阪神「愚の骨頂」のコーチ配置転換
© 産経新聞 提供 継投策や細かな戦略戦術で、金本知憲監督を支えた矢野燿大一軍作戦兼バッテリーコーチ =東京ドーム(村本聡撮影)
ポスト掛布として矢野燿大一軍作戦兼バッテリーコーチ(49)を二軍監督に配転させる人事は愚の骨頂-という意見が噴出しています。阪神はCSのファーストステージでDeNAに敗退、今季を終えました。金本知憲監督(49)の来季続投は決定済みで、あす23日には来季に向けた新体制を発表します。掛布二軍監督退任後の二軍監督には矢野コーチを配転させる方針ですが、勝負の年となる監督就任3年目の来季、一軍から「矢野」の名前が抜けるデメリットを早くも心配する声が巻き起こっています。
■気心の知れた参謀だからこそ…あの甲子園“泥田”は前兆!? オーナーの考えは
あっけない今季終了でした。14日から始まったCSのファーストステージはDeNAに1勝2敗で敗退。第1戦(14日)をメッセンジャーの好投と福留の2ランで先勝したのに、雨中の“泥田野球”となった第2戦(15日)の打撃戦で打ち負けました。雨天中止を挟んだ17日の第3戦も先発・能見が初回KO。そのまま敗れ去りました。
「本当に悔しい…」。金本監督はまさに地団駄(じだんだ)を踏む思いだったでしょうね。流れが変わったのは雨天でも強行した第2戦だったでしょう。ファイナルステージまでの予備日が1日しかなく、15日に続き16日の予報も悪かったため、試合を管轄したセ・リーグは試合を強行しました。
グラウンドはまさに泥田状態で、一挙に6失点を喫した七回表の守備も一塁線に止まる普通ではあり得ない内野安打がきっかけでした。もし、セ・リーグが強行しようとしても、選手の健康管理などを理由に阪神球団が徹底抗戦していれば、試合は本当に開催にこぎ着けたでしょうか。
「まさにフロントの弱さを露呈した試合強行だったんじゃあないか。阪神球団として本拠地・甲子園球場で開催しているのだから、グラウンド状態の悪化と選手の健康管理、故障の心配などを理由に挙げて、試合開始に抵抗し続ける姿勢が必要だった。たとえ権限を持つセ・リーグだったとしても、開催球場の球団が抵抗すれば、本当に試合開始にこぎつけたか…は大いに疑問だ」というのは阪神OBの言葉です。
確かに泥田のグラウンドで野球を強行すれば球団の財産である選手の健康管理には大いなる危険が発生します。一理ある意見ですね。
しかし、もう勝負は終わったわけです。何を言っても後の祭りです。金本阪神は今季の全日程を終了し、すべての流れは来季に向けられていますね。26日のドラフト会議での戦略やFA補強策、外国人選手補強策など新たな戦力編成が始まります。そして、あす23日に発表される来季に向けた金本阪神の新体制にも注目が集まるでしょう。
今季で就任2年目を終えた金本監督は契約期間を終了しますが、すでにシーズン中に坂井信也オーナーが続投要請。金本監督も受諾しており、このコラムで書いた通りに3年を基本線とする複数年契約が提示される運びです。契約のスパンは流動的な部分もありますが、来季も金本監督が指揮を執ることには変わりはありません。
そして、新スタッフの中で大きな注目点は掛布二軍監督退任後の二軍監督人事です。阪神本社や球団首脳の一部には片岡打撃コーチの配転案もありましたが、最終的には矢野燿大一軍作戦兼バッテリーコーチの二軍監督就任が固まっています。
「オーナーは片岡二軍監督案だったと聞いている。でも、掛布退任後に一軍コーチ昇格案があった今岡コーチもロッテ移籍のために退団した。片岡コーチを二軍監督にすると後任の打撃コーチがいない…となったようだね。最終的には金本監督の意向で矢野二軍監督に収まったようだ」とはチーム関係者の話ですが、この人事には発表される前から早くも不安視する声が流れ始めているのです。あまりにキツイ表現ですが、「愚の骨頂だ…」と。
