カープの快進撃支える「谷間の世代」
© photograph by Hideki Sugiyama 2017年夏の甲子園で準優勝した広陵出身の中田。地元の強豪校から入団した経緯もあり、ファンの声援も大きい。
驚きの登録抹消だった。8月24日の公示。広島は右足首を剥離骨折した鈴木誠也とともに、中田廉の選手登録を抹消した。
ここまで47試合に投げ、防御率は2.57。勝利の方程式にも入る働きを見せていた。特に得点圏に走者を置いた場面で多く起用され、相手に傾きかけた流れをことごとく引き戻してきた。満塁のピンチを無失点で切り抜けたのも、1度や2度ではない。特に7月30日のヤクルト戦は無死満塁からの登板ながら、1点も与えなかった。
今季、広島先発投手の平均投球回は6回にも満たない5.99回。自然と中継ぎ陣にしわ寄せがくる。特に色濃く出るのが、セットアッパーにつなぐ役割を担うポジションだろう。決して目立たないが、縁の下で投手陣を支えてきた。
今季、広島の中心は1989年世代('89年4月から'90年3月)。上位の田中広輔、菊池涼介、丸佳浩だけでなく、安部友裕や野村祐輔と投打の屋台骨を支えている。緒方孝市監督も「今年はタナキクマルの世代のチーム」と認める。
一方で投手陣には先発の大瀬良大地、抑えも務めた今村猛、そして九里亜蓮らの'91年世代がいる。
勝利の方程式を務めると同時に、厳しい局面でも。
2つの大きな世代に挟まれた中田、そして一岡竜司という'90年世代は、広島の中では“谷間の世代”である。シーズンでも華やかなスポットライトを浴びる世代に隠れながらも、谷間の世代が下支えしてきた。そして、そこで彼らはそれぞれの存在価値を示すように右腕を振っている。
中田は勝利の方程式の一角に入りながらも、先発が招いたピンチの場面で登板する役割も担ってきた。一岡もリードした6回や7回だけでなく、僅差で追う展開でもマウンドに上がった。昨季同じようなポジションを任され、今季は抑えも務めた今村でさえ「7回が一番しんどいと思う」と言う役割を2人が担ってきた。
意図して「力みながら投げる」練習に取り組んだ。
一岡の登板数は8月24日時点で、中田とほぼ同じ46試合。そこにブルペンで肩をつくり、気持ちを高めた回数は含まれない。抑えやセットアッパーとは違い、登板場面を予測して準備する難しさがある。貢献度や献身度、心身のダメージは登板試合数やイニング数、球数では測れないものがある。だからこそ、燃えるものもあった。中田はこう言っていた。
「毎年こういう投手はいる。昨季は(今村)猛が頑張っていた。今年は僕がやらせてもらっているけど、目指すところは勝ちパターンの7、8、9回で投げたい。でもそこで結果を残さないとそこでは使ってもらえない。まずはしっかり、この役割を全うしたい」
春季キャンプからブルペン投球では、ただ投げ込むのではなく、無死満塁などのピンチの場面を想定し、意図して「力みながら投げる」練習に取り組んできた。マウンドでは闘争本能をみなぎらせながらも冷静さを保つように努めた。
「気持ちばかりが先行してもいけない。落ち着いて投げないと。最低限のことだけ。一番やってはいけないことから消して考えながら投げている」
緊迫した空気にのまれないようプレートから離れたり、ロジンバッグを握ったりと「自分のペースに持ち込んでいく」ことを心掛けてきた。
そして酷な役回りもチームのため、自分のために受け入れ、身を粉にしてきた。
「僕とイチがしっかりしていけば、ザキと猛につないで勝ちにつながる重要な役割だと思っている。イチもそう思っていると思う。今年はそこを全うしたい」
投球の途中まで「0」、リリース時に「100」の投法。
熱い中田とは対照的に、一岡は谷間の世代を笑顔で受け入れている。
「中途半端ですよね。でも、取り上げられない程度が一番いいんです。こっそり1年間終わるのがベストです」
こう笑い流すが、一岡もまたポジション争いとともに、シーズンを投げきるための自己改革を行っていた。
5月31日の西武戦に登板し、1回を無失点に抑えるも、2四球を与えた。制球の乱れとともに、無駄な力みを感じていた。足の上げ方とともに投球の発想を大胆に変えた。
「全力で投げない」
球速は140キロ後半を計測しており、当然手を抜いているわけじゃない。それでも「キャッチボールの延長で投げている感覚」と言う。投球動作の途中までは「0」の力をリリース時に「100」にする脱力投法。
「これまでは脱力しようと思ったら球速も1、2キロ落ちていたんですけど、今はそれがない。指のかかりも今の方がいい。足場が合わないこともなくなった。連投しても疲れにくくなった」
踏ん張ってきた中継ぎ陣に、最後の気力を。
周囲の反応と同じように、本人も「不思議な感じ」と笑う。
スポットライトが当たらないポジションで必死に戦い、好調のチームを支えてきた。
名脇役がいなければ、主役は輝かない。目に見えるものは、目に見えないものに支えられているのは、どこの世界も同じだ。
8月下旬、優勝へ突き進んでいた広島の勢いが弱まった。踏ん張ってきた中継ぎ陣が悲鳴を上げるように、失点を重ねた。24日までのDeNA3連戦は屈辱的な3戦連続サヨナラ負けを喫した。
ペナントレースは100試合を越え、体力以上に気力が大事になる時期に入った。
「しっかり調整して、また上がってきます」
降格を告げられた中田は前を向いた。8合目から頂点まで最後の力を振り絞る戦いに、気力はまだ十分に残っている。
