ホークスの強さ支える天才型の名脇役

8月15日のオリックス戦では先制の2点三塁打など2安打3打点と活躍し、チームを勝利に導いた。 © photograph by Kyodo News 8月15日のオリックス戦では先制の2点三塁打など2安打3打点と活躍し、チームを勝利に導いた。

 駐車場へと続くヤフオクドームの選手通路。その日の「陰のヒーロー」がやってきた。だが、取材する記者は筆者以外に誰もいなかった。

 8月12日、ホークスは1-0の接戦を制した。お立ち台に上がったのは育成出身史上初の2年連続2桁勝利を決めた千賀滉大と、決勝タイムリーを放ったデスパイネ。だが、両チームで唯一ホームを踏んだ明石健志の活躍も見逃せなかったのだ。

 1番打者で出場して4打席のうち3度出塁。1安打と2四球だ。「得点した2打席目もそうだったけど、初回も含めてイニングの先頭が3度もありましたからね」。リードオフマンとしての役割を全うし、してやったりの表情を浮かべてみせた。

 ただ、それは心躍る笑顔というより安堵感に溢れていた。

「これでまた生き延びることが出来たかな」

 この夏、明石は出場機会を増やしている。セカンドのほか内川聖一の離脱後はファーストを守ることも少なくない。7月21日のマリーンズ戦では決勝タイムリーを放って、この日は1人でヒーローインタビューを受けた。

「僕はレギュラーが確約された立場じゃない。“何か”を起こさないと、明日は出番がなくなっちゃう」

「打撃の柔らかさとミート力は12球団トップクラス」

 今年がプロ14年目。'12年に135試合、'15年に115試合に出場した以外はシーズン3桁の試合出場はない。それでもプロの世界で長く飯を食っている。そんな明石についてチームの選手や首脳陣、OB、スタッフの誰もが同じように評する。

 アイツは天才だ、と。

 その中の1人、藤本博史打撃コーチの弁だ。

「打撃の柔らかさとミート力は12球団トップクラスじゃないかな。それにタイミングの取り方など、とにかく技術がズバ抜けて高い。だから若い頃からエース級のピッチャーをよく打ったやろ。いいピッチャーを打つのは裏付けがないと。偶然じゃ打てないよ」

かつては岩隈から5打数5安打の固め打ちも。

 明石は数少なくなった福岡ダイエー時代を知る男だ。そのユニフォームを着て一軍でもプレーしている。山梨学院大附属高校から入団した1年目のことだった。甲子園出場もなく、ドラフト4巡目でプロ入りした華奢なルーキーが5月に異例の早さで一軍デビューを果たし、代打でのプロ初打席でベテランの川尻哲郎(近鉄)から三塁打を放ったのだった。

 また、一軍で出番が増え始めた'09年には当時イーグルスの岩隈久志から5打数5安打、2つの三塁打をマークしたこともある。

 31歳を迎えた現在でも引き締まった肉体から想像できる通り、スピード感あふれるプレーが持ち味。身のこなしも軽く「バク宙は今でも得意」という。自己管理の賜物である。

日本一直後、ビールかけの真っ最中にグルタミンを。

 これぞ、プロフェッショナル。その姿を目撃したのは3年前のことだった。

 '14年の日本シリーズでのことだ。ホークスはタイガースを4勝1敗で下して、日本一に輝いた。西岡剛の守備妨害で決着するという珍しいラストシーンを覚えているファンも多いと思うが、あの時にファーストを守っていて打球を処理したのが明石だった。

 それはともかく、日本一決定時のグラウンドでのことだ。日本一を決めた瞬間、文字で表現するのが難しいほどのお祭り騒ぎになる。プロ野球選手はみな、この瞬間のために自主トレやキャンプで日々鍛錬し、長いシーズンを戦い抜くのだから当然だ。

 グラウンドから引き揚げてもテンションそのままに、ロッカールームからは絶えず歓喜の声が響き渡ってきた。当時選手会長の松田宣浩などはビールかけの乾杯の発声練習をニコニコ顔でやっていた。

 その真っ最中に、明石はプラスチックのカップを片手に選手サロンにやってきた。疲労回復に効果があるグルタミンを水で溶かしゴクゴクと飲み干し、冷静な顔でカップを洗ってまたロッカーに戻っていったのである。

「コンビニ弁当を食べた記憶がない。だって油っこい」

 それは日頃の試合後と同じ光景だった。ただ、この日は日本一になった直後である。翌日から試合はないし、何もかもを忘れて喜べる貴重な時間のはずなのに、明石はいつもと変わらなかった。

「ありましたね(笑)。僕の中じゃ習慣みたいなものだから、やらないと気持ち悪いんですよ」

 また、ある日は「コンビニ弁当を食べた記憶がない。だって油っこいでしょ」と語った。

「ピザもここ10年は口にしていないですね。家で奥さんに作ってもらうゴハンが一番美味しいし体にいい」

体調管理を徹底する明石家の食卓には8~9品が並ぶ。

 明石家の食卓にはいつも8~9品ほどが必ず並ぶ。生野菜に温野菜。きんぴらゴボウなどの根菜やひじきなどの煮物。酢の物。納豆は飽きないようにイカ納豆などひと工夫がされてある。それにメイン料理、ご飯、汁物だ。

 コンディション管理を徹底するようになった転機は自己最多出場をした'12年シーズンにあったという。

「前年のオフにムネ(川崎宗則)さんがアメリカに行ったこともあって、シーズンの最初はショートを守ることが多かった。シーズンの途中からは本多(雄一)さんや松田さんの怪我もあり、セカンドもサードも守りました。ずっと試合に出続けるのも初めてだったし、違うポジションを守るとリズムの作り方が難しくて、シーズンの後半はひどく失速してしまった。いくら高い技術があってもコンディションを整えなきゃ力を発揮することはできない。強い体もそうだけど、疲れにくい体、疲れが抜けやすい体を目指すようになりました」

“何か”を起こすのも偶然では叶わないから。

 この考え方、日本復帰後に「練習しすぎない」をとにかく提唱する川崎とすごく似ている。

「ムネさんともそういう話をしますよ。ただ、僕の方が先に気づいてましたからねって言いました(笑)。あと工藤(公康)監督も『コンディショニング』って言葉をいつも使われます。やっぱりそうだよなと改めて感じました」

 そして、今、確かに実感する。

「体が強くなったというか、若い頃よりも今の方が、疲れが抜けやすくなってきたと思います。これまでたくさんの怪我はあったけど、今は特に痛いところはない」

 “何か”を起こすのも偶然では叶わない。最善の準備を、さも当たり前に続ける。

 決して派手さはないバイプレーヤーだが、こんな選手がいるからホークスは強いチームであり続けるのだと納得させられる。

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