本命なきカーオブザイヤーの選考事情

日産・スバル辞退で「本命なきカーオブザイヤー」の選考事情: Photo:SUZUKI © diamond Photo:SUZUKI

日産、スバルが辞退する中スズキの「スイフト」に栄冠

 RJC(自動車研究者ジャーナリスト会議)は、11月14日に栃木の「ツインリンクもてぎ」で第27回(2018年次)カーオブザイヤーの最終選考会を開き、公開開票によってスズキの「スイフト・シリーズ」を選んだ。

 2016年11月~2017年10月に発表・発売された年間のカーオブザイヤーを決める今回の選考だが、ノミネート直前で日産の工場完成検査員の無資格問題が起きたことで日産が辞退し、続いてノミネートされていたスバルが同様の検査問題で辞退する事態となった。有力候補のメーカー2社が辞退という異例な状況下でのカーオブザイヤー選定となったのである。

 特に「新型リーフ」を発表した日産の電気自動車(EV)は、初代から大きく進化を遂げた、この2代目のEVリーフで密かにカーオブザイヤーを狙っていた。それだけに社内のショックは大きかったようだ。それも無資格問題による西川廣人社長の謝罪会見の日(10月2日)が新型リーフの発売開始日という皮肉な事態でもあった。

 受賞が有望視されていた新型EVリーフが選考対象から外れたことで、一部には「本命なきカーオブザイヤー」との声も上がったのである。

 それはともあれ、スズキのスイフトが「2018年次RJCカーオブザイヤー」の最終選考では、他を大きく引き離して票を集めて受賞する結果となった。

「本場の欧州車に負けないものを」という気概「世界戦略車」としての位置づけを評価

 スイフトは、スズキにとって「軽自動車のスズキ」からコンパクトカーで日本市場のみならず「本場のヨーロッパ車に負けないものを…」との気概で開発してきたクルマである。

 2016年12月に発表・発売した「スイフト」と、2017年9月に発表し国内発売した「スイフトスポーツ」が、スイフト・シリーズとしてスズキの「世界戦略車」の位置づけを一層高めたことが評価されたといえよう。

 今回で4代目となるスイフトは、「スイフト・イノベーション」を開発テーマに、コンパクトカークラスでの「運転の楽しさ」と「スポーティー」を追求した。

 1.2L改良エンジンに、マイルドハイブリッドとハイブリッドという2つのHVの組み合せタイプのほか、1.0L直噴ターボエンジンのタイプも品揃えした。さらに走行性能を重視したスイフトスポーツは、3ナンバーサイズの低重心化に新開発1.4Lエンジンを搭載して、バリエーション豊かなスズキコンパクトカーの集大成ともなったのだ。

 筆者は、選考委員の1人として最終選考会に臨んだのだが、スイフトの受賞を評価している。

 折しも、自動車メーカー各社の中間決算が発表され今期予測も出揃う中でスズキは世界販売台数が過去最高を更新、今期の純利益は従来の減益予想から一転して13%増の1800億円を見込んでいる。鈴木修会長の"ワンマン経営"から鈴木俊宏社長への世代交代も、まず、クルマの開発から進めてきているとも見える。

輸入車部門はボルボのV90/V90クロスカントリー

 一方、輸入車部門の「2018RJCカーオブザイヤー・インポート」を受賞したのはボルボのV90/V90クロスカントリーだ。

 国産車の部門が日産、スバルの辞退でやや盛り上がりに欠ける中、こちらは選考対象となったクルマが多く、最終選考のノミネートを絞るのも大変だった。

 結果的に最終ノミネート6に残ったのは、ボルボの他にビー・エム・ダブリュー(BMW)のMINIクロスオーバー、アウディのQ2、FCAジャパンのアルファロメオ・ジュリア、プジョー・シトロエンのプジョー3008、プジョー・シトロエンのC3だった。

 これ以外にも輸入車の選考対象車は多く、VWのティグアンやポルシェのパナメーラ、ジャガー・ランドローバーのランドローバー・ディスカバリー、レンジローバー・ヴェラールにBMWの5シリーズ、アウディのQ5、A5/Sクーペ、スポーツバック、カブリオレ、メルセデス・ベンツのGLCクーペ、Sクラス、AMG GT/GTCロードスターなど。ベンツ、BMW、アウディなど、日本市場で勢いのある欧州車は、この1年で複数の新型車を日本国内にも投入しているのだ。

