品・サービスを提供しようとしても勝ち目はない。そこで「同じ満足度で費用を1/2以下にする」か「単価当たりの満足度を2倍以上にする」ような利益方程式をつくらなければならない。

 経済情報のユーザベース社は、企業情報検索サービスを大手のブルームバーグ社の3分の1の価格で提供したため、後発にもかかわらず市場で一定のシェアを獲得することができた。ライフネット生命保険は、インターネットというインフラを活用して、従来の保険の2分の1の値段でサービスを提供している。逆に、プライベートジムのライザップ社は、従来のジムと同程度の費用で2倍以上の満足度を得られるようなサービス設計をしている。

 利益方程式をつくることで、いまから参入する市場で勝てるか否かを検証することができる。社内外問わず重要であることがわかっていただけたと思う。

利益方程式がないと短期的な損益に追われる

 利益方程式は参入条件の検証以外にも重宝する。用途の2つ目は「仕込みと実入りの言語化」だ。企業は「今日は損をするが、明日は利益を取る」という姿勢がときには求められることになる。将棋で言えば「飛車角を落としてでも王を取る」という攻めの姿勢だ。

 このような攻めの投資姿勢を実践するためには、仕込みの時期の苦しさ(飛車角を落とす可能性やダメージの大きさ)を許容できるのか、そして実入りの時期の成果はどの程度か、ということを具体的に考えなければならない。仕込みをへて実入りを迎える場合もあるが、ビジネスによっては仕込みと実入りがほぼ並行して発生する場合もある。

 利益方程式なくしては、将来の実入りを計算に入れることができず、短期的な損益に追われることになる。これではチームは早晩に疲弊してしまうだろう。社外への説明も明確にすることができず、資金調達もままならない。このように、仕込みと実入りのバランスを言語化することこそが、利益方程式の本質である。

 仕込みと実入りのバランスを言語化するためには、事業の構造を理解しなければならない。そのためには、一歩引いて広い視点から構造をとらえよう。具体的には、短期間の損益計算(P/L)だけではなく、顧客が長期間、ひいては生涯にわたって、どのサービスに対してどの程度の対価を支払っていくのか考慮しなければならない。

 また、単一の事業だけでなく、他事業との相乗効果や、他社との連携も視野に入れよう。なぜなら、短期的に損失を計上したとしても、中長期的に売上に貢献する場合もあるし、他事業で主要な顧客になる場合も考えられるからだ。

 顧客に対して生涯にわたって提供するサービスの価値の合計を「顧客生涯価値(Life Time Value: LTV)」と呼ぶ。利益方程式の策定にあたっては、短期的な収支のバランスを取って事業が破綻しないようにしつつ、LTVのような長期的な収支を考える必要がある。

4つのパターンにあてはめるだけで利益方程式がつくれる

 用途を説明したところで、いよいよ利益方程式の作成に入ろう。利益方程式は、利益が生まれる時期と規模をシンプルに示す。実は、利益が生まれるパターンは大きく分けて4つしかない。したがって、これから興す事業が「どの時期に」「どの程度の規模で」「どのパターンに当てはまるか」を特定すれば、利益方程式が作成できたことになる

 一番シンプルなパターンは(1)スポット型である。商品・サービスを1回きりで提供するパターンだ。(2)ストック型は継続的に課金をする。(3)エクイティ型は成果に連動して報酬を受け取る。事業は「スポット」→「ストック」→「エクイティ」の順番で進化させるとよい。

 利益方程式のパターンを変えるだけで、同じサービスでも収益がガラっと変わる。競走馬のエサをつくって販売するビジネスを例にして考えてみよう。提供するエサの価値も商品も変わらないものとする。注文を受けるたびにエサを届けるならば(1)スポット型となる。注文分だけ家畜を育てて出荷する畜産業に近いだろう。あなたがもし起業したばかりであれば、かつての取引先などからご祝儀としてスポットで仕事の依頼が来るかもしれない。しかし、スポット案件だけでは仕事はなかなか安定しない。