掛布二軍監督を退任させた理由は金本監督との若手育成の考え方のギャップでした。広島カープのように有無を言わさない徹底した指導を求めた金本監督に対して、掛布二軍監督は選手の自主生を重んじる練習方法を採りました。それが金本監督には歯がゆく映ったようですね。両者の溝は深まり、金本続投と表裏一体のように、掛布二軍監督は退任となったわけですが、当然ながら後任の二軍監督は金本流の若手育成法の推進者でなければ話の辻褄(つじつま)が合いませんね。金本流と違う考え方ならば、掛布退任の意味がなくなるからです。
そこでこの2年間、一軍で共に戦い、気心の知れた矢野コーチを二軍監督に配転…となったのでしょう。矢野コーチとなら一軍と二軍のパイプの詰まりは心配なく、二軍の練習方法から起用法まで金本監督の意向通りに運びそうです。まさに金本監督は一軍と二軍の全権を掌握…といった感じですか。
しかし、球団周辺で不安視する声が巻き起こったのは、矢野コーチが“消える”一軍のベンチワークに対してです。この2シーズン、作戦面とバッテリーコーチとして、投手の継投策や細かな戦略戦術を矢野コーチが担当。金本監督の相談役として試合運びを支えてきました。特に今季は先発投手が不安定で、逆にリリーフ陣の大奮闘があったからこそ78勝をマークしたのです。リリーフの人選や継投のタイミングなど、矢野コーチの頭脳に頼る部分も多かったはずです。それがうまく循環したからこそ昨季の4位から2位に躍進したはずですね。
金本監督は球団側から3年を基本線とする複数年契約を提示されます。来季がダメでも進退問題には結びつかない…という契約プランです。これは阪神球団の危機感の裏返しでもあります。単年契約ならば、来季の成績次第によっては就任3年目の責任論が噴出し、野球どころではなくなる心配があります。それを未然に防ぐ意味も複数年契約の提示に込められているでしょう。
しかし、契約年数がそうであっても、来季の結果をマスコミやファンがこれまでとは違ったスタンスで注視するのは避けられません。若手育成はいいけど、いつまでチーム強化に時間を費やしているのか!? という声は日増しに強くなるはずです。来季、成績が芳しくなければ、監督就任3年目の在任期間がそのまま責任論の大きな理由になるでしょう。時間をかけたけどチーム造りには失敗したではないか…と。
ならば、監督として過ごした2シーズンを支えてくれた矢野コーチと片岡コーチは来季も側に付け、勝負のシーズンに3人で立ち向かっていく方がベストではないのか…という意見が球団周辺に流れているのも仕方ない話です。二軍監督には阪神OBや在野にも候補者はいます。金本-片岡-矢野のトライアングルを崩してまで掛布退任の後始末をする必要が果たしてあるのか? これは意見が分かれるところかもしれませんね。
要は来季、2位以上の成績を残せばますます、金本体制は盤石です。矢野コーチが一軍ベンチから消えたことも杞憂(きゆう)に終わるわけです。さあ、3年目へ。勝負は始まっています。就任3年目は結果を厳しく求められるでしょう。 =続く(毎週日曜に掲載)
植村徹也(うえむら・てつや)
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1990(平成2)年入社。サンケイスポーツ記者として阪神担当一筋。運動部長、局次長、編集局長、サンスポ特別記者、サンスポ代表補佐を経て産経新聞特別記者。阪神・野村克也監督招聘、星野仙一監督招聘を連続スクープ。ラジオ大阪(OBC)の月〜金曜日午後9時からの「」、土曜日午後6時半からの「」に出演中。「サンスポ・コースNAVI!」ではゴルフ場紹介を掲載、デジタルでも好評配信中。