 米国車については、以前にトランプ米大統領が「東京でシボレーが走っているのを見ない」と発言して話題となったが、ゼネラルモーターズ(GM)ジャパンは、シボレー・カマロとキャデラックTX5クロスオーバーの新型車を日本市場投入している。今回、選考対象に入っていたが、残念ながら6ベストには入らなかった。

 結局、6ベストに残ったインポートカーの中では、ボルボのV90/V90クロスカントリーとBMWのMINIクロスオーバー、アウディのQ2の三つ巴で接戦だったが、最終的にボルボV90がインポートカーオブザイヤーの栄冠に輝いた格好だ。

 ボルボV90は、最近のボルボのクルマづくりの特徴であるが、共通の基本構造を用いながら、ボディバリエーションを広げて異なるサイズを揃えるという、多様な「新世代ボルボ」の第2弾として錬成度を増していることが評価された。

 米フォードの傘下を離れ、現在の親会社は中国の吉利汽車集団だが、クルマづくりについてはスウェーデン流のボルボの意向を尊重しており、ここへきてボルボのクルマは大きく変貌している。電動化政策でもポールスターブランドの展開、中国でのEVへの方向も注目されている。

技術部門はホンダのN-BOX軽量化

 テクノロジーオブザイヤーは、ホンダのN-BOXにおける軽量化が評価され受賞した。これは新型N-BOXの開発にあたって「軽量化」と「剛性」の両立という、いわば相反する面に取り組んで成功したものだ。

 車体骨格の47%と、従来から大幅に増やした高張力鋼板の採用とともに、超高張力鋼板を世界で初めて使うなど、プラットフォームを旧型より80kg軽量化した。

 スポットでなく、連結したシーム溶接やフォロア回りは高粘度接着剤を併用した面接合技術により、軽量化と高剛性を両立させた。軽量化は今後EV化が進んでも大きなテーマであり、注目される技術である。

特別賞は「名車のレストア・サービス」のマツダとボルボ・カー・ジャパン

 今回のRJCカーオブザイヤーでは、特別賞として「名車のレストア・サービス」が信任され、マツダとボルボ・カー・ジャパンが受賞した。これは、マツダによる「初代ロードスターのレストア・サービス事業」と、ボルボの「クラシックボルボ、リフレッシュプロジェクト」の活動が評価されたものだ。

 このレストア事業については、専門に行うレストア事業者もあるが、メーカーとして、あるいはインポーターとして取り組むことで、ともすれば耐久消費財として遺棄されがちな旧車に絶版部品の供給や修復サービスを提供することができる。クルマファンをフォローするだけでなく、日本の「自動車文化」の向上に寄与するものでもある。地道な活動だが最近、特に注目されている分野である。

 さらに、今回パーソンオブザイヤーとして、光岡自動車の光岡進会長が推薦され信任の上、受賞した。

 光岡進氏は、富山に本社を置く光岡自動車の創業者であり幾多の苦難を乗り越えて1996年に「ゼロワン」で型式認証を取得し、当時10番目の乗用車メーカーとして認知された。光岡自動車は今年で創業50周年の節目を迎えるが、職人のハンドメイドによる受注生産という独自の「光岡ブランド」を確立させた。

 数々の個性豊かなクルマを市場に提供し、今なお、現役会長として現場で活躍していること、最近のEVベンチャーの先駆けとして日本のクルマづくりに風穴をあけた人物である。

 このように、2018RJCカーオブザイヤーは、日産とスバルの問題で選考辞退もあったが、さまざまな角度から取り上げることにもなった。

 一方、COTY日本・カー・オブ・ザ・イヤーは、12月5日に最終選考となる。こちらはトヨタのカムリか、マツダのCX-5が有力とも見られているようだ。

 RJCではスイフトに次いでN-BOX、CX-5の順でダイハツのミライースも健闘したが、トヨタはカムリとC-HRが6ベストに入って票を食い合ってしまった。国産車がやや盛り上がりに欠けており、輸入車のボルボあたりがゴルフ以来のインポートカーのイヤーカーを受賞する可能性もあるようだ。

(佃モビリティ総研代表 佃義夫)

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