練習から別次元 レアルに受けた衝撃
© photograph by Toshiya Fujita カーディフでの決戦はもちろんだが、試合までにレアル・マドリーが歩んだプロセスがさらに興味深かったのだという。
ジダンとC・ロナウド。
レアル・マドリーを象徴する2人が、欧州最高の舞台で強烈な存在感を示していた。
ウェールズ・カーディフでのUEFAチャンピオンズリーグ(CL)決勝は世界最高峰の戦いにふさわしい好ゲームだった。
結果は皆さんもご存じの通り、4-1でレアル・マドリーがユベントスを破り、CL史上初となる連覇を達成した。
最終的にはレアルの強さ、試合巧者ぶりが際立つ一戦となったが、それもユベントスが守備的な戦い方に固執することなく、攻守にバランスのとれたチームで、正面から王者レアルに挑んだからだ。
「カテナチオ」と呼ばれる典型的なイタリアフットボールをするだけでなく、パスを繋ぎ、ゲームを組み立てるフットボールに移行させ、チーム力を高めた。
国内リーグ6連覇という偉業を成し遂げ、CLでの戦いぶりも価値のあるものだったが、決勝戦は一発勝負になるだけに難しい。特に守備力の高いユベントスはホーム&アウェーでより力を発揮できるチームだけに、厳しい戦いとなってしまった。
最大の収穫は、試合までのプロセスを見て取れたこと。
今回の1番の収穫は、試合前日より現地入りし、両チームの試合までのプロセスをピッチレベルで感じられたことだ。驚いたのは、トレーニングスタイルに違いがはっきり見て取れたことだ。
終始リラックスした中でトレーニングし、試合に向け調整したユベントス。張りつめた緊張感のなか、試合同様のテンションで行ったレアル。
どちらも前日トレーニングは約60分だったが、そこには大きな違いがあった。
試合前のシュート練習、パス出し役はジダン。
一般的なスタイルなのはユベントスの監督アッレグリのスタイルだろう。僕が所属しているVVVフェンロでも、試合前日トレーニングは同じように臨んでいる。
一方でレアルのトレーニングは、それとはあまりに対照的なものだったので、見ていて引き込まれた。
監督であるジダンは、終始緊張感のある、テンションも高いトレーニングを見せてくれた。極めつけは最後に行なっていたポストシュート。自らパサー役になり、しなやかなプレーで選手にパスを送り続けた。
メンバーのプレーフィーリングもつかめるし、選手とのコミュニケーションの場にもなる。「これは良いな!」と感じた。監督の華麗なプレーを楽しみながら、それをも上回る質の高いプレーをしようと、選手達も意欲的に取り組めていた。
メディアでは戦前、「攻撃力のレアルvs.鉄壁の守備のユベントスとなるだろうから、スコアも僅差の戦いになる」と報道されていた。そんな僕らの予想を1人の選手が一変させてしまう。
それが今大会の得点王、ロナウドだった。
ロナウドの2点目で、スタジアム内の時間が止まった。
彼の一連のアクションから放たれた一撃はこの試合の流れを大きく変え、勝敗を決定づけた。スタートダッシュに成功したはずのユベントスは、ロナウドの一撃により完全に出鼻を挫かれてしまった。
すぐに反撃に転じ、マンジュキッチの鮮やかなシュートで同点に追いついたユベントスも流石だった。それでもユベントスは大会MVPを獲得したロナウドに最後まで苦しめられた。この試合でのモドリッチ、クロース、イスコやマルセロなどの活躍も素晴らしかったが、それでも“主役”はロナウドだった。
ユベントスが築き上げてきた自信は、彼の研ぎすまされた決定力に打ち砕かれてしまった。特にレアルが3-1としたロナウドの2点目が決まった瞬間は、スタジアムが静まり返った。信じがたいが、スタジアム内の時間が止まってしまったかのようだった。
異次元でプレーしているかのような彼も、前半15分まではゲームに関与できていなかった。しかし、たったワンプレーで得点に繋げてみせた。さらに後半には前述した通り、試合を決定づけるゴールも決めた。
ユベントスの選手、サポーターの心を打ち砕ける男。
そういった意味で、CL連覇の立役者の「ゼロの状態から結果に繋げてしまう一連のアクション」には感動させられた。“エース”の意味を、こんなにもはっきり示せる彼の決定力は圧巻としか言いようがない。ユベントスはピッチに立つイレブンの戦意どころか、サポーターも心を完全に打ち砕かれてしまい、静まることしかできず、その後はスタジアムを離れるしかなかった。
この試合のロナウド――。
彼のここ一番での集中力と得点力は、相手に「止められない……」と感じさせてしまうほどに強力だった。
特に準決勝からは10ゴールを奪う活躍、今大会で13試合に出場し12ゴールを奪った得点力は文句のつけようがなく、彼以外に今大会のMVPを探すことは難しい。
日々の練習でも「今、この瞬間が勝負なんだ」。
それを考えたとき、再び前日練習での彼の姿が頭に浮かんできた。
チームリーダーとしてピリピリしたトレーニングの先頭を切って取り組んでいたこと。試合に近い強度で行われたシュートゲームでは、自分の明日のプレーをシミュレーションして、何度も繰り返していた。
チームメイトとの距離感やコンビネーションを確認し続ける。そしてシュートから逆算された全ての動き方は、ストライカーを養成するにあたり、勉強になった。レアルが全体的に集中力の高いトレーニングだった中でも、シュートも積極的にトライするロナウドは別格だとピッチサイドで見て感じた。
彼のトレーニングに取り組む姿勢は、日本でプレーしている全ての選手達のお手本といえる。
「今、この瞬間が勝負なんだ」
ロナウドには強烈な想いを感じた。世界のトップであり続けられる彼の一端に触れることができたことは大きな収穫だった。特定の選手からこんな感覚を受けたことは今までなかっただけに、驚きは隠せなかった。彼こそが、ストイック――よく使われるフレーズだが、ストイックの基準というものを考えさせてくれた。
サッカーにおいて「ボールを蹴る」技術は全ての基本。
他にも世界最高峰であるCL決勝を戦う選手達のトレーニングから、あらためて気づかされたことがたくさんあった。
つい忘れがちになるが、サッカーにおいて「ボールを蹴る」技術は全ての基本になる。「ファーストコントロールでのボールの置き所」、「走りのフォームやスプリント力とそのタイミング」。このようなポイントを整理し精度を高めること。
それらをチーム戦術にどう繋げていくのか。そんなことを自問自答しながらガーディフを後にした。あの日から今日に至るまで、頭の中はフットボールのことばかりだが、CLから感じたものは大きい。
日本に一時帰国している今はJリーグをはじめ、日本のサッカーをたくさん見ている。
いつの日かクラブワールドカップ決勝で、Jリーグクラブがカップを掲げられるようになるには、そこから逆算して「今できることの全てに全力でトライする」必要がある。
CL決勝、そしてロナウドからは、そんな強烈なメッセージを受けた。
