「ゾンビ映画の父」ロメロ監督追悼
【聖林裏表】
死者がよみがえって、人間を襲う「ゾンビ映画」というジャンルを確立したジョージ・ロメロ監督が16日、肺がんのため、カナダ・トロントの病院で死去した。77歳だった。
米芸能誌バラエティーによると、家族に見守られながら、好きな映画の一つである「静かなる男」(1952年)のサントラを聞きながら、逝った。
ゾンビといえば、米国の子供なら誰でも知っている恐怖の“バケモノ”だが、ロメロ氏はその原型を考案したので、「ゾンビ映画の父」とも呼ばれる。
最初に注目されたのは「ナイト・オブ・ザ・リビング・デッド」(68年)。ロメロ氏は、同作で「ゾンビ」という表現は使わなかったが、「死体が生き返り、人を食べるという描写を映画でしたのは、これが初めてだった」(英BBCニュース)という。同作に「ゾンビ」(79年)と「死霊のえじき」(85年)を加えて、「ゾンビ映画3部作」といわれる。
第1作目の「ナイト・オブ・ザ--」が注目されたのは、ホラー映画としてだけではなかった。主人公を演じたのは黒人俳優、デュアン・ジョーンズ(故人)。人種差別が問題となっていた時代。主役に黒人を起用したのはかなり大胆な発想だった。
ゾンビに囲まれた民家の中で、ジョーンズ演じる「ベン」は冷静に対応する。窓やドアからのゾンビの侵入を防ごうと奔走するのだった。一緒に民家にいた白人男性「ハリー」はベンに仕切られることにいらだちを覚え、反発する。人種間の軋轢を感じる観客は少なくなかっただろう。
クライマックスでは、あまたいるゾンビに対し、白人警官が躊躇せずに発砲を続ける。その弾はベンにも当たり、命を失う。
この作品が公開されたのは68年10月だったが、この年の6月には、公民権運動の指導者、マーティン・ルーサー・キング・ジュニア牧師が白人の男に射殺される事件があった。ロメロ氏はニューヨークに作品を売りに行った帰りの車中で、ラジオのニュースで暗殺事件を知ったという。
こうした背景もあって、ロメロ氏は、人種差別を批判した作品と受け取られたと2013年の英紙デーリー・テレグラフ(電子版)の取材に語っている。
ところが、実際は「脚本段階では主役は白人の設定だったが、デュアンが私たちの周りにいるもっとも優秀な俳優だったので起用した」といい、特別な意図はなかったようだ。
昨今のハリウッドでは、「真っ白いオスカー」といった言葉に象徴されるように白人が優遇されているのだという。米国社会では白人警官が黒人を射殺する事件も相次ぐ。監督が予期せぬとも、50年近くも映画がそう見えてきたのは、時代は変われど、いまだに同じ社会問題がはびこっているということか。(産経新聞ロサンゼルス支局長・中村将)
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