日銀総裁人事、今後の金融政策の鍵に
2018年の日銀の金融政策は、4月に任期満了を迎える黒田東彦総裁の後任人事が大きなカギを握る。安倍晋三首相は黒田総裁について「手腕を信頼している」と一貫して評価し、市場でも再任が有力視されている。続投なら2%の物価目標実現に向け、現在の金融緩和策が維持される公算が大きい。ただ、低金利の長期化に伴う副作用も目立っており、金融政策の正常化をめぐり議論が活発化する可能性もある。
第2次安倍政権誕生から丸5年を迎えた17年12月26日。首相と黒田総裁は経団連の会合で顔をそろえた。首相は「長年の懸案であるデフレ脱却を実現するためにも、18年は経済の好循環をさらに力強くしなくてはならない」と強調。黒田総裁は「2%の物価目標実現までまだ距離がある」と指摘し、「引き続き強力な金融緩和を粘り強く進めていく」と表明した。
黒田総裁は13年の就任後、毎年追加策を打ち出してきたが、17年は年間を通じて初めて緩和強化に踏み切らなかった。ある日銀幹部は「景気の足取りは順調だ。今のところ追加策が必要な状況ではない」と話す。
しかし、黒田総裁の政策運営は成果を挙げていないとの批判もある。次期総裁候補の一人で首相の経済ブレーンの本田悦朗駐スイス大使は、デフレを克服できていない現体制は刷新すべきだなどと主張。日銀内でも、政策委員の一部が追加緩和の必要性を訴え、昨年9月から現状維持に反対票を投じ続けている。
一方で、大規模緩和の長期化に懸念も広がる。地方銀行などは低金利で利ざやが縮小し、収益悪化が鮮明だ。黒田総裁は17年11月の講演で、金利低下が行き過ぎると緩和効果が弱まる「リバーサル・レート」論に言及するなど、副作用の増幅を警戒し始めた。
日銀はデフレ克服を最優先課題とし、当面は現在の緩和を続ける可能性が高い。だが、市場からは「日銀は副作用の軽減も議論していくべきだ」(ニッセイ基礎研究所の上野剛志シニアエコノミスト)との意見が出ている。
◇新日銀法下の総裁
就任年月 総裁名 主な経歴
1998年3月 速水優(故人) 日銀理事、日商岩井(現双日)社長
2003年3月 福井俊彦 日銀副総裁、富士通総研理事長
08年4月 白川方明 日銀副総裁、京大大学院教授
13年3月 黒田東彦 財務官、アジア開発銀行総裁
(注)福井氏退任後、一時空席。白川氏は13年3月途中退任。