宇宙空間でロボが衛星を組み立て修理

 昨今、ロボットを活用した工場の自動化などが注目を浴びているが、宇宙業界では宇宙空間において衛星などの宇宙構造物を組み立て、点検、修理するサービスが始まりつつある。今回はその最前線を紹介したい。

●宇宙空間で衛星を点検・修理・組み立て

 一般的に衛星などの宇宙構造物は地上で組み立てが行われ、ロケットで宇宙空間へと輸送して運用されている。他方で故障が起きるとその修理は困難を極める。また、大型衛星を打ち上げるためには大型ロケットが必要となり、輸送コストもかかる、宇宙飛行士が関わる場合にはその安全面に問題があるなど課題は多い。

 しかしながら、ロボット技術を活用して、宇宙空間において衛星などの宇宙構造物の点検や修理を行い、寿命延長や機能強化を実現したり、あるいは宇宙空間で組み立てを行うことで、ロケットでは輸送が困難な大型構造物を建設できたりという技術的なブレークスルーが起きつつあるのだ。

 注目を集める取り組みが、NASA(米航空宇宙局)が民間企業と共同で2年間行なってきた「In-space Robotic Manufacturing and Assembly」プロジェクトだ。同プロジェクトでは宇宙空間上での巨大構造物の製造、組み立て、修理を可能にする画期的な技術を、将来の軌道上実証を見据えて、まずは地上で実証することが目的となっており、これまで3社が参加してきた。

●宇宙空間において3Dプリンタで部品を作る

 1社目がベンチャー企業の米Made In Spaceだ。カリフォルニア州シリコンバレーにあるNASAエームズ研究所に拠点を構える同社は、国際宇宙ステーション用に3Dプリンタを製造し、人類史上初めて宇宙空間での3Dプリンティングに成功した企業として有名だ。

 商業的な宇宙利用時代を切り開くための製造技術革新に挑んできた同社が現在進めているのが「Archinaut」と名付けられた、人工衛星や宇宙船などの大型構造物を宇宙空間上で組み上げるコンセプトであり、日本でも3Dプリンタの登場とともに話題になっているAdditive Manufacturing(付加製造)手法を用いたものだ。

 宇宙空間で3Dプリンタが部品を製造、それをロボットアームで組み上げて構造物を作っていく。これまで行われた地上実証では、宇宙空間の環境に耐えられる3Dプリンタの設計と製造をMade In Spaceが行い、製造された部品を組み立てるためのロボットアームは米Oceaneering Space Systems(OSS)、システム全体は航空宇宙大手の米Northrop Grummanが担当している。

●ロボットアームで衛星を組み立て

 2社目が航空宇宙大手の米Space Systems Loral(SSL)が推進する軌道上での静止衛星組み立てプログラム「Dragonfly」だ。Dragonflyは長さ3.5メートルのロボットアームを持つシステムで、アームの先端で物体を握ったり、移動したり、操作することが可能だ。具体的には衛星アンテナの設置や衛星自体の組み立てができる。

 2017年9月にはカリフォルニア州にある同社施設において実証試験として、模擬静止衛星へのアンテナ反射器の設置などが行われた。今後、18年中にはさらなる実証を行い、アーム自体の滑らかな動作や、精密な調節ができるようにするなど作業過程と性能の改良を目指す。将来的には3Dプリンティング技術も統合することで、必要に応じて新しいアンテナや反射器などを製造する機能も確保し、衛星が損傷を受けたり、寿命を終えるときにはエンジニアが遠隔操作で部品の除去、リサイクル、入れ替えをできることを目指すという。

 3社目が、同じく航空宇宙大手の米Orbital ATKが進める軌道上でのロボットによる組み立てサービスのための商業インフラ構築プロジェクト「Commercial Infrastructure for Robotic Assembly and Services (CIRAS)」だ。同社ではプロジェクトの核となる組み立てロボット「NASA Intelligent Jigging and Assembly Robot(NINJAR) 2.0」の地上実証を今年8月に行った。

 具体的には同ロボットを使い、バラバラの支柱および結節点部材を使って立方体のトラス(部材の節点がピン結合なっており、各部材が三角形に組まれた骨組みの構造物)を組み立てるというものだ。NASAのプロジェクトマネージャーであるチャールズ・テイラー氏によると「実証実験では全10回とも成功基準をクリアしただけでなく、来年想定されているより厳しい地上実証の成功基準にもかなり近づいた」とのことだ。

●19年には商業サービスもスタート

 こうした要素技術の開発とともに、既に商業サービスに向けた動きも始まっているのだ。SSLの親会社であるの米SSL MDA Holdings(カナダの情報通信ソリューションプロバイダー企業MDAの米国拠点)は今後軌道上サービスを行うために米Space Infrastructure Servicesを今年6月に設立済みだ。

 具体的には、衛星運用事業者に対して、保有する衛星の点検修理や推進剤補充による寿命延長、部品交換等による衛星の機能強化、質量やサイズ制限の問題で打ち上げられない大型衛星の軌道上での部分的な組み立てなどをサービス提供する予定だ。

 同社は最初の寿命延長ミッションおよび複数の追加ミッションを実施する契約をルクセンブルクの衛星通信大手企業SESと締結した。最初の商業顧客となった同社CTO(最高技術責任者)のマーティン・ハーウェル氏は「軌道上サービスは通信衛星の次世代アーキテクチャの根幹的要素になり得る」と語っている。

 また、先述のOrbital ATKも、軌道上の静止衛星の運用寿命延長サービスを検討しており、そのための専用機「Mission Extension Vehicle(MEV)」の初号機を18年に打ち上げ、その後、軌道上実証を実施。19年第2四半期には衛星通信大手Intelsatの衛星に対して、5年間の衛星寿命延長サービスを行うという。MEV自体の寿命は15年間を想定しており、その間に多数の寿命延長サービスなどを行う予定だ。

 このように、宇宙空間におけるロボットを使った構造物の製造、組み立て、点検、修理等の技術が急速に進展している。今後の動向に注目したい。

(石田真康)

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