2冠サニブラウン「急成長」のワケ

 世界選手権(8月=ロンドン)代表選考会を兼ねた陸上・日本選手権の最終日(25日=大阪市のヤンマースタジアム長居)。男子200メートルでサニブラウン・ハキーム(18)=東京陸協=が自己ベストの20秒32で初優勝し、14年ぶりに100メートルとの2冠を達成。ダークホース的存在から急成長を遂げ日本陸上短距離のエースに躍り出た。世界選手権の100メートルで日本人初の9秒台をマークするのは“必至”との声が上がった。

 自己ベストを一気に縮め、並みいる強豪を撃破した100メートルに続き、200メートルでも自己ベストで優勝。2003年の末続慎吾以来の2冠というおまけもついた。

 「この2日間の疲労がすごくたまっていて、レース前は自分でもどうなるのかなと不安だったけど、前半のうちにスピードに乗れて、後半もいい具合に運べた。結果としてもぼちぼち調子が上がってきているのでよかった。もうちょっと疲労がなかったら、もっといいタイムがでるのかなと思うレースだった」と言うのだから恐れ入る。

 200メートルの19秒台についても「そのうちトップレベルの選手と走れば、引っ張られて出るのかな」ととにかく自信に満ちあふれている。

 東京都出身。ガーナ人の父と日本人の母を持つ。100メートル走、110メートルハードルでインターハイ出場経験のある母の影響で、小学3年で陸上を始め、東京・城西高を卒業したばかり。牛乳は「体質的に受け付けない」が、187センチ、72キロ、靴は30センチという堂々の体格に育った。

 急成長の鍵は何か。今春、単身渡ったオランダでの新しい環境と本格的なトレーニングが要因であったのは間違いない。オランダ代表コーチを務める米国人の指導を受け、2012年ロンドン大会から五輪を連覇している男子三段跳びのクリスチャン・テーラー(27)=米国=らから、アスリートとしての見聞を広めている。

 朝食は自炊。栄養管理を自ら行い、たくましさは増すばかり。高校時代のトレーニングとは一線を画した本格的な練習で、筋力アップにも取り組んでいる。

 「やはり(日本とは練習の)質が違うのかな。そこで学んだことは大きいと思う」と認める。日常会話に支障をきたすことのない英語力もあることから、海外での生活にも問題はない。

 緊張とは無縁の性格も成長を加速させている。今大会の100メートルでは、10秒0台のタイムを持つ選手が自分以外に4人そろっていたが、「ものすごく楽しみで、ワクワクしている気持ちがたまらなかった」。

 オランダから今大会に向けて帰国したのは19日で、「(時差ボケがあって)朝は6時に目が覚めてしまう」と話していたが、結果は最高。5月21日の「セイコーゴールデングランプリ川崎」を迎えるまで、100メートルの世界選手権参加標準記録(10秒12)を知らないほどだったが、今大会前まで10秒18だった自己ベストを10秒05まで縮める快走で衝撃を与えた。

 10秒00の日本記録を持つ日本陸連の伊東浩司強化委員長(47)はこう指摘する。

 「ハキーム君が強いという一言に尽きる。ケタが違う。一気に9秒台に駆け込んでほしい。100メートル決勝の日に雨が降っていなければ…。コーチングのスケジュールは世界選手権に合わせているので、記録はさらに伸びると思う」

 既に9秒台の力はあり、8月のロンドンで達成する可能性が高いというわけだ。

 課題があるとすれば、スタートだという。オランダでのトレーニングで最も成長したのはそのスタートと筋力。サニブラウンは「いつもはのそのそ行ってロスがあったので、3歩目までを速くさばいていくイメージ」に変えた。加速時に上体が浮かないように意識し、うまくスピードを上乗せできるようになったが、それでも世界のトップレベルと比較するとまだ洗練する余地がある。

サニブラウン“急成長”のウラ 14年ぶり2冠達成、“先輩”差し置き9秒台突入一番手か: 前日の100メートルに続き、200メートル決勝も制したサニブラウン(右) © zakzak 提供 前日の100メートルに続き、200メートル決勝も制したサニブラウン(右)

 一方、中盤からの加速は圧倒的。伊東強化委員長は「(後半追い込み型の)カール・ルイスやウサイン・ボルトのように焦らず、60、70メートルまで我慢し、メンタルを安定させて走れるのはすごい強みだ。最後は大きなストライドで勝負できる」。腕の振りや上体の安定感などの見直しでも、まだ記録が伸ばせるという。

 「9秒台は、出るときは出ると思う。それが誰になるか分からないけど、自分が第一歩になれたらうれしい。すごく気持ちいいんだろうな」とサニブラウン。

 ケンブリッジ飛鳥(ナイキ)、桐生祥秀(東洋大)、多田修平(関学大)、山県亮太(セイコーホールディングス)というライバルたちとの争いも激化するが、サニブラウンが頭1つ飛び出たことは間違いない。

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