新日鐵、韓国ポスコに劣る懐事情

【新日鐵住金】“禁じ手”の値上げ交渉に着手 ポスコに劣る厳しい懐事情 © diamond 【新日鐵住金】“禁じ手”の値上げ交渉に着手 ポスコに劣る厳しい懐事情

「再生産可能な適正価格、マージンの実現」のため、1トン当たり5000円の値上げ交渉を進める新日鐵住金。そこには、国内製鉄ナンバーワンの同社ですら値上げを懇願せねばならない事情がある。(「週刊ダイヤモンド」編集部 新井美江子)

「このままでは、お望み通りの品質の鉄を、必要なときに、確実に提供し続けることができなくなってしまいます」。今、新日鐵住金の営業担当者が、1トン当たり5000円の値上げをしようと、顧客を必死に説得して回っている。

「再生産可能な適正価格、マージンの実現」──。いわば、自らの事業の存続資金を確保するために、顧客に値上げを要請するという“禁じ手”を繰り出したということだが、同社が「製品価値に見合った価格」を声高に求め始めたのには訳がある。

 何しろ、2016年度は単体で291億円の営業赤字に陥った。連結ではグループ会社の収益によって図(1)の通り黒字を確保したものの、現中期経営計画の発表時に「17年度に10%以上」を表明した経常利益率(ROS)は、わずか3.8%にとどまった(図(2))。

「在庫の評価損益など一過性の要因を差し引いても、韓国ポスコに収益力で負けている」。同社幹部がこう悔やむように、最大のライバルに収益力で差を広げられていることにも危機感を募らせている。

 新日鐵住金とポスコの営業利益・営業利益率を比較すると、13~14年度には新日鐵住金が頭一つ抜けていたというのに、15年度にはすっかり立場が逆転してしまった(図(3))。

 韓国は、日本と比べて税制、電力価格、労務費で優位にある他、鋼材の販売単価も高い。新日鐵住金からすれば、足元で大きなコスト増要因があるのも痛い。同社の国内の製鉄拠点は、高度経済成長期に造られたものが多い。その大規模修繕の費用がかさみ、利益を押し下げているのだ。

 これまで、新日鐵住金は政策保有株などの資産売却でキャッシュを捻出してきたが、それにももはや限界がある。収益力の向上はもちろん、設備投資資金を確保するためにも5000円の値上げは譲れないというわけだ。

 17年度上期のROSは5.6%で着地する見込みだ。通期の見通しは未公表だが、ROS10%の目標達成に黄信号がともっているのは否めない。

マージン低下と油価の暴落で伸び悩む利益率

 新日鐵住金は12年に国際競争力を強化すべく、新日本製鐵と住友金属工業が統合して誕生した。国内首位と同3位の鉄鋼会社が手を結んだだけに、統合効果は絶大だった。製造設備やグループ会社の集約や、購買コストの削減、原料輸送の効率化といったコストダウンなどを着実に進め、16年度には年2000億円という利益の拠出目標を達成している(図(4))。

 2000億円といえば、16年度の売上高4.6兆円を基に計算すると、利益率で4%強の押し上げ効果があったということ。それでも、ROSの目標達成が危うくなっているわけだ。

 目標と現実が乖離している理由は、大きく二つある。

 一つは、鋼材のマージンを思うように確保できなかったからだ。中国の経済成長を追い風とした鉄鋼需要の増加に伴って2000年代前半から拡大するも、リーマンショックごろから縮小傾向に転じたマージン。これが12年を底に回復するとみていたのだが、景気減速による中国の需要減が想定よりも早く顕著になったのだ。

 国内で消費し切れなくなった中国の鋼材は世界に安く流出。鋼材全体の市況が乱され、新日鐵住金のマージンまで削られていった。

 もう一つは、14年から15年にかけて起こった原油価格の急落である。これにエネルギー業界が打撃を受け、13~14年に大きな利益を出していたエネルギー業界向けの鋼材の販売が振るわなくなった。中でも、そこまで高い品質が求められないシェール産業向けなどの鋼材については、さっぱり稼ぎが出なくなっている。

 今年行った日新製鋼の子会社化で、新日鐵住金はさらに年200億円以上の統合効果を見込む。しかし、製鉄業界を取り巻く環境はそれだけで盤石な経営体制を築けると楽観できる状況にはない。

 実際に、今年度は主要原料の値決め方法すら変更することになった。世界の趨勢に合わせ、鉄鉱石に続き原料炭の一部についても市況連動方式に切り替えたのだ。これは、原料価格の引き下げ交渉など、鉄鋼メーカーの自助努力で調達価格を制御できる時代が終わりつつあることを意味している。

 また、高品質の鋼材を必要とし、新日鐵住金がアドバンテージを取りやすい自動車業界では電気自動車化が急速に進む。アルミニウムや樹脂など、軽量素材との素材間競争の激化は避けられない。

 現在、新日鐵住金は来年度から始まる次期中計の策定中だ。トップラインを押し上げる絵姿を描きにくい情勢にある以上、収益力強化のためには生産性向上を目指すしかない。当の新日鐵住金役員が「集約が決まっていない製造拠点の中にも、生産性が高いとはいえないものがある」と打ち明ける。

 さらなる製造拠点の再編を含めた踏み込んだ構造改革が急務だ。

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