ワルシャワ 人気1位になったうどん屋

日本のうどん屋がワルシャワで人気レストラン1位になった理由: 店名の「Uki Uki」は人気テレビ番組だった「笑っていいとも!」のテーマ曲が由来。開店準備を進めているときに番組終了を知ったのがきっかけ © diamond 店名の「Uki Uki」は人気テレビ番組だった「笑っていいとも!」のテーマ曲が由来。開店準備を進めているときに番組終了を知ったのがきっかけ

2018年に開催されるワールドカップで、日本と同組になったことでも注目度がアップしている国・ポーランド。その首都ワルシャワのレストラン人気ランキングでトップに君臨するのは、日本人が経営するうどん屋だ。2013年に「和食」がユネスコの無形文化財に登録されて以来、日本食ブームが加速。世界各地で日本食がブームになっているという。かといって、すべての店が人気店になれるわけではない。その成功の秘訣を探ってみた。(ライター ミハシヤ)

ワルシャワNo1.の人気レストランは日本人経営のうどん屋!

 レストラン検索サイト「Zomato」(日本の「食べログ」のようなもの)ワルシャワ版で、「人気の高い順」で検索をかけると、トップに表示されるのは「Uki Uki(ウキウキ)」。2015年に開店した日本人経営のうどん屋である。

 ポイントは4.9でトップタイだが、口コミの数が多いので最初に表示される。ちなみに、「日本食」「アジア料理」などの条件は入力していないので、すべてのカテゴリーの中でトップということになる。つまり「Uki Uki」は、ワルシャワで今、最も人気のレストランといっても過言ではない。

 レビューを見ると、下記のような賛辞のコメントが並ぶ。

「何度かチャレンジしてようやく入れた!お昼時や週末に席が空いていたらすごくラッキーだと思う。お店に入ると料理のおいしそうな香りにうっとり。店内で作られた麺もスープも完璧です!(エラ)」

「本物のUDONが食べられる店。ボリュームもあるし、野菜やエビの天ぷらもすごくおいしいです。お値段は高めだけど、質と量を考えたら納得!サービスも行き届いているしおススメ!(ヴェロニカ)」

「サービスもいいし、お店の雰囲気もユニーク。うどんを注文したけどすごくおいしかった。次回はラーメンや天ぷらを食べてみたい(ミハウ)」

「Uki Ukiの常連です。ここはワルシャワでも最高のレストランの一つだと思う(スティーブン)」

 読者のみなさんは「ワルシャワで一番!」というのがどのくらいすごいのか、それほどでもないのか、ちょっとピンとこないだろう。そこで他都市と比較してみた。

 ワルシャワの人口は約172万人。オーストリアの首都・ウィーンの人口が約180万人でかなり近い。日本の都市と比べてみると、福岡市の人口が約154万人なのでそれより20万人ほど多い。ワルシャワはソコソコ大きな街なのである。

「ウィーンで一番人気」「福岡一の人気店!」――。

 というと、なんだかすごい気がするのに比べ、「ワルシャワで一番!」というのは若干地味な印象がぬぐえないものの、アウェイの海外でこれだけの人気を集めるのは簡単なことではない。

行列のできる日本食レストランでも日本人の姿はなし!

 ワルシャワの中心地にある「Uki Uki」に足を運んでみると、お水やおしぼりのサービスがあったり、内装も含め明らかに日本を意識している。しかし意外にも、日本人がいない!

 海外の日本食レストランというと、店員さんは日本人で、客として来店するのも日本人がメイン。店内には日本語が飛び交っている、というようなイメージがあるのではないだろうか。

 しかし筆者が足を運んだ2回とも、「Uki Uki」の満席の店内に日本人客の姿はなかった。接客にあたるスタッフも日本人はオーナーの松木平さんだけ。Facebookの投稿やホームページもほとんどポーランド語オンリーである。

 実は「Uki Uki」は、明確にターゲットをポーランド人に絞り込んでいるのだ。日本人客もたまには来るが、顧客のメインは圧倒的にポーランド人。この点について松木さんは次のように語る。

