心にグッときた 錦織が得た大きな1勝
テニスの4大大会の一つウィンブルドンは現地7月5日に大会3日目を迎え、第9シードの錦織圭はセルジー・スタホフスキー(ウクライナ)を6-4、6-7、6-1、7-6で下して勝利。3回戦進出を決めた。
スタホフスキーは、錦織圭が過去2回対戦し、2度敗れていた選手だった。もっとも、対戦したのはいずれも6年前のこと。特に初対戦の全仏オープン時には、スタホフスキーの方がランキングでも実績でも上位に相当する選手だった。それでも後に錦織は、この試合に挑んだ際の心境を「絶対に勝てる相手だと思っていた」と振り返った。
錦織が、過去の対戦経験や勝敗に無頓着なのは、ファンの間では良く知られた事実だろう。試合内容どころか対戦した事実すら覚えておらず、会見の席で「僕、彼と対戦したことあるんですか?」と報道陣に逆質問することも珍しくない。そんな彼がかつて、スタホフスキーとの初対戦を「よく覚えています」と振り返ったことがある。
「彼のプレースタイルに対応できなくて。ちょっとこう……こういう相手に勝てないんだと、心にグッときたことを覚えています。スライス、スライスで攻められて、そういう相手に、ほぼ何もできずに負けてしまって……」
若い頃の錦織は、スライスで攻められることが「嫌だった」と認めている。だからこそ対処策を模索し、ツアーで経験を重ねるうちに、それも克服できたとの自信を深めていた。しかし当時21歳の錦織は、スタホフスキーの鋭いスライスにリズムを崩される。この敗戦が彼の心に「グッときた」のは、そのような理由からだった。
それから、6年―。ウィンブルドンの2回戦で、両者は3度目の対戦を迎える。錦織は大会第9シードで、スタホフスキーは予選あがりの122位。両者の立場は入れ替わったが、サーブ&ボレーとスライスが最も生きる芝のコートは、スタホフスキーのホームである。
果たして試合の立ち上がり、錦織は、スライスに苦しめられた。低く弾むボールにタイミングが合わず、バックでのミスが目立つ。特に試合コートの芝は練習コートのそれに比べると長く、バウンドが異なることも苦戦の要因。
それでも第1セットは少ないチャンスを生かして取るが、第2セットはタイブレークの末に奪われる。
「2セット目は取れるチャンスもあったので、落としたのは多少ショックではありました」
後に、錦織が振り返った。
試合の流れを掌握するうえでも、両者にとって大きな意味を持つであろう第3セット。この勝負のセットで、錦織はリターンから活路を見いだした。
「意識してリターンをネット際に沈めたり、ちょっと後ろに下がってみたり。なるべく、いろんなことをしました」
リターンで機先を制しストローク戦を支配した錦織は、第3セットを6-1で奪う。そしてこのリードが、心理的な余裕を生みもしただろう。第4セットではスタホフスキーが再びサーブの調子を上げてきたが、錦織は「自分のサービスゲームのキープを心がけた」と言う。もつれこんだタイブレークでは、相手のダブルフォルトで得た機を逃さず、最後はサービスウイナーで勝利をつかんだ。
予選上がりの選手に3時間15分を要した一戦は、結果だけを見れば、苦戦と映るかもしれない。しかし、かつて苦手とした芝巧者から得た勝利は、数字だけでは測れない意味を持つ。
「芝でうまい選手なので、簡単な試合にはならない。この勝利は自信になる」
その自信を足掛かりに、さらなる勝利と自信をつかみにいく。(文・内田暁)
