連敗に長谷部「割り切った戦い方を」
© photograph by Getty Images この連戦で酒井宏樹と浅野はプレー時間を伸ばした。ハリルホジッチ監督は彼らの潜在能力をさらに引き出せるか。
今回のベルギー戦、4年前の対戦と同様に、ミックスゾーンで選手たちが口にした言葉がある。
「よくコミュニケーションをとり、守備はうまくいった。あとは攻撃の精度。クラブに戻り、それぞれがレベルを上げていかなければならない」というものだった。
「ボールを奪ってからのパスとか、1つのパスとか、サイドの部分だとか、それは今に始まったことじゃないですけど。しっかりとブロックを作り、速攻というやり方をするときには、そういう攻撃の精度を上げていかないと、こういう結果になってしまう」
長谷部誠はこのように話した。
浅野、原口が自陣に押し込まれる時間帯が続いた。
ブロックをどこに作るのか? ディフェンスラインをどこに設定するのか? ハリルホジッチ監督は「それは自分が決めるのではなく、ゲームが決めること」と試合前日会見で語っていた。つまり、選手たちのゲームを読む力、連係にすべてはかかっていた。ブラジル戦で曖昧になってしまった点を改善することはできたと考えてもよいだろう。
「無理に(前から)いっても相手のフォーメーション的に難しい時間帯もあったので、いかない時間帯も長かったですけど、そこは計画通りで、行かなくていい、それでいいという話をしていたので。そこは使い分けながらやれていた」と浅野拓磨が振り返る。
しかし、浅野と逆サイドの原口元気が自陣に押し込まれる状態が長く続いたのも事実。日本が攻撃に転じるにしてもインサイドハーフの位置が低いため、迫力を出せない。1トップの大迫にボールが収まる場面も少なく、攻撃の厚さは生まれず、そのうえ、パスに精度を欠き、ボールロストという展開が数多く見られた。
相手に応じて守り方には違いがあるのかもしれない。ただ日本の堅守速攻というスタイルは、いわゆるポット1に入るであろう世界トップレベルとの対戦では、守ることで精いっぱい。この現実を目の当たりにしたのが、ベルギー戦だった。
「ある意味割り切った戦いをするということ」
長谷部はこうも話している。
「このチームは、強豪相手に戦うのは今回が初めてだった。W杯のグループリーグには間違いなく1チームか2チームはこのレベルの相手がいる。強豪相手に自分たちがやろうとしているサッカー、ある意味割り切った戦いをするということを、改めて再確認できた遠征だったと思う。たくさんの課題もありましたけど、様々なポジティブな面も見られた。これを続けていこうという確信は、手ごたえとしてはあるんじゃないですかね」
また長友も「僕らはこれをベースにやっていくしかない。11人みんなで必死に守って、ショートカウンターなりセットプレーで得点を取り、それで勝ち点をつかんでいくというのは、僕らの、今できる戦い方かなと思います」と語っている。
守備に奮闘した結果、攻撃時にパワーが残っていない。それは日本が世界で戦う際に常に背負う課題でもある。西野朗技術委員長はこう語っている。
「浅野や原口が引っ張られて(ポジションを)落とされるというのは、想定していた。実際によくディフェンスしてくれたが、そこからの攻撃で爆発的な力が出ない……そこは、両インサイドハーフに求められるところだし、最終ラインの長友や(酒井)宏樹が攻撃のサポートに行ければ、浅野や原口が活きる。もう少し彼らのディフェンスが軽減できれば、相手ゴール前でもう少し力強く、正確なプレーも生まれてくると思います」
今の日本に欲しいのは、ボールを奪ったあとの冷静さ。
そして、浅野は率直な想いを吐露した。
「欲を言えば、攻撃で力を存分に出したい。でも、チームと監督からの要求をやらないといけない。守備でも100%、攻撃でも100%、できることをやるだけかなと思います。ただ今日に関しては、ボールを失う回数が多かった。クオリティの高さを求めていかないと」
ただハリルホジッチ監督は、違う見解も口にしている。
「今日の試合、ものすごく可能性を感じた。守備はブロックを作れば、ある程度のチームに対してもボールが奪えることを証明した。これからは、ボールを奪ったあとの冷静さをトレーニングしなければならない。できるだけボールを前の局面に進めていく、つまり(相手の)背後へボールを導き出すことだ。良いチョイス、パスをするのが課題になる」
違いを生み出せる選手ばかり求めても……。
しかし、中盤の層は厚いとは言い難く、即世界レベルで対応できる選手はわずかだ。
現代表はアジア予選から通じて、個での打開に重きを置いてきた。アジアではそれで結果を手にすることができたが、世界の強豪国相手には、個では崩すことが難しいことも明確になった。それを改めて痛感したのか、指揮官は方向転換ともとれるニュアンスの言葉を残している。
「私の頭の中には『もう少し、ここを伸ばしたい』というアイデアはある。日本には、個人で違いを見せつける選手が足りないと時々感じることがある。違いを生み出せる選手、特に点を取るというところで、我々にはまだ足りない。ただ、それを求めてばかりいても仕方がないので、トップパフォーマンスの組織プレーで臨まなければならない」
日本の時間帯があっても、決定的な場面でやられる。
2連敗となった欧州遠征をどう受け止めるべきか。選手はそれぞれこう語っている。
「ベルギー戦は自分たちのゲームプラン通りに進んだと思いますが、あの1失点で間違いなく重いゲームになった。ただ変な話ですが、引き分けるよりも、1点とられて負けたことによって、感じることのほうが多いのかなと思います」(長谷部)
「南アフリカ大会のときは直前の合宿、試合も含めて全然ダメだったけれど、グループリーグを突破した。逆にブラジル大会は、親善試合で結果も出しているなかで、本大会では惨敗した。僕はその両方を経験している。もちろん、今がいい状態なのに越したことはないけれど、いい部分も悪い部分も冷静に受け止めている。W杯で結果を残すことがすべてだし、次へ繋げるための努力は明確に見えている」(長友)
敗戦という結果と向き合いながらも、ポジティブな面を見つけようとしている。
何より、西野技術委員長の言葉が最も的確だった。
「(ブラジルとベルギーは)間違いなく世界のトップ5であると思いますけど、テストマッチですから決して100%ではなかったと思います。一方で、我々は100%全力で戦ったと思います。この結果が今の日本のポジションだと確認できた。自分たちの時間帯もあったと思いますけど、決定的な場面でやられている……そういう差は感じました」
体験しないとわからないことは多いからこそ。
FIFAの規約変更やコンフェデレーションズカップ出場権を逃したことで、今回はアジア予選を突破するまでの間、他大陸との親善試合を組めなかった。ただ強豪国との対戦を体感できる機会が少ないこと、そして強豪との差が小さくないことは当初から理解していたことだろう。だからこそ、今回の2連敗をより謙虚に受け入れることが鍵だと思う。
日本代表にとって12月1日に行われる本大会の組合せ抽選会が、本番を大きく占う最初の機会となる。どんなチームと同組になるのかだけでなく、対戦順も大きな影響をもたらすに違いない。組み合わせいかんでは、グループリーグ突破に強い期待を抱ける可能性だってなくはない。
体験しないとわからないことは多い。何度繰り返した言葉よりも、1度の実体験で人は学ぶことができる。そういう意味では選手だけでなく、ハリルホジッチ監督も学ぶことの多い遠征だったのではないだろうか?
そういう意味での「LESSON1」になればよい。