「日本の職人さんや日本人スタッフで固め、日本流のオペレーションで運営するとなれば値段が今の3~4倍くらいになってしまいます。ロンドンやパリのように可処分所得の高い駐在員などが多い地域ならビジネスになるでしょうが、ワルシャワでは無理。そこでポーランドの中間所得層を狙ったビジネス設計にしたんです」(松木さん)

 ロンドンやパリのように日本人駐在員の絶対数が多いエリアとは、経営スタンスは根本的に異なる。そうでないとビジネスとして成り立たないという。

 松木さんが狙いを定めたのが、バリバリ稼いで消費意欲も旺盛な中間所得層のポーランド人。これならばパイとしては十分な数が見込める。当初はすし屋を考えていたが、既に市内にすし屋は数えきれないほどある。すしはもう飽和状態ということでうどんに着目した。

苦肉の策で始めたラーメンデーが大当たり

 お昼や夜の食事時間帯に行けば、並ばずに座れることはまずない「Uki Uki」。開店当初から好調ではあったが、人気に火をつけたきっかけとなったのは、なんと「ラーメンデー」。

「うどん屋としてスタートしたんですが、以前から研究をしていたラーメンも提供できる水準になったので、これもお店で出してみることに。ただ、オペレーションの問題でラーメンとうどんを同時に出すことは難しかったため、月に1回、ラーメンだけを出す『ラーメンデー』というのを始めたんです。わずか2年前のことですが、当時は店内製麺でスープも骨からとるような本格的なラーメンを出す店は他になく、大評判になりました」

 まずはラーメンデーで「Uki Uki」を知った人が、うどんも食べに来てくれるようになった。 

 その後、キッチンを改装し、うどんとラーメンを同時に提供できる体制にしたため、現在は毎日、うどんもラーメンも食べることができる。

ポーランド人とうまくやっていくには彼らに合わせる姿勢が重要

 松木さんは成功の秘訣を「現地の人とうまくやること」だと語る。自分の考えや企業理念をきちんと伝えてシェアしていかないと現場はうまく回らない。日本料理店だからといって日本流を無理やり導入しようとしてもダメだという。

「ポーランドと日本では仕事に対する考え方が全く違いますし、こっちの人は子どものころから『自分はこう考えるから、こう行動する』というようにロジカルな言動をする習慣が身についています。日本のような上意下達というのは通用しません。日本人とは思考回路が違うので、そこはちゃんと理解しておくべき」

 では、そんなポーランド人とうまくやるコツはなにかというと、基本的には彼らに合わせること。そのために辛抱強く彼らの話を聞くことが大切だという。簡単そうで難しいことだ。

「日本の職人さんとかだと、キレちゃう人もいるんですよね。日本のやり方をポーランド人に押し付けようとして失敗する人はたくさん見てきました」

 ある程度の職人にはなれても、ある程度の経営者になるのは難しい。最終的には“人間力”がモノを言う。特に海外ではコミュニケーション能力が重要になると語る。

ポーランドでは日本のイメージはすこぶる良好

 初めてポーランドにやってきたのは10年以上前。紆余曲折はあったもののワルシャワ一の人気店を育て上げるまでに至った松木さん。

「この国ならなんとかやれる、結果を出せるという自信が何となくあったんですよね。ポーランドって日本ではそこまで知られていない。情報が少ない、ということは自分が情報を握れば勝てる。まだ開拓の余地があるというのは大きな魅力です」

 また、ポーランドは保守的ではなく、イノベーティブなことに対してきちんと評価してくれる国。外国製品は優れているというイメージを子どものころから植え付けられていることもあり、“海外から来た”ものへの信頼感も高い。中でも日本に対するイメージは非常によい。

「日本人ならではの視点でビジネスをとらえ、かつ日本流を押し付けず、適正な価格設定なら、飲食店に限らずどんな分野でも成功する可能性は非常に高いと思いますね」

 今後はセントラルキッチンスタイルにして、小規模な店をワルシャワで3~4店舗展開することを構想中。それが実現したらバルト三国やチェコ、ハンガリーなどへの進出にも意欲を見せる松木さん。

「メジャーな会社は敬遠しそうなエリアで勝負することを考えています」

Category: ,