 年間契約で一頭あたりいくら、という形でエサを提供し続けるなら収益は安定する。これが(2)ストック型である。電力会社やインターネットサービスプロバイダなどのインフラ企業などがこのパターンだ。ここでさらに、競走馬の成績に応じて報酬としてエサ代を受取るようにすれば、(3)エクイティ型になる。このパターンだと収益は青天井だ。同じ財・サービスを提供するにしても、どのように提供するのかを考えなければならないのである。

 利益方程式のパターンにはもう1つ、(4)乗数型というものがある。勘のよい人は最初からこのパターンで考えるだろう。乗数型では、財・サービスを購入する顧客が多ければ多いほど、さらに多くの顧客が購買する。購買行動が加速するのである。

 たとえばFAXを1人で持っていても意味がない。子どものおもちゃにしかならない。FAXは使う人が増えれば増えるほど、価値が指数関数的に増える。これを「ネットワーク外部性」という。

 それぞれのパターンは当然一長一短がある。乗数型が適応できる場合、成功すれば見返りは大きいが、大きな資金を投下しなければならず、ファイナンスが重要になる。

 また、業界ごとにモデルが決まっているわけではない。メーカーはスポット型が多いように思うかもしれないが、コマツのGPSショベルカーのように購入後のメンテナンスコストで利益を上げるモデルもある。これからは家電やロボットの分野でも一回の売り切りではなく、使っているあいだ課金し続けるというストック型が増えるだろう。

保険は最強の利益方程式

 人類が発明した利益方程式のなかで最強なのが保険である。保険、特に生命保険はストック型(継続課金)である。人々の不安という本能的な心理に根ざしている無形のサービスであり、誰もが顧客になりえる。そして皮肉なことに、保険とは、お金を払っている期間になにも問題が起こらなければ損をした気分になるものだ(実際にはよいことであるにもかかわらず)。

 一度契約した顧客は、これまで払ったお金(「サンクコスト」という)を「もったいない」と感じ、さらに契約を継続してしまい、お金を払い続ける。そして保険会社は顧客からの預かり金を担保にして、みずから金融投資を行い、さらなる利益を上げることができる。

 今後、AIによって保険数理がより正確になり、保険料は下がるかもしれない。しかし、保険契約をするのが人間である以上、保険という事業はなくなることはないだろう。

山口揚平(やまぐち・ようへい)早稲田大学政治経済学部(小野梓奨学生)・東京大学大学院修士。1999年より大手外資系コンサルティング会社でM&Aに従事し、カネボウやダイエーなどの企業再生に携わったあと、独立・起業。企業の実態を可視化するサイト「シェアーズ」を運営し、証券会社や個人投資家に情報を提供する。2010年に同事業を売却したが、のちに再興。クリスピー・クリーム・ドーナツの日本参入、ECプラットフォームの立ち上げ(のちにDeNA社が買収)、宇宙開発事業、電気自動車(EV)事業の創業、投資および資金調達にかかわる。その他、Gift(ギフト:贈与)経済システムの創業・運営、劇団経営、世界遺産都市ホイアンでの8店舗創業(雑貨・レストラン)、海外ビジネス研修プログラム事業、日本漢方茶事業、医療メディア事業、アーティスト支援等、複数の事業、会社を運営するかたわら、執筆、講演活動を行っている。専門は貨幣論、情報化社会論。NHK「ニッポンのジレンマ」論客として出演。テレビ東京「オープニングベル」、TBS「6時のニュース」、日経CNBC放送、財政再建に関する特命委員会2020年以降の経済財政構想小委員会に出演。慶應義塾高校非常勤講師、横浜市立大学、福井県立大学、アカデミーヒルズなどで講師をつとめた。著書に、『なぜか日本人が知らなかった新しい株の本』(ランダムハウス講談社)『デューデリジェンスのプロが教える 企業分析力養成講座』(日本実業出版社)『世界を変える会社の創り方』(ブルー・マーリン・パートナーズ)『そろそろ会社辞めようかなと思っている人に、一人でも食べていける知識をシェアしようじゃないか』(アスキー・メディアワークス)『なぜゴッホは貧乏で、ピカソは金持ちだったのか?』(ダイヤモンド社)『10年後世界が壊れても君が生き残るために今身につけるべきこと』(SBクリエイティブ)などがある。

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